μITRONやARMプロセッサ関連の話題が目白押し ――ET(Embedded Technology)2002
2002年11月20日~22日,パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)にて,組み込み技術関連の展示会「ET(Embedded Technology)2002」が開催された(写真1).本展示会では,μITRON OS関連の発表が相次いだ.マイクロコントローラ関連ではARMプロセッサが勢いを誇示し,ソフトウェア開発環境などのデモンストレーションがあちらこちらで行われた.また,一つのUSB機器がホストとしても周辺機器としても機能するUSB On-The-Go規格に準拠したプロトコル・スタックも展示された.
●産学が開発したフリー版μITRONの普及促進活動が本格化
フリーのμITRON OS「TOPPERS/JSPカーネル」を開発しているTOPPERS(Toyohashi OPen Platform for Embedded Real-time Systems)プロジェクトは,同OSを世界的なオープン・ソースのリアルタイムOSに成長させるための活動を開始したことを発表した(写真2).2003年4月をめどに,新しい組織を設立する方針.この新組織の準備委員会には,アドバンスドデータコントロールズ,エーアイコーポレーション,ソフィアシステムズ,デンソークリエイト,東陽テクニカ,日立システムアンドサービス,日立製作所,富士通デバイス,もなみソフトウェア,リコーなどが参加している.また,開発拠点をアジア地域に展開することも計画している.技術者の育成については,組み込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)と連携を図っていくという.
TOPPERSプロジェクトは,TOPPERS/JSPカーネルやその周辺ソフトウェアを開発/保守する組織である.豊橋技術科学大学 組み込みリアルタイムシステム研究室が中心となり,大学や企業,個人などが活動に参加している.2000年11月からμITRON4.0仕様に準拠したリアルタイムOSを無償公開している.2002年9月末までの累積ダウンロード数は約8,500件.大学での教育・研究目的だけでなく,企業による商用利用も広がりつつある.
TOPPERSプロジェクトによると,同OSのミドルウェアや開発環境の整備が急速に進んでいるという.例えば,みやぎ産業振興機構が提案した「TOPPERS/JSPカーネル向けのソフトウェア開発事業」が,経済産業省 東北経済局の平成14年度 地域新生コンソーシアム事業として採択された.これを受けて,産学官の13組織が2002年8月~2004年3月にミドルウェアやデバッガ,デバイス・ドライバなどの開発を行う.ここで開発された成果物は,順次フリー・ソフトウェアとして公開される予定である.
また,日立システムアンドサービスは,μITRON向けソフトウェア開発ツール「T-Navi」を2002年12月より出荷する予定.さらに,リコー,東陽テクニカ,日本ラショナルソフトウェアの3社は,UMLモデリング・ツールのオプションとして,TOPPERS/JSPカーネル対応のC/C++コードを自動生成する機能を共同開発した.TOPPERS/JSPカーネル向けのコードを実行できるソフトウェア・シミュレータも開発した.加えて,YDKテクノロジーズは,TOPPERS/JSPカーネルをサンプル・プログラムとして添付したFPGAボード「MIREF」を2002年11月より出荷している.
●バージョンアップ機能を2003年4月に公開
一方,TOPPERSプロジェクトに参加しているエーアイコーポレーション,デンソークリエイト,豊橋技術科学大学,富士通デバイスは,バージョンアップ機能を備えたμITRON OSの開発を開始した.本機能を利用すると,ネットワークや無線を介して組み込み機器のソフトウェア・モジュールの新規追加や入れ替えを行える.また,同じしくみによって,修正用パッチを当てることもできる.
この開発プロジェクトは,情報処理事業振興協会(IPA)の重点領域情報技術開発事業に採択されている.OSの開発は2003年3月に終了し,開発された成果物は同年4月よりフリー・ソフトウェアとして公開される予定である.また,エーアイコーポレーションは,同ソフトウェアの技術サポートや開発ツールの提供などを有償で行うことを発表した.
●機能を絞り込んだメモリ保護の新仕様が登場
μITRON関連では,イーソルとミスポがメモリ保護機能仕様「μMP」を共同策定したことを明らかにした(写真3).本仕様は両社のμITRON4.0製品に実装される.イーソルは2003年第1四半期に対応製品「PrKERNELv4+」を出荷する予定.CPUとして,まずARM720Tをサポートする.一方,ミスポは2003年第2四半期に対応製品「NORTi/MMU」を出荷する計画.CPUとして,ARM9をサポートする.なお,本仕様は一般に公開され,ほかのOSベンダなどが利用することもできるという.
μITRON4.0向けのメモリ保護機能については,2002年4月にトロン協会がPX(memory Protection eXtention)仕様を発表している.イーソルやミスポによると,PX仕様はさまざまな局面に対応できるものの,その分仕様が複雑になっているという.「PX仕様はそのままではアカデミックすぎて,すぐには使いにくいと考えた」(イーソル).
μMP仕様では,サポート範囲をメモリ保護の機能に絞り込んでいる.例えば,PX仕様がサポートしているようなタスク間通信(セマフォやメール・ボックスなど)の保護機能は備えていない.ユーザはタスク単位で保護領域を指定する.また,μMP仕様は,MMU(memory management unit)の利用を前提としている.これに伴って,APIを新規に定義し直した.μMP仕様は機能的にはPX仕様のサブセットになっているが,APIの互換性はない.
なお,イーソルとミスポは,ソフトウェア開発環境についての提携も発表した.イーソルのソフトウェア開発ツール「eBinder」が,ミスポのμITRON4.0準拠OS「NORTi」をサポートする.イーソルは2003年1月に対応製品を出荷する予定.