拝啓 半導体エンジニアさま(25) ―― 東日本大震災をきっかけに「よそより良いものを作る」モノ作りが崩れる!?

ジョセフ 半月

tag: 半導体 電子回路

コラム 2011年5月30日

 自動車各社などが相当な人数を注ぎ込んで復旧支援したルネサス エレクトロニクスの那珂工場ですが,とうとう生産を再開するようですね.復旧にあたられた関係者の方々の努力のお陰で,かなり前倒しのスケジュールで再開できるようになったようです.しかし,出荷量が旧に復するのは秋までかかり,当面は在庫払底の厳しい状況が続くとの報道です.

 望んでそうなったわけではないのですが,那珂工場は今回の震災でクローズアップされたサプライ・チェーン問題の象徴になってしまっていました.日本中どころか世界のあちこちのモノの生産が,東日本のある1カ所の工場で生産される部品に頼っていたため,一つの工場の被災が即座に世界中の生産の停滞を招いた,という問題です.最近の極端に部品在庫を抑える「効率的な」生産方式が問題を増幅したという面も指摘されています.

 これは震災が顕在化させた「リスク」の一つですが,私たちのような部品業界にも非常に大きな影響を与えることになりそうな問題です.

 

●部品供給が止まるリスクを各社が一斉に真剣に検討を始めた

 そのような「リスク」の調査が進む中で,いろいろな事が明らかになってきました.例えば,以前から部品供給におけるリスクを避けるために複数購買を進めてきたはずが,「1次下請けは複数でも,結局,最後は1社1工場に集中していた」とか,「そんなに皆が頼っている重要な部品を作っているのに,全然もうかっていなかった」とか....

 本質的な変化は,今回のような供給が止まるリスクを各社が一斉に真剣に検討を始めたことではないかと思います.今後は,どの製品分野でも地域の離れた複数工場からの供給が要求され,それができないとなかなか製品を買ってもらえなくなるだろう,ということです.

 そのような中,ルネサス エレクトロニクスは合併でできた会社だけに,異なる地域に複数のファブを持っているので,まだ対処の仕方があるほうではないかと想像します.実際,今後は製造プロセスの共通化を進め,同じ製品を複数の工場で流せるようにする,といったニュースが流れていました.また,海外ファブの利用も進めるのだと思います.

 社内で相互運用可能な複数の工場があり,リスク分散を図れるのであれば,わざわざ他社を入れる必要はなく,製造側の立場では一番良い状況なのではないかと思います.しかし,そうもいかない場合は大変です.だいたい日本の製造業は,このところ製造効率とコスト競争力向上を狙って工場ラインの集約を進めてきた会社がほとんどだと思うのです.それが急に「リスクを分散しろ」,あるいは「日本は地震や津波が心配だ」などと言われてしまうと,仕事を海外の他社にとられるくらいなら今まで我慢してきた海外製造に踏み出す,というような決断をせざるをえなくなるのではないでしょうか.どうもその手のニュースがチラホラ出てきたようですが,今後はもっと増えていきそうです.

 国内で製造を続けてきた各社とも「ノウハウの流出を恐れて」,あるいは「国内の雇用の確保」のためになんとか国内での製造にこだわってきたのでしょう.それらの会社がリスク分散のための海外製造に踏み出せば,すでに空洞化がかなり進んでしまっている国内に,さらなるマイナス要因がのしかかってきそうで心配です.地震や津波がない海外に行ったとしても,今度は「地政学的リスク」などがあったりして,「どっちもどっち」のような気がします.

 

●差異化や品質についての考え方に影響

 そんな「リスク分散」の流れで一番気になるのが,「差異化はいらない」といった流れにまでつながらないだろうか,ということです.ほとんどの日本のエンジニアは今まで「他社と差異化できる」製品の設計や製造に注力してきたのではないかと思います.それは「性能で差異化」であったり,「同じ性能をより安いコストで提供」だったりしますが,他社,特に海外メーカに対して「差異化」することで生き延びてきたのではないでしょうか.

 ところが「リスク分散」を第一に考えるようになると,それこそ「海外メーカと同程度の品質でよいから同程度の価格でやってよ,交換可能なように...」という考え方が出てきそうに思われます.ある意味,日本の部品メーカがよって立ってきた「よそより良いものを作る」という点が崩れてしまうのです.それこそ競争は,いかに原価を削るか,というところに絞られてしまうでしょう.どうも,一般消費者向けの大量生産品では,そういう考え方に傾きつつあるように思われます.そういうとき日本のエンジニアは,「高性能なものをなんとか安く」という考え方で今までやってきました.そして,「まず値段ありきで,性能はそれなり」というのには慣れておらず,また,海外とは競争にならないのではないか,と恐れます.

 それでも「差異化」にこだわるのであれば,もはや一般向けの大量生産品でなく,プロフェッショナルを対象とした特殊製品に活路を見出すしかないように思います.ただ,そこでも象徴的な事物が原発の現場にありました.冷却水の注入に使われた超大型のコンクリート・ポンプ車はドイツ製,建屋の偵察に使われたロボットなどは米国製です.

 「重機もロボットも世界先端だったはずの日本で,なぜなんだ」といった論調の報道もあったのですが,製造業の皆さんならよく分かると思うのです.日本は,数が出る売れ筋の工業用ロボットや重機なら確かに良いものを持っているのですが,数が出ない特殊仕様となるとなかなか日の目を見ない国だと....

 この先も日本のエンジニアが「差異化」路線でいきたいのなら,どうも数の世界を離れて生きる決意も同時にしなければならないのかも知れません.

 

ジョセフ・はんげつ

 

 

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