クラウドにつながる組み込みシステムの基盤技術を6社が解説 ―― アドバネット・テクニカルセミナー・レポート

(株)アドバネット

tag: 組み込み 半導体

2011年7月12日

組み込み開発における「成功へのステップ」を解説

組み込み技術の世界的な企業であるEurotech グループのアドバネットは,2011 年6 月17 日に顧客向けの技術セミナ「Stairway to Success(成功へのステップ)」を東京・品川プリンスホテルにて開催した.アドバネットはパートナ企業の協力を得て,日本で組み込みシステムの開発を支援している.ここではEurotech およびアドバネットとパートナ企業によるセミナ講演の概要をレポートする.

●Eurotech:組み込みの世界にクラウドを導入

 アドバネットは,イタリアに本社を構える世界的企業Eurotechのグループ企業です. そのEurotechの米国法人であるEurotech Inc.でプレジデント& CTO(最高技術責任者)をつとめるアレン・ニッパー(Arlen Nipper)氏が,「The Unique Eurotech Value Proposition」と題してはじめに講演しました.
 ニッパー氏はEurotechの今後の事業を支える製品「Everyware(エブリウェア)」について解説しました.Everywareとはハードウェア,ソフトウェア,ネットワークを統合した用語です.Everywareを通じてEurotechはユーザに高い競争力を備えた製品開発を効率よく進める環境を提供します.
 Everywareが提供する具体的な環境は二つあります.一つ目は「ESF(エブリウェア・ソフトウェア・フレームワーク)」と呼ぶソフトウェア・スタック群です.ユーザはESF を活用することで,競争力や付加価値などとは関連性の低いミドルウェアやファームウェアなどの開発作業から解放され,組み込みシステム製品の差異化に専念できるようになります.
 二つ目は,「EDC(エブリウェア・デバイス・クラウド)」と呼ぶクラウド・サービスです.EDCはESF を包含しており,組み込みシステムとネットワーク・クラウド(WAN/3G/インターネット),インテグレーション・サービス(API)で構成されています.
 ユーザの付加価値の源泉はビジネス・アプリケーションです.EDCはそのビジネス・アプリケーションを迅速に開発する仕組みを提供しています.クラウドの向こう側にある組み込みシステムを意識せずに,ソフトウェア開発者はビジネス・アプリケーションを開発できるのです.

米国Eurotech Inc. プレジデント& CTO アレン・ニッパー氏

●フリースケール:マルチコア対応の64ビット化と仮想化

 続いて,マイクロプロセッサの大手ベンダであるフリースケール・セミコンダクタ・ジャパンのプロダクトマーケティング本部 ネットワーキング&マルチメディア製品部でマーケティングをつとめる浜野正博氏が,「マルチコアへのスマートなアプローチ」と題して講演しました.
 マイクロプロセッサの高性能化と低消費電力化を両立させるには,複数のCPUコアをワンチップにまとめたマルチコア・プロセッサが不可欠になっています.CPUコアの動作周波数を適切な値に抑えることで,消費電力当たりの性能を高められるからです.組み込み分野でもマルチコア対応の流れが必須となっています.
 フリースケールは組み込み分野に適したマルチコア・プロセッサへの取り組みとして,64ビット・アーキテクチャへの移行と仮想化支援技術の導入を進めています.具体的には64ビットPower Architectureコア「e5500」を開発し,e5500コアを内蔵するQorIQ(コア・アイキュー)プロセッサ「P5020」を発表しました(図1).現在はアルファ版のサンプルを出荷中であり,また,64ビットSMP対応Linuxの起動を確認しています.
 仮想化支援機構では,マルチOS環境に対応した仕組み「Embedded Hypervisor」を提供します.このソフトを利用すると,8 コアのマルチコア環境でSMP/AMP OSの混在が可能となります.OSのロード,共有リソースの初期化,リソースのパーティショニング,メモリ保護などが提供されることにより,異なるパーティショニングに属するCPUコアは完全に独立して動作します.

図1 QorIQ P5020(e5500 コア)ステータス

●スターブリッジ:超高速伝送SerialRapidIOを解説

 半導体ベンダIDT のRepresentativeであるスターブリッジは,IDTの製品である超高速インターコネクト技術RapidIOのスイッチやブリッジなどを扱っています.本セミナでは,スターブリッジの技術部でマネージャをつとめる白井野之氏が「次世代高速インターコネクトSerialRapidIO技術詳細」と題して講演しました.
 「SerialRapidIO(シリアルラピッドアイオー)」は,元々はパラレル・インターコネクト技術であったRapidIOの物理層に,シリアル転送を追加することで誕生しました.移動体通信の基地局系では一般的なインターコネクト技術として普及しています.海外では,レーダやソナーなどの防衛分野で使われています.今後は,画像処理や産業分野などで市場が拡大すると期待されています.
 SerialRapidIOの技術仕様には,第1 世代のGen1と第2 世代のGen2があります.Gen1はリビジョン1.3 規格のことです.1x/4xのリンクがあり,リンク当たりのデータ転送速度は1.25GBaud/2.5GBaud/3.125GBaudの3 通りがあります.物理層にはXAUI(10GビットEthernet)を利用しています.Gen2はリビジョン2.x 規格のことです.1x/2x/4x/8x/16xのリンクがあり,リンク当たりのデータ転送速度には5.0GBaudと6.25GBaudを追加しています.5.0GBaudと6.25GBaudの物理層にはXAUIではなく,OIF(Optical Internet working Forum)を採用しています.
 RapidIOのスイッチは,遅延時間がきわめて短いことを特長としています.これは宛先をアドレスではなく,ターゲットID と呼ぶ番号で管理しているからです.スイッチのポート番号とターゲットID 番号の関係があらかじめスイッチに埋め込まれており,スイッチはID 番号だけを読みとって対応するポート番号へ通信パケットを転送します.このため,スイッチングが非常に素早く完了します.

(株)スターブリッジ 技術部 マネージャ 白井野之氏

●ウインドリバー:マルチコア対応のリアルタイムOS

 続いて,組み込みOSとシステム開発支援ツールのベンダであるウインドリバーで営業技術本部第二営業技術部の部長をつとめる大石茂幸氏が「マルチコアに対応した組み込みOSと仮想化技術」と題して講演しました.大石氏ははじめに,組み込みシステムの動向を説明しました.マシン・マシン接続やモバイル機器などの接続機能の広がり,セーフティとセキュリティの向上,高性能化・消費電力低減・コスト低減の実現,システムの複雑化といった動きです.そして技術課題として,マルチコア対応,コンソリデーション(システムの統合),ツールと開発プロセスの改善,接続性,規制強化への対応,を挙げました.
 それから,こういった課題に対応する代表的な製品群を紹介しました.ハード・リアルタイムOS「VxWorks」の最新版バージョン6.9では初めて,64ビットCPUをサポートしました.マルチコア対応では,SMPとAMPの両方のマルチプロセッシング技術に対応しています.組み込みLinux「Wind River Linux」では,積極的なコミュニティ活動を通じて継続的な改良を進めており,マルチコアに対応済みです.
 また組み込み向けの仮想化ソフトウェア「Wind River Hypervisor」を提供しています(図2).マルチコアのCPU上で複数の異なるOSを動かすマルチコア・マルチOSシステムはもちろんのこと,シングルコアのCPU 上で複数の異なるOSを実行するシングルコア・マルチOSシステムにも対応しています.OS間の保護機能を備えているほか,個々のOSからリスタートする機能を搭載しています.既存資産を再利用した新機能の追加,プロセッサのオフロード,消費電力の低減,システムの統合といった要望に低コストで応えています.

図2 Hypervisor を利用したシステム構成

●日新システムズ:既存の資産をマルチコアでも活用可能に

 ウインドリバー製品の販売代理店である日新システムズで開発受託ビジネスユニット 技術部コア技術3部の部長をつとめる古川博也氏が,「マルチコアの組込ソフトウェア開発手法」と題して講演しました.
 シングルコアで動作していた組み込みソフトウェアをそのままマルチコアに移したとしても,実行性能が高まるとは限りません.マルチコアは並列処理に適した実行環境だからです.逐次処理がソフトウェアの大半を占める場合は,むしろ処理性能が低下します.マルチコアに適したソフトウェアの並列化が必要です.すなわち,マルチコアに適したソフトウェア開発手法を取り入れなければなりません.シングルコアのソフトウェアをツールによって解析してボトルネックを探し出し,並列処理に適したコードに変更する,いわゆるマルチスレッド化を施す必要があります.
 日新システムズは,マルチコア環境に適した二つのソリューションを提案しています.一つは,「Wind River Hypervisor」を利用した仮想化です.複数のゲストOSをリアルタイム性を維持しながら動かせるので,信頼性の高いシステムを構築できます.もう一つは「VX EMULATOR/TRON
EMULATOR」の活用です(図3).マルチコア対応のLinuxシステムにVX EMULATOR/TRON EMULATORを搭載することにより,VxWorksあるいはμITRONのアプリケーションがLinux上で動作するようになります.過去に開発した,VxWorksあるいはμITRONのアプリケーションを再利用できます.

図3 VX EMULATOR / TRON EMULATOR の構成例

●アルチザネットワークス:LTE開発に不可欠な試験装置

 通信試験機器のベンダであるアルチザネットワークスからは,「高速通信と大容量データ処理のテクノロジー」と題して開発本部本部長の床次直之氏と開発本部マネージャの永田成毅氏,開発本部アシスタントマネージャーの山田充氏が講演しました.
 同氏らはアルチザネットワークスが近日中に発売するLTE 負荷試験システム「LTE eNB Tester DuoSIM」について説明しました.携帯電話網を利用した次期高速データ通信技術「LTE」を支えるのが,「eNB(evolved NodeB)」と呼ばれるLTE 無線基地局装置です.このLTE eNBの品質を評価するためのテスト装置がLTE eNB Testerであり,LTEの通信品質や安定性などを担保するために,不可欠なテスト装置です.
 LTE eNB Tester( 図4)は,6,000台のユーザ端末(携帯電話機あるいは無線データ通信端末)と8 台のeNB 装置,8台のMME(Mobility Management Entity) 装置,8台のS-GW(Serving Gateway)装置で構成するネットワークを模擬して試験を実行します.テスト・システムは制御用モジュールと測定用モジュール,バックプレーンなどで構成されています.
 また米国Tilera 社が開発した64 ビット・メニーコア・プロセッサ「TILE-Gx36」を搭載したプロセッサ・モジュールを開発中です.ネットワーク・セキュリティ装置への応用を考えています.TILE-Gx36プロセッサは動作周波数が1.5GHz で,36個のCPUコアを内蔵しています.従来は専用ハードウェアで処理せざるを得なかった高速演算処理が,ソフトウェアで処理できるようになります.モジュールは最大64GバイトのDDR3 VLP RDIMMや1/10/40GbpsのEthrereポート, 最大16GバイトのSSDなどを搭載しています.

図4 LTE eNB Load Tester

●アドバネット:小型CPUモジュールを使いこなす

 最後にアドバネットで設計開発部ハードウェア開発のリーダーをつとめる川西紀昭氏が,「COM Express(コム エクスプレス)の勘所」と題して講演しました.
 COM Expressは, 小型CPU モジュール「COM(Computer-On-Module)」に高速インタフェース技術のPCI Express(PCIe)やSerial ATA(SATA)などを搭載したモジュールで,2005年に最初の標準規格がリリースされました.
 COM ExpressはCPU モジュールであり,キャリアボードと組み合わせて使用します.言い換えますと,同じキャリア・ボードでCOM Express準拠のCPU モジュールを交換することにより,非常に素早く派生品を開発したり,最適なパフォーマンスへ変更することができます.
 COM Expressの標準規格は2005 年7 月にRevision1.0(Rev1.0)がリリースされた後,2010年8 月にRevision2.0(Rev2.0)がリリースされています.Rev2.0ではピン配置の異なる二つの仕様(Type6とType10)が追加(図5)されたほか,TV出力の削除,最大電力の縮小,プルアップ/プルダウンの明記,キャリア・ボードの配線長の制限といった変更がありました.またRev1.0 ではキャリア・ボードの配線層数を4 層あるいは6 層としていましたが,Rev2.0では配線層数の記載が抹消されています.
 COM Expressを使ったシステムの設計には,注意すべき点が少なくありません.拡張コネクタの実装方法,CPU モジュールの取り付け,ヒートスプレッダの取り付け,電源のON とOFF シーケンス,ME(Management Engine)の設定,OSによるキャリア・ボードのハードウェア構成の違い,などを理解しておく必要があります.

図5 COM Express Revision2.0 でのピン配置の異なる二つの仕様

 


パートナー企業

 ウインドリバー(株) 
 フリースケール・セミコンダクタ・ジャパン(株)
 (株)スターブリッジ 
 (株)日新システムズ 
 (株)アルチザネットワークス 

   

 


広告に関するお問い合わせ先

 

(株)アドバネット  http://www.advanet.co.jp/       E-mail:sales@advanet.co.jp

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