拝啓 半導体エンジニアさま(24) ―― アナログICの業界で発生した「強いものがより強く」の企業買収

ジョセフ 半月

tag: 半導体

コラム 2011年5月 2日

 なかなか震災の影響から抜け出せない日本ですが,海外の半導体メーカ各社は変化し続ける市場に対応するため,動いているようです.その中でも最近目を引いたのは,Texas Instruments(TI)社によるNational Semiconductor(NS)社の買収の発表でしょう.大型企業間の買収なので規制当局の確認なども必要でしょうから,最終的な買収完了はまだしばらく先かと思われます.しかし,もともとアナログにも強いTexas Instruments社が,これまたアナログICの本流の1社とも言えるNational Semiconductor社を買収してしまうのですから,買収が完了すると,「強いものがより強く」ということになるかと思います.

●老舗だが,最近はちょっとジミだったNational Semiconductor社

 National Semiconductor社といえば,シリコンバレーでも老舗の会社です.かつても今もシリコンバレーの「シリコン」の老舗企業,Intel社,Advanced Micro Devices(AMD)社,National Semiconductor社の3社は,車で数分という狭い地域に存在します.創設当初は3社ともいろいろな製品を手がけていたように記憶していますが,ご存知のとおりIntel社とAMD社は事業をマイクロプロセッサ中心に絞って発展してきました.

 これに対して,National Semiconductor社はアナログICが事業の中心です.実はディジタルICが「イケイケ」だった時代には,National Semiconductor社もディジタル系の市場の成長率にちょっと目がいったのでしょう.マイクロプロセッサなどの製品を手がけたこともありました.きっとIntel社やAdvanced Micro Devices社と同じような成長シナリオを描いたこともあったのだと思います.けれど,結局のところほかの2社とは異なり,アナログICを中心とする事業展開に落ち着いたようです.

 どうも外から見ているとこの会社は,開発エンジニアも経営者も「アナログの権化」みたいな人が多く,アナログICにかなり執着が強かったのではないかと思われます.そんな昔からアナログICを一貫して手がけてきた会社であり,定番もののOPアンプをはじめ,分厚いラインナップを取りそろえていることから,お世話になった方も多いのではないかと思います.

 近年は電源系のICなどに注力しているようで,例えば太陽光発電向けのコンポーネントなどはアナログをよく知っている会社が一歩アプリケーションに踏み出した仕事だなぁ,と感じていました.しかしその反面,ほかの小回りのきくアナログ専業の半導体ベンダから斬新な発想のICが次々と出てくるのと比べると,ちょっと新鮮みに欠け,ジミだったように思われます.これは,National Semiconductor社が老舗企業としての「伝統」を背負っているせいかもしれません.

●アナログICの「最強」を目指すTexas Instruments社

 一方,Texas Instruments社の方は,いわずと知れた半導体の源流の1社であり,ディジタルもアナログもずっと手がけてきた会社です.ひと昔かふた昔前は「DSP(ディジタル信号処理プロセッサ)一辺倒」だったように記憶していますが,気がついたらいつの間にか「脱DSP」していたようです.もちろん今でもDSP系統のプロセッサはラインナップの中心に持っています.しかし以前と比べると,「DSP,DSP」言わなくなりました.DSPの技術がいまや「普通」になってしまったためかも知れません.どうもTexas Instruments社は「ディジタル」から「アナログ」へ軸足の比重がかなり移してきているように見受けられます.

 およそ10年前にもTexas Instruments社はアナログICで定評のあったBurr-Brown(BB)社を傘下に入れています.アナログ部門を持っていない会社がアナログICの会社を買収したのではなく,もともと立派なアナログICを作ってきているのに,さらにアナログの会社を買収するとは「なんて貪欲な!」と,そのときは思ったものです.しかし今回のNational Semiconductor社の買収の話を聞くと,Texas Instruments社はアナログICで他社の追随を許さない「最強」を目指しているようにも見えます.

 買収された後も,National Semiconductor社の商標は残るようです.先に買収されたBurr-Brown社の製品の場合も,データシートを見ると見慣れた「BB」のロゴがあり,片隅に控えめにTexas Instruments社のロゴが添えられているという感じです.National Semiconductor社の場合も,使い慣れた同社の定番アナログICはそのままの型番で残ることは間違いありません.

 相手の「市場」だけを狙った買収では,買収後に買収した会社の製品が雲散霧消する,というケースも少なくありません.しかしTexas Instruments社のアナログIC企業に対する買収の方針は,強引な統合を狙っているというよりも,製品的には元のブランドの「自主性」を残したもののように見えます.「誰でもできる」ディジタルICの設計と違って,アナログICはやはり専門性の高いアナログの設計者がいて,そしてアナログの「伝統」があって初めて成り立つものなので,設計者も含めた有形無形の資産を囲い込む,という方針なのかもしれません.

 その点では確かにNational Semiconductor社はアナログの背骨の通った会社であります.この先にどのようなシナリオを考えているのか,Texas Instruments社のアナログIC戦略が気になるところです.

 

ジョセフ・はんげつ

 

 

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