拝啓 半導体エンジニアさま(46) ―― 局所最適の「小さなループ」から,価値の増大につながる「大きなループ」へ

ジョゼフ半月

tag: 半導体

コラム 2013年3月 5日

 「卵が先か,ニワトリが先か」という言葉がよく使われますが,技術が進化していく過程でも,そういう例にたびたび出会います.一種のフィードバック・ループが働く中で,技術が継続的に改善・発展していくためかもしれません.

 

●HowとWhatが相互に刺激しあって進化

 半導体業界で言えば,設計ツールの進化と設計対象であるチップの進化などは,そのような例の一つだと思います.すなわち,従来とは一線を画す革新的なツールが登場し,それまで出来なかったような設計が可能になり,設計技術が進展してより大規模な設計を行わなければならなくなり,それがまた新たなツールの発展を促す,といったループです.

 これは,How(どうやって作る)とWhat(何を作る)という二つの要素を巻き込んだループです.生産においても,生産技術の進化と製造装置の進化などはそのような関係に当たります.HowとWhatが相互に刺激しあって進化していく,というのが良い状態の定番です.ちょっと陳腐な言い方ですが,「車の両輪」とも言えます.どちらが欠けても成り立たない,相互依存の関係が成立しています.

 かつて日本の半導体が世界一だと思われていた時代には,半導体の生産技術も製造装置も文句なく世界一だったように思います.しかし日本が遅れをとっている昨今では,以前はトップ・クラスだった製造装置もその座が揺らいでいるようです.まして,設計ツールは当時から米国主導だったわけで,それと対になる設計技術について日本が米国を凌駕(りょうが)していたわけではありません.

 日本には,今でも優秀な設計ツール・ベンダはありますし,実力のある設計チームも存在します.しかし,世界を相手に優位にやれている,とは言い難いでしょう.そして相互依存の関係は,下手をすると依存したままいっしょに低落していく関係になりかねません.

 

●狭い世界の中だけの改善・改良ループを回していないか?

 このごろ,そのような寂しい現状になってしまったのは,「ループを小さく回しすぎた」のが一因ではないか,と思うようになりました.一例を挙げれば,ひと昔前まで多かった(今ではほとんどなくなっている)「社内独自の」ツールやデータ・フォーマットといった類のものです.設計者もツールの開発者も,それに依存して進化のループを回していませんでしたか?

 別に「独自」であることが悪いとは思わないのですが,ひっくり返して言うと「流布させて業界標準にしたい,というまでの気持ちはない」ということでもあります.それでもそのツールで,他に類を見ない突出した設計が出来ていれば,離れ小島のガラパゴス的な進化のループであっても問題ないでしょう.しかし,多くの局所最適のループではそういうわけには行かず,結局のところ,広い世界で淘汰されて生き残った強力なツールや設計に負けてしまうように思われます.

 「独自ツールなど,昔の話だ」,「今は業界標準ツールばかりだ」と言われるかもしれまん.しかし,よくよく周りを見回してみると,設計資産の継承の名のもとに,お作法や伝承,秘伝のたぐいがいっぱい残っていませんか? 良い設計を行うために必要な作法だ,考え方だ,といっても,実はその良い設計そのものが,独自のHow(どうやって作る)を継承することを目的としていませんか?

 そして今日も,そのような「作法」を守るためにツールを作ったり,使ったりして,スケジュールにきゅうきゅうとしながら,小さいループを必死に回しているわけです.スケジュールは守られ,個々の成果もそれなりに上がっていくように見えます.しかし結局のところ,狭い世界の中だけで回っている改善・改良のループです.

 

●外から評価される「価値の増大」に注力

 「作法」なりなんなりが脈々と受け継がれている間は良いのですが,事業統合や合併,買収といった事態に至ると,結局,外から見た価値だけが抽出されることになります.その際,多くの場合は「伝承」していることそのものには積極的な価値が見いだされないように思います.Whatの最後のところだけが取り上げられ,それに至るHowの部分,おそらく多大な時間をかけ,いろいろと工夫して積み上げてきたはずのものは雲散霧消ということになります.そうなると,それまでの努力は内輪の価値の継承のために使われただけで,外から評価されるような価値にはつながっていなかったのだ,ということになってしまいます.

 こうした労力を,内輪の価値の継承ではなく,外から評価されるような価値の増大に使えていたら,どんなにかすごいものが出来たのではないかと思うのですが,どうでしょう? 当然そのためには,Howの側もWhatの側も内輪の価値観に閉じこもるのではなく,「大きなループを回す」という意志を継続的に働かせ続けなければならないと思います.

 

 

ジョゼフ・はんげつ

 

 

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