拝啓 半導体エンジニアさま(19) ―― 「変身!」が求められる電機メーカ,家電量販店で車が販売される時代へ

ジョセフ 半月

tag: 半導体 電子回路

コラム 2010年11月29日

 このところEV(Electric Vehicle;電気自動車)が注目を集めているようです.ある自動車会社がEVを家電量販店で売る,というニュースも流れていました.車というと自動車販売店で買うもの,という意識があるので,「家電量販店で車」という話にはピンとこなかったのですが,世の中の変化は思った以上に激しいようです.

 時代が変曲点を迎えているのでしょう.いままで無関係と思われていたような業界の間で,唐突とも思えるコラボレーション(協業)の関係が発生したり,あるいは利害の相克が起こったりしかねない時代に入ったように思われます.

●「EVの普及」が電機業界の構造を変える

 日本ではEVは「初物」扱いで,市場の開拓はまだこれから,という段階です.

 モータで動力をアシストする自転車については,日本ではすでに実績が積み上がっていて,かなり普及しています.一方中国あたりへ行くと,モータでアシストするのではなく,モータで走り回れる電動バイク(どうもかの国では,自転車扱いらしい)が数千万台も走り回っているようです.日本は法規制などが異なるので,そう簡単に中国製の電動バイクが普及するとは思えないのですが,遅かれ早かれ似たようなものが日本でも普及するのではないか,と考えています.

 こういうトレンドを見ていると,どうも内燃機関からモータへの置き換えは急速に進みそうです.機械的な内燃機関から電気的なモータに切り替わるのだから,私たち"電気屋"にとっては良い方向に向かっているように思いがちですが,それほど単純な話ではありません.

 ガソリン・エンジンなどの制御用の電子装置やそこに使われる半導体,そしてソフトウェアは過去数十年の蓄積の中で非常に高度なものとなっており,金額的にもそれなりに大きなものとなっているはずです.皆さんの中にも,その関係のお仕事をされている方がたくさんいらっしゃるのではないでしょうか.

 このあたりの蓄積が,EVに置き換わると「チャラ」になってしまう可能性がなきにしもあらずです.車載向けの電子技術のうち,足回りや運転席まわりについては,EVになっても現在の延長で使えるものが多いと思います.けれど,もっとも高い技術力が必要なエンジン・ルームの部分が全面的に変わってしまいます.このインパクトは大きいのではないでしょうか.

 この動きが進むと,産業構造が変化したり,業界地図が塗り変わる可能性すらあります.内燃機関であれば,今の自動車や自動二輪車の市場に新規参入で割り込む,というのは不可能に近い困難さだと思います.たとえて言うと,新規参入のメーカがスタート・ラインに立ったとしても既存のメーカは遥かに先を走っている,という状態です.ですから"電気屋"の私たちとしては,既存の自動車メーカとだけ商売させてもらえればよいわけです.

 しかし,EVや電動バイクであれば,参入障壁は一気に下がると考えられます.高性能な電池やモータそのものを製造するのはなかなか難しいのですが,電池メーカやモータ・メーカが自動車やバイクを作っているわけではないので,電池やモータは基本的にお金を出せば誰でも同じものが買えます.当然,いろいろな技術が必要ですが,新規参入組にとってスタート・ラインの位置が既存のメーカとそれほど異なっているわけではありません.かえって,過去のしがらみがない分,すばやく動けるかもしれません.

 中国の電動バイクの盛況などを見ていると,雨後の筍(たけのこ)のようにEVメーカが現われる可能性も考えられます.潜在的には,それこそ既存の自動車メーカの寄って立つ基盤がゆらぐ可能性だってありそうです."電気屋"のつもりでいた自分が,いつの間にか"自動車屋"になっていた,という人だって出てくるかもしれません.

●「自動車と電力」の間にも密接な関係

 別の切り口で,「EVをスマートグリッドと結びつける」という話も以前からちらほら出てきています.電力伝送系の安定化に大量の電池を積むことになるEVを「活用」してやろう,という意図だと思います.ここでも「自動車と電力」という,かつてはまったくの異業種と思われていた分野に,(利害を共有するのか,相反するのかは別として)密接な関係が出来上がるかもしれません.

 そんなことを考えていると,とりあえず「電池」用のパワー・デバイスなどを作ったらいいのかな? などと短絡的なことを考えたりもしますが,売り先の自動車メーカがどこかの国の安売りメーカに負けてしまったら,販路そのものがなくなってしまうことになります.「毎年のサイクルで計画し」,「こつこつと地道に改良する」のが得意な日本の製造業にとっては,難しい時代だとは思いますが,ここを乗り越えていかなければ先の展望が見えません.

 「そういう時代だ」と割り切ってしまえば,「家電量販店で車を売る」のでも何でも,みずからの意識を変えてこちらから変化を仕掛けてゆくという意味で,良いことなのかも知れません.今までの延長ではない新たな仕組みを作ること,あるいは変化に即した「あっ」という間の変り身,といったものが強く求められているように思います.

 そういえば「変身!」は日本のカルチャではおなじみでした.日本の電機メーカは,うまく「変身!」できるでしょうか?

 

ジョセフ・はんげつ

 

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