拝啓 半導体エンジニアさま(39) ―― 相次ぐ国内メーカの工場売却報道,その背景にある動向を考える

ジョゼフ半月

tag: 半導体

コラム 2012年7月30日

 富士通セミコンダクターが三重工場を売りに出す,という話がニュースになりました.ルネサス エレクトロニクスが多数の工場を整理する,という話と比べると単なる"一工場"の話ではありますが,三重工場は富士通セミコンダクターにとっては主力工場のはずですから,ファブレス化への大きな布石と考えられます.そして,まだ決まったわけではないようですが,売却先の候補として名前が挙がっているのは,またしてもTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company Ltd.)です.

 

●なぜ,売却先としてTSMCの名前が挙がるのか?

 「またしても」と言ったのは,ルネサスの一連の報道においても,鶴岡工場の売却先としてTSMCの名前が取りざたされているからです.もっともルネサスの場合は,TSMC側がそれを否定した,というニュースも流れていましたが....

 売却先としてTSMCが一番に挙げられる理由は,世界最大のファウンドリ会社としての規模や資金力を有しているから,ということだけではないと思います.ルネサス エレクトロニクスにしろ,富士通セミコンダクターにしろ,すでにTSMCとの間に取引関係があり,その流れの中で工場売却後も現行製品などの調達をスムーズに継続できるのではないか,という考えがあってのことだと想像します.売却とはいっても,工場そのもののオペレーションは継続しつつ,看板を掛けかえるような形態であって,工場そのものを閉じて,使えそうな製造装置を売り払って,という話ではありません.

 実際,オペレーションを継続しつつ,看板を掛けかえるような工場の売却は,いくつも先例があります.思いつきのような根拠のない話でなければ,条件によってはビジネスとして成り立つこともある話だと認識しています.けれども,この手の話が出るたびに思うのは,「自社単独で採算をとっていくのが難しい工場だから売却するのに,なぜ他社(多くは海外の半導体メーカ)に売却すると採算が取れるようになるのか」という素人じみた疑問です.買い手にしても,採算が計算できない物件を買収したりはしないでしょう.売り手にしても,そのあたりのメリットをアピールできなければ,買い手と話ができないでしょう.

 

●売却すると採算が取れるようになるその根拠は?

 工場もいろいろ,会社もいろいろなので,一律に論じることはできない,ということは分かっています.けれども,「採算が取れるようになるはず」の背景を考えると,現在の日本の半導体産業の抱える問題点が明らかになるように思われます.

 まず,多くのケースで言われるのは,設備産業である半導体工場の重い固定費の負担と,世代ごとに高価になっていく製造装置への投資を自社では継続できない,ということだとと思います.確かに,先端プロセスに対応した製造装置は非常に高価であり,今やごく限られた企業以外には手が出せないところまで来ています.ファウンドリ最大手のTSMCは,先端プロセスに追随できる限られた1社だと思います.しかし,先端的な製造装置は最新鋭の工場に入れるもので,いくら良い工場であっても既に出来上がっている古い工場に入れていくものではない,と思います.出来上がっている工場に手直しの範囲でできる改良は施すでしょうが,根本的に新しくする,というのとは別の話です.工場単独での採算ということであれば,古い工場ほど原価償却が終わって固定費は軽くなっているはずです.先端プロセスへ投資できないという話は,工場の採算の話とはちょっと違うように思います.

 次に固定費に続く変動費,つまり材料やら,エネルギーやら,労働やら,日々のオペレーションやらに投入されていく経費があります.確かに材料を大量購入する会社の傘下に入るほうがいろいろと安く調達できそうな気もします.しかし基本,日本の同じ場所に存在するわけですから,看板を掛け替えたからといってそれほど劇的に変わるとも思えません.

 するとやはり問題になるのは,稼働率と利益率のように思われます.それが悪いので今のままではやっていけない,ということになるかと想像されます.自社では十分な稼働率を確保できるだけの量をラインに流せない.その結果,製品の原価が上がり,利益が出せない.あるいは,稼働率は十分でも,そもそも流れている製品の利益率が低すぎて利益が出せない,ということです.そうであれば,看板を替えて,元の「自社」製品に加えて「他社」製品も流すようにして稼働率を稼げば,まだまだ工場として利益が出せるのではないかとか,より付加価値の高い製品を流すことができれば十分ペイするとか,シナリオの書きようがあると思います.しかし,これは工場の採算性の問題というよりも,製品ラインナップの問題であるように思えます.

 

●工場と製品開発を二つに割って,それぞれが生き残りを模索

 時々,米国系の半導体メーカで,先端のディジタルLSIとは無縁のタイプの会社(その多くはアナログ系だったり,パワー系だったり)が,日本の古い半導体工場を買収して収益を上げている,といったうわさを聞きます.そのようなケースでは,看板を掛け替えてラインに流す製品を替えれば,十分やれるということでしょう.逆に言えば,工場が売られてしまう理由は,工場の中というより製品の側にある,ということになります.すると売られてしまった工場より,ファブレス化する製品側の方が問題の根は深いように思われてなりません.

 一方,工場を売ろうと思ったのだけれど買い手が付かない,というケースも考えられます.円高に電力不足と,いくら優秀な技術者がそろっているといってもカバーしきれない昨今です.いろいろとシナリオを書いても,結局のところメリットが出せなければ買い手は付かないでしょう.このケースでは,工場そのものの採算性に可能性を見いだすことができない,ということになってしまうので,装置などを叩き売ってオペレーションそのものを閉じるしかなくなります.

 長いこと,「工場」と「製品開発」の二人三脚でやってきた日本の半導体産業ですが,二つに割って,それぞれが生き残りを模索しなければならない状況になってしまったようです.しかし,工場の側にも製品開発の側にも課題は多く,単にバラバラにしたら生き残れるというものでもなさそうです.こういう時こそ必要なのが「もうかる製品の開発」だとは思うのですが,そんな展望が描ける日は来るのでしょうか?

 

ジョゼフ・はんげつ


 

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