組み込み技術者のための資格試験,傾向と対策(7) ―― OCRES(OMG認定組込み技術者資格試験)
Column 福島原発事故対応に米国製のロボットが使われる理由
福島原子力発電所の事故で,日本のロボットより先に,米国製のロボットが現場に投入されました.なぜ日本のロボットを使わないの? 日本ってロボット先進国じゃなったのか? などの文字が,メディアやネットで踊りました.
今回のコラムで紹介した書籍『組込みシステムのためのソフトウェアエンジ二アリング 基礎編』の「第2章 高信頼性ソフトウェアを求めて」-「2.3.3 実現可能性と適合性」の項で,「それは動くのか(実現可能性)」,また「どの程度うまく動くのか(適合性)」について評価するべき項目が列挙してあります.その中の後半に,
- 電源がなくなった場合のデータ保管場所等の特定の実行条件
- 電源供給のパラメータ
- 放射線耐性等の,特殊なパラメータ
という項目があります.以前にこの本を読んだときは,この3項目をさらっと読み過ごしていたのですが,今回の震災後に読み返してみると非常に痛く感じます.特に放射線に関することについては,和書でこのような記述を見かけることは少なく,記述があっても半導体デバイスの専門書ぐらいで,ましてやソフトウェア・エンジアリングの本ではまれなことでしょう.
3月の震災前までは,「安定した電源をいつでも使えるものだと思っていた」,また「放射線の影響注3など全く想定していなかった」のが一般的でしたが,震災後我々は,その考えを改めなければならない事態に直面しています.電力不足や停電,目に見えない恐怖に対する認識.日本人には,そのあたりの観点が欠落していたのかもしれません.ソフトウェア畑出身のエンジニアが,組み込みシステムのアーキテクチャを決定することも増えてきているようですが,エンジニアには,上記のような見識も求められる時代が来ているのだと思います.
注3:放射線は電離作用を持つ.放射線の影響を受けた原子からは電子が飛び出し,電子の抜けた陽イオンが残る.電子が飛び出すと電気が発生するので,高い放射線下では,論理素子の誤動作の確率が高くなると言われている(例えば,論理素子の0と1が反転する,SRAMのデータが化けるなど).そのため,放射線の影響下で信頼性を保つには,シールドなどの物理的な保護に加え,冗長化などによる信頼性向上やメモリのエラー・チェックとコレクトが必要となる.また,半導体プロセスが高度化して精細になるほど(高性能・高容量になるほど),エラーの発生確率は高くなる.また,省電力化や発熱の問題で電源の低電圧化が進み,その分,エラーの発生確率も高くなってきている.要は,最新の高性能デバイスになればなるほど,そしてメモリを積めば積むほど,放射線の影響を受けやすくなるジレンマがある.通常の環境に比べて放射線の影響を強く受ける航空機や宇宙機,さらに核戦争を想定した兵器では,それらを想定して,専用のデバイスや実績がある枯れたデバイスを使用する場合もある(例えばFPGAの場合,現在主流のSRAMタイプのFPGAではなく,昔からあるヒューズ型FPGAを使う場合もあると聞く).放射線によるエラーについては,コラム「デバイス古今東西(23) ―― 放射線によるソフト・エラー:組み合わせ回路の脆弱性問題」なども参照のこと.