拝啓 半導体エンジニアさま(34) ―― 「システムLSI事業の統合案」と「エルピーダの経営破たん」に思う

ジョゼフ半月

tag: 半導体

コラム 2012年2月28日

 今回は,不本意ながら,日本の半導体の苦境を示すニュースを取り上げなければならないようです.

 一つは,ルネサス エレクトロニクス,富士通セミコンダクター,パナソニックの3社がそれぞれのシステムLSI事業を切り離し,新会社を作る方向で話し合いをしている,という件です.そしてもう一つは,エルピーダの経営破たんの件です.どちらも日本の半導体の屋台骨を長年担ってきた会社の動きであり,昨今の日本の半導体全体の苦境に共通する「もがき」の表れとして,ほとんどの業界人にとってヒトゴトではないものと思われます.

 

●一つに「まとめる」ことの効果は限定的

 システムLSIについては,以前から何度か「もうからない事業になってしまった」という嘆きの一節を書いてきました.どうもそれも極まって,大手3社が自社事業から切り離すことを模索せざるを得ないところまできてしまったようです.

 直接的には昨年来の震災や欧州の経済危機など,いろいろな外的要因があると想像するものの,本当のところは,何年も前から続いていた長期低落傾向に歯止めがかからず,利益がずるずると落ちてきたためだと思います.先行きに復活の展望が見える「攻めの統合」なら良いのですが,はたから見ていると,打つ手が限られてしまった中での統合案のように思えてしまいます.

 一つに「まとめる」となんとかなるのではないか,と考える人がけっこういることに内心驚いています.確かに工場などは,統廃合と合理化,集中により競争力を復活させていく,という方法があるのは理解できます.けれどシステムLSIについて,特に商品面や,それを支える企画とか設計とかについて思うのは,「まとめて」何か良いことがあるのか? という疑問です.

 身も蓋もないことを言ってしまえば,「まとめて」できることといったら,「重複部分を省く」合理化策くらいではないでしょうか.確かに,知的財産とか特許,設計手法,設計環境などについては,一つにまとめることで強化できる部分もありそうです.しかし商品面から言えば,ラインナップの整理・統合であり,それによって浮いた人員の削減といった施策が「分かりやすい」ものでしょう.それでも数字を見ている人からすると,企画や設計などでも工場と同じように「統合の効果あり」,ということになるのでしょう.しかし,それほどうまくいくとも思えません.

 

●「妥当かつ穏当な」統合案が抱える問題点

 現状,システムLSIの事業でもうかっている半導体企業がないわけではありません(だいたいが海外ベンダだが...).そういう会社を見てみると,まず間違いなく素早い市場対応,そしてユニークなアイデアや技術を備えているところばかりです.素早い市場対応というより,市場の動きを先読みして製品を投入してきているので,顧客が欲しいと思ったときには「既にあった」,あるいは顧客に欲しいと思わせるようなものを出してくる,という感じです.その裏には企業としての論理も損得勘定もあるのですが,けっこうな割合で感覚的な判断とか,モチベーションとか,企業よりも個人に帰着できるものがあるように思っています.

 これに対して「統合」というプロセスは,素早い動きに対応しにくい,そして「論理の飛躍」が通じないプロセスではないかと考えます.もともと考え方や指向性の異なるものを統合していくためには,まず共通の土俵に乗せる必要があります.非言語的なものや「良く分からない」部分は切り捨てて,言葉や数字で一般化して書き表せるものだけを「公平」に並べて,比較検討して整理していくことが必要だと思います(これは,コンサルタント会社などが得意とする作業).

 しかし,あえて言わせてもらうならば,時間をかけて調査・分析して出てきた結論は,「妥当かつ穏当」な線で,誰でも思いつく(あるいは競合企業にとっても,出方が容易に読める)結論になる可能性が高いのではないかと思います.その上,社内で綱引きをやりながら,時間をかけて出来上がったチップの仕様が,「足して2で割る」的な,悪いところはないのだけれどユニークでもない,と来た日には,とうてい海外ベンダに勝てるとは思えません.それどころか,綱引きが終わってみたら,その市場は根こそぎ海外ベンダに持っていかれていた,といったことにならないでしょうか.

 当然ながらそのようなことは承知のうえでの統合案でしょうから,なにか秘策があることを期待したいものです.

 

●DRAM事業の状況はさらに厳しい

 一方,DRAMについて言えば,これだけ寡占化が進んでもなお,好況のときは良いが一度市況が崩れるとボロボロになる,浮き沈みの激しい事業であるところが変わらないのは,驚くべきことです.その昔,あれだけ多数あった会社が消えて,片手で数えるほどの会社しか残っていないのにです.事業再編が進んでも,「一番になれないともうからない」ということなのかもしれません.そして,たとえ一番になっても,巨大な設備投資と市況の変動の間で苦しむこともあるのかもしれません.

 やはり単一の製品に頼る構造が不安定ということで,フラッシュ・メモリ関係の事業との統合も一案なのでしょうが,ありもの同士をくっつけ合わせても当座しのぎにしかならないようにも見えます.いっそのこと,不揮発で高速に書き換えられる新メモリで,既存のフラッシュ・メモリやDRAMを吹き飛ばしてしまうようなところから勝負しないと,メモリLSI事業で成功することは難しいのかも,とも思います.

 なかなか,「ある」ものを「持ったまま」での統合や方針変更が難しいのは,システムLSI事業の統合案の場合も,エルピーダのメモリLSI事業の場合も変わりません.

 

ジョゼフ・はんげつ

 

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