アプリの完成と新たに見えた課題,そして日常へ ―― 日本Androidの会 災害時支援アプリ・マッシュアップ・ミーティング 第3回レポート
震災支援アプリ・マッシュアップ・ミーティング 第3回は,2011年4月9日の午後,日本橋で開催された(写真1).参加者は15名程度.第1回,第2回のミーティングと比較すると人数は少ないが,アプリの開発を含む具体的な議論が行われ,熱気のあるミーティングとなった.
写真1 当日の様子

●オープン・ソース活動で自然に培われたボランティア精神
当日はニッポン放送のラジオ番組「app10」の取材も行われた.「app10」はもともと,震災と無関係に「アプリは人を幸せにする」というコンセプトのもと,スマートフォンのアプリに特化し,ラジオとスマートフォンの連携を目指して企画された番組である.
今回行われた取材は,2011年4月15日の第1回放送のためのものだった.プロデューサの清原 美樹氏は「休日に震災支援アプリ開発のために集まっている技術者たちを見て感動した」と述べた.普段のオープン・ソース活動のごく自然な延長として震災支援アプリなどを開発していた出席者たちが,注目を受けることは嬉しいと感じつつも,照れや若干の当惑を表情に浮かべる場面もあった.
ちなみに,「スマートフォンがあったために命拾いできた」という例があれば,スマートフォンの有効性を訴求しやすくなるのだが,今回,そのような例はなかったようだ.震災直後はインターネット回線や携帯電話網がダウンしていた地域も多かった.通信手段のない状況で,スマートフォン単体でできることは多くなかったと考えられる.「スマートフォンによって命拾いした」という例が出現するためには,災害時にも動作する携帯情報機器や,災害時にも問題なく利用できる通信インフラといったものを実現しなくてはならず,解決しなくてはならない課題は多い.
今回のミーティングでは,さまざまな側面から,現在の問題点を解決してゆく試みとその結果が提案された.
●避難所情報がクラウドにあってよいのか? ―― アプリ「近くの避難所」
今回のミーティングでは,「近くの避難所」が公開間近となっている状況が発表された(図1).このアプリは,「初めて訪れた地域で震災に遭い,どこに避難すればよいか分からなかった」という丸山 不二夫氏(日本Androidの会・会長)の経験から発案された.
図1 Androidアプリ「近くの避難所」のスクリーン・ショット

アプリを起動すると,自分の今いる場所の近くにある避難所が表示される.このアプリが参照している避難所情報は9万件にのぼる.これは,有事に備えて内閣府が集積・公開している避難所情報をベースとしており,日本国内に存在する公式な避難所情報として,これ以上整備されているものはない.
ただし,万全の情報ではない.例えば,避難所の状態(例えば「小学校で改装工事が行われているため避難所としては利用できない」など)がタイムリに反映されているわけではない.また,災害のタイプによっては利用できない避難所も存在する(例えば,津波警報の際には海辺の避難所では安全を確保できない).普段その地域に住んでいない人が初めての土地で災害に遭った場合,適切に判断するのは困難だろう.
今後の利用を考えると,地方自治体などが避難所情報の正しさを担保し,情報を保守し続ける仕組みが必須である.また,災害時に通信が利用できなくなる場面を考慮すると,9万件のデータはクラウドに置くべきではなく,端末でローカルに保持しておくべきなのかもしれない.残された課題は多いものの,「近くの避難所」はひとまず完成し,2011年4月12日に公開された.
●やっぱり見た目も重要 ―― アプリ「sinsai.info」,「助けあいジャパン ボランティア情報ステーション」
4月12日時点で既に最初のバージョンが公開されていた「sinsai.info」と「助けあいジャパン ボランティア情報ステーション」については,見た目と使い勝手についての議論が活発に行われた.
「sinsai.info」は,震災情報サイト「sinsai.info」のAndroidクライアントである(図2).開発にあたっては,既存の「Ushahidi」のAndroid版をベースとすることができ,短期間で公開にこぎつけられたのは貴重な成果であった.しかし,「アイコンをタップすると,最初に設定ページが表示されてしまう」という問題があった.スキップすれば済む話なのだが,震災情報を得ようとする人のせっぱ詰まった状況や,その人がもしかするとスマートフォン初心者かもしれないという背景を考えると,スムーズな使用を妨げる問題は一つでも少ない方がよい.
図2 Androidアプリ「sinsai.info」のスクリーン・ショット

「助けあいジャパン ボランティア情報ステーション」は,XMLで配信されているボランティア募集情報を閲覧するアプリである.ボランティア志望者のモチベーションを高めるために,その情報を閲覧するアプリのアイコンはクールであるに越したことはない.「sinsai.info」は表示の問題を解決し,「助け合いジャパン ボランティア情報ステーション」はクールなアイコンをデザインした上で,それぞれ,現在は最新版が公開されている(図3).
図3 Androidアプリ「助けあいジャパン ボランティア情報ステーション」のスクリーン・ショット
