組み込み用途にはヘテロジニアスなマルチコアが向いている ―― 「ET アワード2011」受賞企業インタビュー(1) トプスシステムズ

Tech Village編集部

tag: 組み込み 半導体

インタビュー 2011年11月18日

組み込み技術の総合展示会であるEmbbedded Technlogy 2011は,技術的効果,将来性の示唆,経済的効果といった観点で,出展企業の中から5社を選出し,「ETアワード2011」として表彰した.ETアワード2011 ハードウェア分野の優秀賞はトプスシステムズが受賞した.トプスシステムズは,1999年に設立されたマイクロプロセッサ技術の研究開発会社である.主に,機器メーカの仕様に合わせたヘテロジニアス・マルチコア・プロセッサIPを提供している.ここでは,同社 代表取締役社長である松本 祐教氏(写真1)に,今回の受賞対象となったエネルギー効率の高いマルチコア・プロセッサ「TOPSTREAM」について話をうかがった.

 

写真1 トプスシステムズ 代表取締役社長である松本 祐教氏

 

―― ETアワード2011ハードウェア分野の優秀賞を受賞した製品の概要を教えてください.

松本氏:受賞した「TOPSTREAM」(写真2)は,エネルギー効率の高いヘテロジニアスなマルチコア・プロセッサのIPコアです.高性能と低消費電力の両立を目指して開発しました.異種のプロセッサ・コアを組み合わせて実現しており,現在は,8~9個のチップでシステムを構成する場合が増えています.

 

写真2 TOPSTREAMについての展示

 

―― 高いエネルギー効率はどのような技術で実現しているのでしょうか.

松本氏:高いエネルギー効率を実現するために,プロセッサの処理に必要なクロック・サイクル数を四つの方法で削減しています.

 まず,一つ目として,シングル・プロセッサ上で動いているソフトウェアを分割して並列化します.二つ目に,メモリ・アクセスの隠ぺいを行います.通常,プロセッサの動作でメモリ・アクセスに費やす割合は約40%と言われています.このメモリ・アクセスを演算処理と並行に行うことがエネルギー効率を引き上げることにつながります.具体的には,メモリ・アクセスと演算処理を1本のパイプラインの中で同時に行います.三つ目にメモリ・アクセスを削減します.通常のプロセッサ・コア間の通信はメモリを介して行いますが,TOPSTREAMではレジスタ・バンクを共有することで直接データをやりとりします.四つ目に,演算サイクルの削減を行います.分割し,並列化したソフトウェアに対して,必要に応じて命令の複合化を行います.これにより異種のプロセッサ・コア(ヘテロジニアス・マルチコア)を構成します.

 

―― この技術は,どのような市場を対象としているのでしょう.

松本氏:現在,考えている市場は大きく三つあります.高性能を必要とする画像処理,車載機器などに利用される認識処理,それとスマートフォンの市場です.

 高性能を必要とする画像処理の分野では,コンピュータ・グラフィックスのレンダリング・システム(光の映り込みや影響をリアルに再現する)で800FLOPS(Floating Point Number Operations Per Second)の演算処理を必要とするシステムを9チップ(73プロセッサ・コア)で実現しています.もしこの処理を現在のGPU(Graphics Processing Unit)で実現すると,1万個のGPUが必要になります.この用途では,トヨタ自動車に採用されました.

 また,車載カメラによる走行レーンや車両,歩行者の認識処理への応用にも期待しています.スマートフォンについては,現在の AndroidはJavaアプリケーションを実行する際のCPUへの負荷が大きく,動作がまだ遅いと言われています.トプスシステムズは,経済産業省の戦略的基盤技術高度化支援事業として,産業技術総合研究所と共同でTOPSTREAMに最適化したAndroid(Ultra-Android)を開発しています.

 

―― TOPSTREAMを開発しよう思ったきっかけを教えてください.

松本氏:組み込みシステムを見ていると,要件定義や仕様などがアプリケーションによってさまざまなので,「組み込みプロセッサにはヘテロジニアスなマルチコアが向いている」と思いました. 2001年ころからTOPSTREAMを構想して開発しましたが,当時はまだ組み込みシステムへのマルチコア利用は検討されていませんでした.現在は,引き合いが多くなってきました.

 

―― 貴社では今後,どのような製品の開発に力を入れていきますか.

松本氏:今後の方向性は,二つあります.一つは,組み込み向け超低消費電力のメニー・コアです.もう一つは,1パッケージ内に異種チップをスタックするシステム・イン・パーッケージ(SiP)の技術です.

 メニー・コアについては,SMYLEと呼ぶプロジェクトが進んでいます.先に紹介したレンダリング・システムは,プロセッサ・コアの数を考えると,メニー・コアと言ってもおかしくありません.そこで,仮想アクセラレータ(アプリケーションに合わせて,任意の数のCPUコアを組み合わせ,最適な構成で処理を実行するアクセラレータ・ブロック)をベースとするメニー・コアの研究を,大学の若手研究者やベンチャ企業といっしょに進めています.

 一方,TOPSTREAMを実装したチップは低消費電力のため,異種チップをスタックしても熱による信頼性の低下が生じにくいと言えます.そこで,異種チップ間を貫通ビアで接続し,一つのパッケージに収めることを考えています.また,異種チップ間の通信プロトコルを標準化するコンソーシアムを設立しようと考えています.

 

―― ETアワード2011を受賞して,何か変わりましたか?

松本氏:昨年まではEDSFairに出展していましたが,今年初めてETに出展しました.受賞の発表後,知人や関係者から思ったよりも多くのお祝いの連絡が入り,大変光栄に感じています.また,受賞製品ということで,多くの来場者の方にブースへ足を運んでいただきました.

 

ETアワード2011 審査委員のコメント
 本技術は,1桁以上の高速化・低消費電力を可能にすることを目的に,異なるアーキテクチャのMPUコアを複数搭載できるヘテロジニアスなマルチコア・プロセッサIPにより,性能・機能・コストといったシステム要件を満たすことを可能にする技術である.特に,低いクロック周波数でも所望する性能を実現できるようになり,今後拡大が予想されるスマートフォン,タブレットなどへの応用が期待できる.

http://www.jasa.or.jp/et/ET2011/event/etaward.html

 

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