拝啓 半導体エンジニアさま(28) ―― 泥縄的な「がんばり」の果てにたどり着いたのは...

ジョセフ 半月

tag: 半導体

コラム 2011年8月30日

 あれはいつごろのことだったのでしょうか.「これからはシステムLSIだ!」というかけ声をよく聞きました.その言葉は今も記憶にしっかりと残っています.システムLSIやSoC(System on a Chip)について,何をもってそう呼ぶのか,どこまでを含めるのかは,立場によっていろいろあると思うのですが,たいていの半導体エンジニアはシステムLSIと何らかのかかわりを持ったことがあるのではないでしょうか.

 

●システムLSI事業は「縮小」の一途

 自分もシステムLSIの設計に参加していた,という方も多いでしょうし,IP(Intellectual Property)コアとして取り込まれた回路ブロックを作っていた方もいるでしょう.あるいは評価ボードを作っていた人,ミドルウェアを作っていた人もいると思います.「これからは...」と号令が響きわたっていたころは,各社とも総動員体制でした.

 今や,すっかり状況は様変わりしてしまいました.昨年,東芝がシステムLSI事業の縮小を発表しましたが,今回,ルネサス エレクトロニクスも同じような発表を行いました.会社によっては,あまり大声でそういうことを言わないところもあるようですが,日本の半導体産業全体として見ると,もはやシステムLSI事業というのは「縮小」の一途をたどっているように見えます.正直,「これからは...」というかけ声が響き渡ってからここに至るまでの期間は,思いのほか短かった,というのが正直な感想です(だいぶもみくちゃにされたが...).

 いつからこのような状況になってしまったのでしょう.あれだけ「みんなでがんばったのに」です.もちろん,市場の変化,日本の半導体産業をとりまく環境の変化,海外勢との競争など,いろいろな要因があったと思います.しかし,今から振り返ると,「泥縄」的ながんばりの果てにたどり着いたのは,豊かな土地ではなく,やせた狭苦しい土地だった,という感じがしてなりません.

 

●「トランジスタはタダ」だった

 「これからはシステムLSIだ!」と叫ばれていた背景には,集積度の向上につぐ向上による,あり余るトランジスタの存在がありました.当時は,「トランジスタはタダだ」とよく言われていたように記憶しています.ゲート単価がカスタム半導体の価格の一つの目安で,これは年々大幅に下がっていくので,「そんなことは気にしなくてもよい」,「どんどん集積してしまえ」といったノリだったように思います.

 システムLSIへと至る道筋は一つではなく,いろいろな入り方がありましたが,その一つとしてASIC(Application Specific Integrated Circuits)の大規模化の流れがありました.出てきたころは,せいぜいTTLロジック・ゲートを集積したようなレベルでしたが,集積化の進行に伴い,システムLSIと呼ばれる段階に到達しました.

 その過程で,当初は顧客が設計していた回路の中に,「既成」の大規模な回路ブロックがどんどん入っていきました.最初は半導体メーカの自社製のIPコアが多かったのですが,そのうち自社製のものだけではとてもカバーできなくなり,他社からもかき集めるようになりました.またIPコアが増える以上に,ミドルウェアというLSIを動かすためのソフトウェアの比重が重くなっていったように思います.さらに,回路規模が大きくなるにつれて,顧客の仕事だった部分がどんどん半導体メーカの仕事へと変わり,さらにはメーカ1社では担当しきれなくなって,外注へと展開していった,そんな流れでした.

 

●デバイスではなく「システム」全体の深い理解が必要

 このような重い負荷に見合うほど,数と利益が出ればよかったのですが,市場から要求されるシステムそのものの変化もとても早くて,そのうち自転車操業に陥っていったように思います.今から考えると,「システムLSI」といっても「こんなシステムを作りたい」という明確なコンセプトがあったわけではなく,数が出そうな市場のトレンドに合わせてトランジスタを使い切るためにIPコアを取りそろえ,さらにそのIPコアだけでは対応しきれないのでさらに周辺回路を...,というように泥縄的に対応していった結果,袋小路に陥ってしまった,という感じを強く持っています.

 しかし,同じシステムLSIやSoCに分類されるデバイスでも,「こんなシステムを作りたい」というコンセプトがあって,独自の世界や独自の市場を作り上げているものもまた存在します.たいていそれらは泥縄的なものよりは良いポジションを今でも保っていますし,まだまだ発展の余地もありそうです.

 やはり「システムLSI」と呼ぶからには,半導体デバイスとその上のミドルウェア,リファレンス・ボードといった程度の守備範囲を離れ,「システム」全体に対する広くて深い理解がないといけなかったのでしょう.ついつい目の前にある使い切れないほど多くのトランジスタを,がむしゃらにつなぎ合わせ,IPコアをかき集めることに「がんばり過ぎた」ように思います.反省しても遅いですかね?

 

ジョセフ・はんげつ

 

 

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