組み込み向け3DグラフィックスAPIの最新版「OpenGL ES 3.0」が登場 ―― デスクトップ向けグラフィックスを猛追する組み込みグラフィックス
Column A グラフィックスAPIを策定しているKhronos Group
OpenGLやOpenGL ES,OpenMAXなど,グラフィックス・メディア関連APIを策定している団体としてKhronos Groupの名前を見かけるけど,団体の実態がよく分からない,という意見をよく聞きます.
著者自身,Khronos Group内にあるOpenGL ES,OpenCLなどのワーキング・グループに所属し,実際の仕様策定や議論に参加しています.また,ときどきKhronos Group主催のイベントで紹介もしていますが,今一度,ここでどのような団体なのかを紹介します.
●メンバ企業のレベルは3階層
まず,Khronos Groupは,グラフィックス・メディア関連の標準化に興味があるGPUベンダ,SoCベンダ,機器メーカ(セット・ベンダ),ミドルウェア・ベンダ,ツール・ベンダなどが参加し,API仕様ごとのワーキング・グループに分かれて,仕様策定作業を行っています(図A-1).
図A-1 Khronos Groupのメンバ企業
出典:SIGGRAPH 2012 Khronos media session資料
Khronos Groupの運営は,会員種別の最上位であるプロモータ・メンバと呼ばれるメンバ企業(米国Apple社,米国NVIDIA社,米国AMD社,英国ARM社,フィンランドNokia社など)が予算管理やワーキン・グループの設置,API仕様の最終承認などを行っています.
次に,プロモータ・メンバの下のレベルとして,コントリビュータ・レベルのメンバ企業が存在します.このレベルのメンバ企業は,各APIのワーキング・グループへの参加,およびもろもろの仕様決定に対する投票を行うことができます.ちなみに,興味深い点として実際に仕様を策定するワーキング・グループ内における投票権の数は,プロモータ・メンバ,コントリビュータ・レベル・メンバ,会社の大小にかかわらず1社1票となっており,小さな会社でも意見を反映できる体制を採っています.
なお,さらに下のレベルのメンバとしてアダプタ・レベル・メンバがいます.このレベルは仕様の議論には参加できませんが,認証テスト後の商標やロゴを使用できるメンバとなります.
●すべてのAPIはロイヤリティ・フリー
各APIの策定にあたっては,ワーキング・グループで議論が行われ,仕様書の作成と認証テストの開発が進められます.仕様策定後は,プロモータ・メンバで構成されるボード(理事会)で承認されたあと,発表と公開が行われます.
ちなみに,現在,活動中のワーキング・グループは次の通りです.
- OpenCL――コンピューティング(主にヘテロジニアス環境)に関するAPI
- OpenGL――デスクトップ向け3DグラフィックスAPI
- OpenGL ES――組み込み向け3DグラフィックスAPI
- WebGL――ブラウザ向け3DグラフィックスAPI
- WebCL――ブラウザ向けコンピューティング(主にヘテロジニアス環境)に関するAPI
- COLLADA――3Dグラフィックス・オーサリング・ツール向けアセット標準フォーマット
- OpenVG――ベクタ・フラフィックスAPI
- OpenSL ES――組み込み向けサウンドAPI
- OpenMAX AL/IL――ビデオ,オーディオなどのメディア向けAPI
- EGL――API間をつなぐプラットフォームAPI
- StreamInput――入力デバイス向けAPI
- Vision――コンピュータ・ビジョン向けAPI (旧称OpenCV)
このように,グラフィックス,メディア・アクセラレーション・ハードウェア,ソフトウェアの間をブリッジするインターフェース(API)仕様の策定を行うワーキング・グループが設置されています.近年,Khronos Groupでは"Software to Silicon"というキャッチフレーズを掲げて活動しています.
また,すべてのAPIはロイヤリティ・フリーで公開しており,メンバ企業が保有しているAPI上に定義されている技術の特許については,メンバ企業からの無償提供が前提となっています.その昔,グラフィックス関連の特許紛争が頻繁に起こった結果,市場がしばしば混乱した過去の反省から,このような枠組みが設定されているようです.
おおぶち・えいさく
(株)ディジタルメディアプロフェッショナル
取締役 開発部長