デバイス古今東西(30) ―― 大企業の経営者がコンサルティング企業や受託企業に求めること

山本 靖

tag: 半導体

コラム 2011年10月26日

 大企業におけるアウトソースは半導体設計・検証の領域においても活発です.ここでは,大企業の経営者の視点でアウトソースについて考えてみます.アウトソース先はコンサルティング企業と受託企業を対象とし,大企業の経営者がコンサルティング企業に求めることは何か,受託企業に求めることは何か,について話を進めます.

●知見を持つ大企業がなぜコンサルティング企業に頼るのか

 大企業と言われている企業の多くは,人,モノ,金,情報,時間,技術,知恵といった経営資源を十分に確保しています.しかしそういった大企業でも,外部のコンサルティング企業に膨大なコンサルティング費用を支払っている事例をよく見かけます.そういった企業が,コンサルティング企業が供与する知見なり,理論なりを持ち合わせていないとは考えにくいといえます.いやむしろ,それ以上の知見を持っていることが多いのではないかと筆者は考えています.外部のコンサルティング企業にはない,長年の経験や知恵から発展した実践的知識や情報が長期間に渡ってその組織や従業員に蓄積されていることが多いからです.

 大企業の経営者がコンサルティング企業に求めているのは,理論的知見だけではありません.課題に取り組む視点を,主観的なものから客観的なものに変えるという意識改革をも求めているのです.コンサルティング企業は,企業を客観的視点に立たせることで選択肢を増やし,多様な選択肢から適切な意思決定と行動を起こさせることができます.それこそが,コンサルティング企業の価値なのです.

●同化してしまったコンサルタントに存在価値はない

 一例を挙げましょう.経営学者であるPeter F. Druckerは,1943年に,当時の世界最大企業の米国General Motors社(GM)から「GMの経営方針や構造について第三者の目で調査してくれないか」という誘いを受けたそうです.そして18カ月間をかけてGMを徹底調査するプロジェクトが始まりました.GMの中興の祖であるAlfred Sloanから,こう言われたそうです.「何を調べ,どんな結論を下すか.すべてあなたの自由です.注文は一つだけ.『こんな助言なら気に入ってもらえそう』などと決して妥協しないでもらいたい」(1*).Druckerのプロジェクトの成果は1946年の著作『Concept of the Corporation』(2)として結実しています.

 もしコンサルタントが,委託された企業の一員と同化してしまったときには,コンサルティングという役目は終了するべきでしょう.コンサルタントが同化してしまえば,もはや客観的視点をとることが困難となり,改革のスピードが遅れることにつながるからです.

●マイクロマネージメントを行ったコンサルタントの末路

 また一方で,コンサルタントが委託された企業内のマイクロマネージメントを行うと,とても煙たがられます.煙たがられるだけならまだましで,多くは組織から排除されることとなります.ここで言うマイクロマネージメントとは,企業の経営トップ層が,中間管理職(ミドル・マネージメント)や従業員末端までに対して日常業務に至る細かな指示を出したり,詳細な報告を求めたりすることです.

 こういったマネージメントはまれに大きな企業でもあります.しかし,外部の人間が内部組織に入り込んでマイクロマネージメントを行うと,組織は混乱していきます.そういった外部の人間の意思決定に対して,内部に責任をとる人はいないからです.また,多くのコンサルタントは,委託される企業の利害や行動に対して,直接/間接的な利害関係を持っていません.

●受託企業の効用は経済合理性だけにあらず

 連載の第28回では,企業の内外作問題について議論しました.自分で作るか,外から買うかという問題です.内外作問題を検討し,その判断の結果として,外部の企業(受託企業)に仕事を委託する場合があります.半導体設計や検証作業の一部はそれに該当します.自社開発と設計や検証の人的コスト,自社開発と設計に必要な道具や環境コスト,自社開発と設計に必要な時間のコスト,熟練や改善による低減コスト,再利用による低減コスト,競争優位で授かる低減コストなどといった内作コストよりも,受託企業に委託する対価(外作コスト)が安ければ,経済合理性から受託企業を選択します.

 受託企業の効用は経済合理性だけにとどまりません.例えば,固定費を変動費に置き換えるメリットがあります.設計開発プロジェクトは絶えることなくさまざまなプロジェクトが連続して発生しますが,継続することはまれです.プロジェクトが発生していないとき,プロジェクト発生を想定して抱えている経営資源はむだになるだけです.こういった費用負担を季節要因や時間軸でコントロールしたい,と経営者は考えます.経営の連続性から突発的な浮き沈みは避けたいからです.もし給与や福利厚生費などの固定費を変動費にすることができるならば,むだなコストを抑えられ,費用負担の継続的安定性を計算できます.そしてコア・コンピタンス(強み)に経営資源を投資する戦略も立てやすくなります.


参考・引用*文献
(1*)Peter F. Drucker;『ドラッカー20世紀を生きて ―― 私の履歴書』,日本経済新聞社,2005年8月.
(2)Peter F. Drucker;『企業とは何か』,ダイヤモンド社,2005年1月.


やまもと・やすし


◆筆者プロフィール◆
山本 靖(やまもと・やすし).半導体業界,ならびに半導体にかかわるソフトウェア産業で民間企業の経営管理に従事.1989年にVHDLの普及活動を行う.その後,日米で数々のベンチャ企業を設立し,経営責任者としてオペレーションを経験.日米ベンチャ企業の役員・顧問に就任し,経営戦略,製品設計,プロジェクト管理の指導を行っている.慶應義塾大学工学部卒,博士(学術)早稲田大学院.


 

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