拝啓 半導体エンジニアさま(27) ―― 新興国需要に振り回されるより,今一度,内需を考えてみよう

ジョセフ 半月

tag: 半導体

コラム 2011年8月 4日

 この原稿がWeb上にアップされるころには何とかなっていてほしいものですが,米国政府の債務上限の問題で,円高がまた急速に進みました.実に経済のグローバル化というのは,臨界的な危うさで世界を連動させるようです.震災に円高が加わって,製造業全般に国内空洞化の話が出てきています.

 

●三洋電機の白物家電部門が中国メーカの傘下に

 そのような中,これはある意味,必然というべきかもしれませんが,パナソニックが買収した三洋電機の白物家電(洗濯機,冷蔵庫)の部門を中国のハイアールに売却するというニュースを読みました.こちらは空洞化というよりは重複事業の整理だそうです.確かにパナソニックは立派な家電部門を持っているので,買収した以上は重複した事業の整理を進めるのは当然なのでしょう.しかし一時期,世界に冠たる地位を占めていた日本の家電製品,そして海外でも活躍していた"SANYO"のロゴを思い起こせば,三洋ブランドの白物家電が中国メーカの傘下に入ってしまうのは一抹の寂しさを感じます.

 半導体の立場で考えても,家電製品向けの半導体というのは大きなジャンルです.ただし家電の場合,多くのメーカはグループ内に半導体部門を持っていて内製の割合が比較的高く,その上,仕様もクローズドで「内向き」の印象が強い分野ではありました.この感じは,同じ半導体の需要者であっても,外から買わざるをえない部品が多く,国際規格に左右される通信やコンピュータの分野とはちょっと違う感じがします.

 たぶん,三洋電機の家電部門も,かつては自社内の半導体部門に多くを依存していたと思われます.しかし,三洋電機の半導体部門はすでに米国On Semiconductor社に売却されており,今回は,白物家電の部門がハイアールに買われたわけです.勝手な想像ですが,そのうち「旧」三洋家電とでも呼ばれることになるであろう該当部門では,使い慣れた「旧」三洋半導体部品ではなく,ハイアールの調達ルートに乗った半導体が使われていくのではないかと想像されます.

 

●最強の家電のもとで最強の部品が育った

 よく言われることかも知れませんが,強い電子機器と強い部品は車の両輪のようなものです.過去,日本の家電が強かったころは,日本の家電向け半導体も世界「最強」だったと思います.ここで言う「最強」の意味は単純な性能ではなく,コスト・パフォーマンスのことです.今や世界最大級の家電メーカであるハイアールともなれば,そこが使っている半導体が今の最強なのかも知れません.日本の家電業界が弱ってしまった現状では,家電向けの日本の半導体が強みを取り戻すのは困難な道に思えます.

 どちらが卵でどちらが鶏かは別にして,やはり強い電子機器がないと,強い部品も育たないのでしょう.現在の日本の半導体各社の取り組みを見ていると,どうもそういう両輪が出来ているのは自動車くらいではないかと思われます.今回の東日本大震災の影響が中長期的にどうでるのかは分かりませんが,これまでのところ,自動車については両輪が出来ていて,うまく回っているようです.こういう両輪を,別の分野で一つ,さらにもう一つというように,順番に構築していけるかどうかが,日本の半導体の生き残りの鍵になるような気がします.

 では,どのような分野でそれを構築していけばよいのでしょうか.

 

●輸出産業よりも内需に目を向けよう

 過去の半導体業界は,消費財の輸出産業を意識して,海外で売れる製品向けのものを作る,というのが定番でした.ところが昨今の状況を見てみると,輸出先としてこれまで頼みにしていた米国にせよ,欧州にせよ,アジアにせよ,さまざまな火種というか変動要因を抱えているように見えます.どの地域の経済も,一つ間違えるとリーマン・ショック並みの激震が生じかねません.良い両輪を築くには,長期的に安定した関係が不可欠であることを考えると,海外市場に頼ってそういう両輪を築くのは,当面,難しいようにも思えてきます.

 その点,国内に目を移すと,やれガラパゴスだなんだと言われていても,実はいろいろとやるべきこと,やれることがあるのが日本市場ではないかと思います.確かに政府の方針は混乱しているし,お金をどこから引き出すんだという議論はありそうですが,震災からの復興にしろ,エネルギー問題にしろ,日本全体のインフラについて考え直し,作り直していくべき時期に来ています.

 これまでの半導体業界は,数が出る消費財に目が向きがちでしたが,ちょっと腰を据えて,国内のインフラの作り直しに貢献することを考えてもよいのではないでしょうか.国内を空洞化させて海外へ出て,新興国需要を追い求めていっても,しょせんコストに振り回され,数々のリスクにさらされるだけです.長期に渡って回していける両輪は築けないように思います.今一度,内需を考えてみるのも重要だと考えます.

 

ジョセフ・はんげつ

 

 

組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日