アプリの完成と新たに見えた課題,そして日常へ ―― 日本Androidの会 災害時支援アプリ・マッシュアップ・ミーティング 第3回レポート

みわ よしこ

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レポート 2011年5月16日

●その時,通信手段はないかもしれない ―― すれちがい通信アプリ「MONAC」

 東日本大震災では,広い範囲にわたって有線電話・携帯電話などの通信インフラが利用できなくなり,被災地の多くで,直後の情報収集に支障が発生するという問題があった.携帯電話を含めて,電話は利用できない可能性が高い.インターネット通信は災害に強いけれども,大災害の直後には利用できない期間があるかもしれない.日本のインターネット通信のハブは東京の大手町に集中している.東京が直下型地震に襲われたら,日本ではインターネットの利用が困難になってしまうかもしれない.今回のミーティングでは,災害時の通信インフラに関する議論も行われた.「被災時に災害情報を確実に得られるようにするためには,電池の必要ない鉱石検波ラジオを全世帯に配布しておく必要があるのではないか」という意見まで飛び出した.

 ここでタイミング良く,大阪大学の寺西 裕一氏が,Bluetoothによるピアツーピアすれちがい通信とクラウドを接続してメッセージ交換する仕組み「MONAC」を使って,Twitterへの投稿のデモンストレーションを行った(図4).インターネットに接続されていないスマートフォンからTwitterへのメッセージを送出し,周辺のスマートフォン伝いにBluetoothでメッセージを送り,インターネット接続されているスマートフォンからTwitterへの投稿を行うことができた.投稿に時間がかかり,「トラブルかな?」と寺西氏が少し緊張しているところで,無事にTwitterへの投稿が行われたことが確認され,会場は和やかな笑いに包まれた.

図4 Androidアプリ「MONAC」を紹介するAndroid MarketのWebページ


このような仕組みがあれば,公衆インターネット網を利用できない状況でも,通信が行える可能性が高くなる.MONACはこの後,2011年5月8日にAndroidマーケットで公開された.

 また災害時には,「手元のスマートフォンは生きているのだけれど,今は通信が行えない」という状況も考えられる.インターネットに接続されていない状態のスマートフォンでも,送信したいメッセージや音声などの送信準備を行っておくことは可能だ.さらに,それらのデータを後でインターネット通信が可能になったときに送信できれば,災害時の人的リソースを有効に利用できる.

 あゆたの白石 俊平氏は,HTML5のローカル・ストレージ機能を利用し,オフラインでも動作するiPhone向けメール・クライアント「正宗メール」について発表した(写真2).オフラインで作成しておいたメッセージが,オンラインになった時に送信されるというデモンストレーションが行われた.白石氏は,このメール・クライアントを1日で開発したとのことである.

写真2 正宗メールについて発表する白石 俊平氏

 

●何が起こっているんだ? ―― 放射線計測網を作ろう

 3月11日夜に発生した福島原発のトラブル以後,政府や公共機関の発表する放射線計測結果や,それらの結果を基にして行われる避難勧告などに不信感を持つ人々が増えている.放射線計測は,装置を取り扱うことにも結果を読み取って解釈することにも困難が伴う,難易度の比較的高い計測である.素人計測で信頼できる値を得ることは容易ではないが,公式発表に信頼が置けないときに参照できるデータがあれば安心につながるかもしれない.第3回ミーティングでは,主に個人による放射線計測網の整備とデータの集積・可視化についても報告が行われた.Webサイト(http://xsensor.org/)の説明に従って緯度・経度と数値をWebAPIに入力すると,補間を行った数値の等高線が地図上に表示されるシステムが開発されている(図5).

図5 補間を行った数値をGoogle Mapsに重ねて表示した可視化データのサンプル


●情報をどのように集めるのか? 正しさを誰が担保できるのか?

 被災地に近い立場からは,今回,日本ユニバ震災対策チームの森氏が参加した(写真3).日本ユニバ震災対策チームでは現在,約30名のボランティアが常時活動している(詳しくは日本ユニバ震災対策チームのWebサイトを参照).活動内容は,避難所などを巡回して必要な物資を聞き取り,ニーズに応じた物資を届けるというものである.また,避難所生活が長期にわたっている人々のために,温泉地で入浴サービスを提供するツアーも企画している.

写真3 被災地でのボランティア活動について報告する日本ユニバ震災対策チームの森氏

 

 日本ユニバ震災対策チームの活動においても,アプリ「近くの避難所」と同じように,情報をどう収集するか,情報の正しさを誰が担保するか,情報のアップデートをどう行うかなどの問題がある.「今,どこに避難所があり,何名がそこにいる」という情報は支援活動の基盤となるはずだが,正確な情報の集積やアップデートにはほど遠い状態である.今回の震災では,地方自治体が被災して機能しなくなった地域も多く,さらに問題を困難にしている. 

●「日常」に着地する震災支援アプリ開発

 2週間にわたって進められてきた,マッシュアップによって災害支援アプリを開発するというプロジェクトは,いったん区切りをつけることとなった.

 ドネーション・システム「Payforwarding」の開発など,この活動の中心となった飯塚 康至氏は,「スピード感が重要なのに,2週間という期間では,思っていたほどアプリの開発は進まなかった」と反省した.

 しかし,災害は次にどこでどのような形で起こるか分からない.また,福島原発の事故に端を発した放射性物質の拡散にまつわる問題は,今後も継続的な対応が必要になる.日常の環境モニタリングは,多くの人にとって必要性の高い課題となっている.「ここで中止はできないよね?」という丸山氏の呼びかけに,全員が拍手で答えた.そして,「いろんな人の話を聞かなくては」,「想像力を働かせなくては」といった課題について語り合いつつ,ミーティングは幕切れとなった.

 

みわ・よしこ
フリーランス・ライタ / 日本Androidの会・福祉部

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