組み込み技術の新しい可能性を示し,新しい市場の創出に貢献したい―― 「ET アワード2011」受賞企業インタビュー(3) インテル
ETアワード2011のソリューション分野の優秀賞は,インテルの「インテルアーキテクチャで実現する組込み機器の将来像」だった.このコンセプトに基づいた展示をET 2011の会場で行った.ここでは,同社 クラウド・コンピューティング事業本部 エンベデッド/CE事業開発部 プロダクト・マーケティング・マネージャーの津乗 学氏(写真1)に,日本における新しい組み込み市場について話をうかがった.
―― ETアワード2011のソリューション分野の優秀賞を受賞した展示の概要をお聞かせください
津乗氏:今回応募したソリューションに関連する展示は7種類となります.これはすべて日本国内で,実際に製品もしくはコンセプト・モデルが開発された機器です.そして,すべてインテル・アーキテクチャのプロセッサが採用されています.展示ブース内で実際にそのソリューションを体感していただけます.
一つ目は,大学発ベンチャのCYBERDYNE(サイバーダイン)が開発した「ロボットスーツHAL」(写真2)です.人体に装着して身体機能の拡張や増幅が図れる世界初のサイボーグ型ロボットです.下肢タイプのモデルは,全国の福祉施設で活用が始まっています.
二つ目は,次世代自動販売機のコンセプト・モデル(写真3)です.この自販機は,透過型の大画面ディスプレイと内蔵カメラを搭載しています.画像解析技術による顔認識機能によって,その場にいる購入者の性別や年齢を判断し,その人に的確な情報(広告)を伝えるディジタル・サイネージを実現しています.この自販機は,岡谷エレクトロニクス,映像コンテンツ制作会社とインテルの協力で開発しています.
三つ目は,アミューズメント分野への応用を視野に入れたコンセプト・モデル(写真4)です.マルチディスプレイで構成され,3Dディスプレイを搭載しています.3Dディスプレイについては,映像が浮き上がる浮遊映像技術を取り入れています.この機器は,インテル,パイオニア,アクセルが共同開発しました.パイオニアが浮遊映像技術を担当し,アクセルがマルチディスプレイに映像を表示するグラフィックスLSIの開発を担当しました.
四つ目は,業界初の裸眼3D対応アーケード・ゲーム機(写真5)です.この機器は,セガがすでに全国のゲーム・センタに展開しています.
五つ目は,コルグが開発した電子楽器(シンセサイザ)の「KRONOS Music Workstation」(写真6)です.ソフトウェア・シンセサイザならではの柔軟性を生かし,電子楽器ながら9種類の音源を搭載しています.また,専用機やパソコン・ソフトウェア並みの機能を備えています.
六つ目は,先述のサイバーダインが開発した「TABLEINTERFACE」(写真7)です.この機器は,指先や指の腹,手のひらなどを使用したマルチタッチ技術により,複数の人が大画面ディスプレイを取り囲み,人対人の会話とディスプレイ上の映像によって意思の疎通を図ります.アプリケーションとしては,多人数参加のゲームや会議テーブルなどを想定しています.
七つ目は,工業機械やエレベータ,自動ドアなど多種多様な機械の自動制御に用いられているPLC(Programmable Logic Controller)です.このPLC(写真8)は,オムロンが開発した,すべてソフトウェア・ベースで制御する「マシンコントローラSysmac NJシリーズ」です.従来は,PLCの機能をASIC(Application Specific Integrated Circuit)として開発していました.Sysmac NJシリーズでは,Atomプロセッサとソフトウェアで実現しています.
―― 日本における組み込み市場での活動を教えてください
津乗氏:日本発の組み込み技術の可能性を示すことと,新しい市場の創出です.組み込み市場は,これからますます拡大すると考えています.2015年には150億台もの機器がインターネットに繋がると言われています.
クラウド・コンピューティングのトレンドを見ても分かるように,クラウド・システムに繋がる新しいタイプの組み込み機器はこれからますます増えていきます.こうした市場は,汎用性の高いオープンなアーキテクチャを採用したプロセッサと相性が良いと考えられます.そこでインテルとしては,今まで世の中になかった新しいモノや新しい市場の創出を提案しています.
―― 今回のソリューションは,どのようにして選んだのでしょう?
津乗氏:パートナ企業に声をかけて,日本で開発されたソリューションを探しました.また,パートナ企業とコンセプト・モデルの開発を共同で行っています.インテルは,チップ・メーカなので,パートナ企業との連携により,組み込み市場における世界感を見てもらいたいと思っています.
―― インテルにとっての組み込み分野とは?
津乗氏:非PC,非サーバという定義です.タブレットは組み込み分野とは分けています.具体的には「製造業,航空宇宙/軍事,交通,通信,エネルギー,小売,医療」となります.さらに,この市場は今後10年でインテリジェント化が進むと考えています.インテリジェント化とは,ブースに展示しているように,自動販売機にカメラが内蔵され,購入者の性別や年齢を判断し,データを解析するような機器です.また,インテル・プロセッサのラインナップでいうと,AtomプロセッサやCoreプロセッサ,さらに最近では組み込み機器の高度な演算などにXeonプロセッサも使われています.
―― 日本の組み込み産業は世界と比べて何か違いがありますか?
津乗氏:日本の組み込み産業は垂直統合的で,ASICなどのアプリケーション専用のチップが多く利用されています.しかし最近では,オープン・アーキテクチャの採用が進みだしました.ソリューションとして紹介したオムロンのPLCは,ASICからインテル・アーキテクチャに置き換えてすべてソフトウェアで制御しています.
―― 今年からET アワード審査方法が変わりました
津乗氏:インテルでは,ブースの展示内容を昨年と今年で特に変更していません.昨年は,来場者から選ばれたETアワードでした.今年は,ETアワード2011の審査員から選ばれた受賞です.来場者からも審査員からも選ばれた点が光栄です.これからも, 日本の組み込みエンジニアが夢を抱くことができるようなビジョンの提示を目指していきたいと思います.
ETアワード2011 審査委員のコメント
今後拡大が予想される新市場を定めた上で,そこへ向かうソリューションのあり方とそのための技術的方向性を具体的に示した切り口は斬新である.特に,自社の製品という位置づけではなく,我が国の優位性を引き出すことと,組込み技術者の誇りと夢を拡大するビジョンの提示は,戦略的な取り組みの例示としても高く評価できる.今後は,さらに高度なビジョンの提示と具体的な例示が増加するものと期待できる.
http://www.jasa.or.jp/et/ET2011/event/etaward.html