ギガビット高速信号伝送を理解するための基礎知識(前編) ―― 差動信号伝送の歴史,規格の違いから終端処理まで

河西 基文

tag: 半導体 実装 電子回路

技術解説 2012年3月16日

●同相のノイズを除去できるLVDS

 コンピュータ・システムの処理能力が向上するに従い,1990年ころには,データ伝送についても高速化が必要となりました.例えば,図6のような機器の内部,あるいは外部で広帯域の画像データ伝送やパラレル・バスの高速化が求められるようになりました.これらはRS-422/485などの差動伝送仕様の能力をはるかに上回るものでした.

 

図6 広帯域信号伝送のアプリケーション例

パソコンの外部バス,液晶ディスプレイ,基地局,MFP(マルチファンクション・プリンタ),医療用機器などに使われている.


 当時,高速動作可能なECL(Emitter Coupled Logic)が一部の回路に使用されていましたが,負電源駆動,汎用ロジック・レベルと非互換,電力消費が非常に大きい,などの制限があり,一般的なアプリケーションで使われることはありませんでした.

 1993年には,RS-422/485の差動伝送のメリットを生かして高速化し,設計が容易なLVDS(Low Voltage Differential Signaling;小振幅差動信号)の物理層デバイスが出荷されました.現在では「EIA/TIA/ANSI-644B」として規格化され,多くの半導体メーカが差動信号の代表的な仕様として採用しています.

 内部構造は,図7の ようにRS-422ドライバの等価回路とほぼ同等です.回路的には今までのRS-422の拡張といえるでしょう.違いは定電流源の追加です.3.5mAの定電流源で振幅を抑えることにより,高速化を達成しています. 

 

図7 LVDS出力のCMOS等価回路

 

 差動伝送路の特性インピーダンスが100Ωの場合,100Ωの終端抵抗を使用すると350mVの振幅になります.振幅を下げるとノイズ耐性が下がりますが,図8の下のように差動信号では+/-双方の差動ラインに同じノイズが乗ります.レシーバは「(+信号)-(-信号)」となるので,同相のノイズは除去されます.これにより,LVDSはシングルエンド信号以上のノイズ耐性を持っています.

 

図8 コモンモード・ノイズの除去

 

 LVDSの最大伝送速度は規格上655Mbpsで,帯域を広げた3Gbps程度までのデバイスが出荷されています.3.5mAの定電流源駆動のため,低消費電力で振幅が小さく,不要輻射ノイズも小さいという特徴があります.また,受信端では+/-100mVの感度のため,伝送速度が高くても,伝送距離を伸ばすことができます(図9).

 

図9 LVDS仕様の概要

 

 

●正電源のPECL,LVPECLが登場

 1971年ごろ,負電源を使用した消費電流の大きなバイポーラ・トランジスタの高速I/Oデバイス「ECL10Kロジック・ファミリ」を米国Motorola社が製品化しました.その後,温度や電圧変動に強いバンドギャップ参照電圧回路を内蔵した「100Kロジック・ファミリ」を米国Fairchild Semiconductor社が製品化し,さらに負電源を正電源に変更した「PECL(Positive ECL)」や,その低電圧版のLVPECL(Low Voltage PECL)が登場しました.

 PECL,LVPECLとも正電源となりましたが,消費電力の大きさはECLと同じです.PECLの等価出力回路は図10のように差動の二つの出力(+/-)を持っており,回路上の片方のみのシングルエンド出力としても使用できます.

 

図10 PECL等価回路

 

 

●数Gbpsの伝送によく使われるCML

 CMLは,図11の等価回路のように単純な構成です.消費電力は大きいのですが,エッジ・レートが速いため,最近の数Gbpsの高速インターフェースで多く使われています.標準800mVの出力振幅で1対1(ピア・ツー・ピア)構成となります.帯域は25Gbps以上も実現可能ですが,LVDSのように規格化されておらず,製品や企業ごとに入出力の仕様が異なります.その違いを吸収するため,AC結合で使用されることが一般的です.

 

図11 CML等価回路

 

 

●32台までのマルチドロップが可能なM-LVDS

 M-LVDSは「マルチポイントLVDS」の略称です.LVDSと同じようにANSI/EIA/TIA-899として規格化されています.250Mbpsまでの帯域で,RS-485のように32台までのマルチドロップが可能です.100Ω終端時の出力振幅が標準550mVと大きく,反射を防ぐためにエッジ・レートもLVDSより遅くなっています.

 等価回路からも分かるように,差動信号規格の出力には,差動出力電圧(TXVod),GNDからのオフセット電圧(TXVOH/L),コモン・モード電圧(TXVos)に違いがあり,同じ規格同士で接続することが一般的です(図12).ただし,AC結合によってDC成分を除去したり,受信側の受信電圧範囲を広くとるなどした場合は,異なる規格でも受信可能です.

 

図12 各差動仕様の出力電圧の比較

 

 

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