デバイス古今東西(37) ―― 「ユニバーサル(万能)」と呼ばれる次世代メモリReRAMの開発動向

山本 靖

tag: 半導体

コラム 2012年5月25日

 ここでは,ReRAM(Resistance Random Access Memory;抵抗変化式メモリ)の開発動向について述べます.多くの大手半導体企業,そしてベンチャ企業がその実用化に向けて活発に研究・開発を進めています.ReRAMはその単純な構造ゆえに,さまざまな課題がまだ残っています.例えば,「最適なメモリ・セルに対する新素材は何か」,「材料系の均一性をいかに制御するか」,「歩留まりや信頼性をどうやって向上させるか」などです.最適な材料の発見に向けて数多くの試行錯誤的な検証,ならびに検証に要する時間を短縮するための研究が行われています.

 

●エルピーダメモリが開発に成功

 すでに会社更生手続きを進めていたエルピーダメモリは,2012年5月10日,米国Micron Technology社がスポンサとなり,エルピーダメモリを支援する方向で交渉を始めると発表しました(1).「Micron社がエルピーダメモリの買収を決断した理由の一つは,実用化が迫る次世代メモリの技術を手に入れたいと考えたから」,「(DRAMやフラッシュROMの)次世代メモリは既存のメモリに置き換わる形で2015年ころから普及し,市場規模は現在の約1.5倍の10兆円になると期待される」,「Micron社が注目したのはエルピーダメモリが注力してきたReRAMという技術だった」(2),などと報道されています.エルピーダメモリはDRAMの開発・設計・製造・販売を行っている企業ですが,ReRAM開発の成功を発表しています.エルピーダメモリが破たんする前の2012年1月24日のことです.

 メモリには,揮発性メモリと不揮発性メモリの2種類があります.電源を切ったときに記憶したデータが失われるのが揮発性メモリ,失われないのが不揮発性メモリです.ReRAMは不揮発性メモリの一種で,データの読み書きが高速,かつ消費電力が少ないのが特徴です.これは,揮発性メモリの代表であるDRAMと,不揮発性メモリの代表であるフラッシュROMの両方のメリットを兼ね備えている,と言うこともできます(3).その意味で,ReRAMを「ユニバーサル・メモリ(万能メモリ)」と呼ぶ人もいます.

 

●「ユニバーサル(万能)」と呼ばれるゆえん

 揮発性メモリには,SRAMとDRAMがあります.SRAMのメモリ・セル(単一の記憶素子)はフリップフロップなどの順序回路を用いてデータを格納し,読み出しと書き込みを行います.通常,データを格納する回路は四つのトランジスタ(4T)で構成され,読み出しと書き込みは2トランジスタ(2T)により実現します(合計6T).一方,DRAMのメモリ・セルは一つのトランジスタと一つのキャパシタ(1T1C)から構成されます.メモリ・セル当たりのトランジスタ数が少ないほど個々のセルを小さくできることを考えると,SRAMよりDRAMのほうが低コストで実現できることになります.そして,チップ全体ではより大きな容量のデータを格納できます.ただし,データの出し入れの速度はDRAMよりSRAMの方が高速です.つまり,SRAMとDRAMは容量とアクセス速度で一長一短があります.

 不揮発性メモリには,EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)とフラッシュROMがあります.フラッシュROMの場合,1回保持された電荷は何もしなければ10年以上そのままです.また,100万回程度の再書き込みにも耐えられます.MOSの間にフローティング・ゲートを入れた構造で,その電荷の蓄積でON/OFFを切り替えます.他のメモリと比べると,製造コストは割高です.

 ReRAMのメモリ・セルは一つのトランジスタと一つの抵抗(1T1R)で構成され,セル面積は小さくなります.このメモリ・セルの中の抵抗値を変化させることで,データを書き込みます.高密度化が可能であり,チップの低コスト化を図れます.つまり,優れたスケーリング(微細化に向けた,設計ルールと比例した優れた縮小可能性(4))を実現できるわけです.

 整理すると,ReRAMには「DRAM相当の大きな記憶容量」,「DRAM以上SRAM以下の高速動作(数nsレベルの読み出し/書き込み時間)」,「他のメモリより低い消費電力」といった特徴があります.そして,電源を切ってもデータは消えません.データの再書き込み可能回数はフラッシュROM並みとされています.これが,ReRAMが「ユニバーサル・メモリ」と呼ばれ,将来性を期待されているゆえんです.

 

●マイコンなどへの組み込み用途の実用化は早い

 上記のエルピーダメモリの開発事例は,回路線幅が50nmで容量は64Mビットです.これはDRAMで考えると,1999年ころの製品に相当します.ReRAMを回路ブロックとしてLSIの中に組み込む(Embedded)用途としては十分な容量ですが,単一チップの用途としてはまだ不十分です.

 パナソニックが2012年2月23日に発表したReRAMのメモリ・セルは,1T1Rではなく,多層クロスポイント構造を採用しています.つまり,トランジスタを用いていません(5).高速大容量のReRAMを実現するだけでなく,待機時電力ゼロを目指そうという取り組みです.ただし,現時点で実証されている容量は8Mビットで,これはエルピーダメモリが開発したReRAMの1/8程度です.

 続いて2012年5月15日に,パナソニックはReRAM内蔵マイコンを発表しています(6).0.18μmのCMOSプロセスに,128Kバイト相当(およそ1Mビット)のReRAMブロックを組み込んでいます.これは,フラッシュROM内蔵マイコンの置き換えを狙っています.このReRAMブロックは,多層クロスポイント構造ではなく,1T1R構造です.

 筆者は,マイコンなどに組み込む用途では,ReRAMの実用化は早いと考えています.既存の組み込み用途のメモリは,40nmより小さいプロセス・ノードでは製造が困難,または大きな追加コストが発生すると見られているからです.つまり,この用途での研究開発投資は,先を見越した商品戦略と考えられます.

 最後に米国の事例を一つ紹介します.2012年2月6日に米国Rambus社が,米国Unity Semiconductor社を3500万ドルで買収すると発表しました(7).Unity社の設立は2002年で,同社は2014年に1T(テラ)ビットのReRAMを量産化することを目指していたベンチャ企業です.エルピーダメモリを支援する協議を進めているMicron社もUnity社に株式投資を行っており,Unity社はMicron社の300mm(12インチ)ファブを利用していました.

 このUnity社に株式投資していた米国のベンチャ・キャピタリストの話によると,総額で2.5億ドルを調達し,テープ・アウトの回数は5回だったそうです.つまり数多くの材料と技術で構築して最適と考えられた独自の仮説を検証する実験が,単純計算で2年に1回実施され,1回当たり5000万ドルかかったことになります.

 海外ではReRAMの実用化を目指すベンチャ企業は10~30社ほどあり,その多くはとん挫しているということです.多大な投資が必要なReRAMの開発は,ファブレス半導体ベンチャあるいは半導体IPベンチャにはとてもハードルが高いものとなっているようです.

 

●参考文献
(1) エルピーダメモリ;「マイクロンとの協議開始に関するお知らせ」,2012年5月10日.
(2) 日本経済新聞,「米マイクロン エルピーダ買収,次世代型再編の呼び水」,2012年5月9日朝刊.
(3) エルピーダメモリ;「新メモリ(高速不揮発性抵抗変化型メモリ,ReRAM)の開発に成功,64Mビット メモリセルアレイ動作を確認」,2012年1月24日.
(4) 宮本 恭幸;電子デバイス(電子情報工学ニューコース),培風館,2009年2月(多くの一般工科の教科書が物理現象を中心とした内容であるのに対して,本書には競争社会に身を置く技術者や実務者が必要としている重要な時事ネタが散りばめられている.ユニークで一般人にも分かりやすく,役に立つ).
(5) パナソニック;「業界最高速,ReRAMの書込み速度443MB/sを実現,2層構造のクロスポイント型で新ReRAMを開発,待機電力ゼロの実現に一歩前進」,2012年2月23日.
(6) パナソニック;業界トップの低消費電力を実現,業界初,新不揮発性メモリ ReRAM内蔵マイコンを開発,2012年5月より評価用スタータキット提供開始,2012年5月15日.
(7) Rambus;"Rambus Acquires Unity Semiconductor",2012年2月6日. 

 

やまもと・やすし

 

●筆者プロフィール
山本 靖(やまもと・やすし).半導体業界,ならびに半導体にかかわるソフトウェア産業で民間企業の経営管理に従事.1989年にVHDLの普及活動を行う.その後,日米で数々のベンチャ企業を設立し,経営責任者としてオペレーションを経験.日米ベンチャ企業の役員・顧問に就任し,経営戦略,製品設計,プロジェクト管理の指導を行っている.慶應義塾大学工学部卒,博士(学術)早稲田大学大学院.

 

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