デバイス古今東西(25) ―― スマート・グリッド時代のグリーン・デバイス再考

山本 靖

tag: 半導体 電子回路

コラム 2011年5月27日

 東日本大震災の影響による電力供給問題は長期化しそうな気配です.個々のエレクトロニクス商品に省エネの強みを発揮してきた日本のメーカには,現状に照らして自社の製品開発を見直す動きがあります.それは個別デバイスごとの低消費電力の追求とか,企業ブランド向上のみを目的とするのではなく,社会全体に配慮したグリーン・デバイスの開発,そしてそれを応用した「もの作り」です.本コラムでは,まずスマート・グリッドとスマート・メータについて述べ,環境負荷低減につながるグリーン・デバイスについて考えます.

 

 

●スマート・グリッドは巨大な市場へ

 スマート・グリッドとは,双方向の情報通信技術を駆使して電力供給者から電力需要者(ならびに一般消費者)へ電力を提供する「次世代送電網」を意味します.商業施設や一般消費者宅にある電化製品のエネルギーを節約し,コストを低減し,そして信頼性を向上させることが目的です.送電網は,情報ネットワークならびに後述する「スマート・メータ」にも照準を当てています.スマート・グリッドはさらに,地球温暖化とエネルギーの独立性に対処する方法として多くの国で進められつつあります.ここで言うエネルギーの独立性とは,従来の発電方法に加えて,地域ごとに太陽光発電や風力発電などを組み合わせて電力を効率良く利用することを指します.

 米国Cisco Systems社は,全世界のスマート・グリッドのハードウェアとソフトウェア,通信インフラ(社会インフラを含む)からの総収入が,2015年までに年間で200億ドルに達すると推定しています.このようにスマート・グリッドは,とても巨大な市場となる可能性があります.

●スマート・メータにつながるZigbeeとPLCの可能性

 スマート・グリッドで重要な領域の一つは,家庭内ネットワーク(HAN:Home Area Network)です.つまり,電力制御機能のためのネットワークだけでなく,通信機能のネットワークにも対応していることが必要です.この二つの機能を備え,それぞれ双方向にやり取りする機能を持った次世代電力計が,スマート・メータです.スマート・メータは,インテリジェント化された電力計として,ルータやセットトップ・ボックスに代表されるインターネット・サービス・プロバイダのゲートウェイと,屋内の電化製品の双方に接続されます.

 また,今後の家庭内ネットワークは,無線および電力線通信(PLC:Power Line Communication)によって形成されることでしょう.家電向けの短距離無線通信規格であるZigBeeは,その無線の候補の一つです.Zigbeeは低価格と低消費電力を実現できます.しかし低速で転送距離が短い上,コンクリート壁の透過が困難な問題があります.そのために電力線を使ったPLCでそれを補完する方法が考えられます.電力線搬送通信の業界団体であるHomePlug Powerline Allianceは,スマート・グリッド向けのホームプラグ規格「HomePlug Green PHY」の標準仕様書を発表しています.チップの製造コストを安くできる仕様で,低消費電力,およびIPネットワークをPLCで実現でき,IEEE 1901として標準化されたパナソニックのPLC技術とも相互運用可能になっています.

 米国の取り組みは日本よりはるかに先行しています.それは2000年の米国カリフォルニア州で頻繁に停電が発生して以来,電力問題の意識が高まってきたからです.

●電力制御と通信を見据えた家庭内ネットワークの将来

 スマート・メータは電力会社から見ると,家屋や工場の使用電力量をリアルタイムに把握でき,検針業務の自動化や柔軟な課金設定も容易になります.例えば,夏場の昼間,電力のピーク時の需要を抑える方法として「ピークロード料金」という混雑料金を設定するという考え方があります.ピーク時の需要をオフピークにシフトさせることができれば,極論ですが,計画停電などを実施せずに,各家庭や各工場への電力供給量をある一定の制限までに抑えることが可能です.つまり,供給管理だけでなく需要も管理できるので,電力量の需給ギャップを調整できます.

 スマート・グリッドは消費者にもメリットをもたらします.消費者は,各家庭内の使用電力量をチェックでき,それを制御できます.スマート・グリッドにおける将来の家庭内ネットワークの概念図を図1に示します.家庭内の電気コンセントにつながっているあらゆる電化製品(炊飯器,電気ポット,エアコン,冷蔵庫など)が制御の対象となります.外出先からでもインターネットを介してリアルタイムにさまざまな設定が実現できます.

図1 スマート・グリッドにおける家庭内ネットワークの将来


 電力制御のもう一つのメリットとして,LED(発光ダイオード)照明を効果的に使うことができます.LED照明は白熱照明に比べて低消費電力ですが,メリットはそれだけではありません.ネットを介在してLED照明を制御することで,特定の時間に特定の場所にある照明の明るさを調整したり,点滅させたり,消灯したりできます.故障した照明の発見も容易です.物理的なスイッチを利用せずに制御できるので,膨大な数の照明機器を持つオフィスや工場では設定が従来よりも簡単になります.

 今後,太陽光発電や風力発電を備える消費者や企業が多くなると思います.自然現象を利用した再生可能エネルギーの電気を売る際にも,スマート・メータは活躍します.さらに将来は電気自動車(EV)の普及も進むでしょう.例えば,自宅の駐車場に停めた友人の電気自動車に蓄電したい場合,友人の固有IDのクレジット・カードに課金することが可能となります.

 米国では,そういったことが一般消費者レベルで現実的に語られています.

●これからの「グリーン・デバイス」に求められるもの

 上述したスマート・グリッドを中核とした家庭内ネットワークにつながる機器には,それを構成するエレクトロニクス・デバイスが不可欠です.日本のメーカは個別デバイスごとの低消費電力の追求とか,企業ブランド向上のみを目的とするのではなく,社会全体に配慮したグリーン・デバイス開発とそれを応用したもの作りの見直しを始めています.グリーン・デバイスはもはや単純に電子データの通信機能だけではありません.今まで一方向しかサポートしていなかった電力エネルギー転送機能を双方向化させ,環境負荷を低減する役割が期待されています.


やまもと・やすし


◆筆者プロフィール◆
山本 靖(やまもと・やすし).半導体業界,ならびに半導体にかかわるソフトウェア産業で民間企業の経営管理に従事.1989年にVHDLの普及活動を行う.その後,日米で数々のベンチャ企業を設立し,経営責任者としてオペレーションを経験.日米ベンチャ企業の役員・顧問に就任し,経営戦略,製品設計,プロジェクト管理の指導を行っている.慶應義塾大学工学部卒,博士(学術)早稲田大学院.

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