川口プロマネが「はやぶさ」プロジェクトの裏側を語る ―― エレキジャック・フォーラム in Akihabara 2011レポート

福田 昭

tag: 組み込み 電子回路

レポート 2011年4月25日

 電子工作とサイエンスに関するイベント「エレキジャック・フォーラム in Akihabara 2011」が2011年4月16日に東京・秋葉原のイベント・スペース「AKIBA_SQUARE」(東京都千代田区)で開催された.

 エレキジャック・フォーラムは講演(基調講演とトークショー),電子工作教室,実験・技術教室,実演コーナ,展示会・即売会といったさまざまなイベントで構成されている.入場は無料である.開場時刻である午前9時半には,入場を待つ長い列ができていた(写真1).

写真1 「エレキジャック・フォーラム in Akihabara 2011」の会場
最初のイベントである基調講演の開場直後に撮影した.入場を待つ列が会場の前にできている.


 当日のスケジュールは以下のようになっていた.午前9時40分~午前10時25分は基調講演だけが開催される.そして午前10時40分から,トークショー,電子工作教室,実験・技術教室,実演コーナ,展示会・即売会がほぼ同時に始まる.

●初めて小惑星からサンプルを持ち帰る

 基調講演の講演者は,小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクト・マネージャを務めた宇宙科学研究所 宇宙航行システム研究系 研究主幹 教授の川口 淳一郎氏である(写真2).もはや日本中で知らない人が少ない「はやぶさ」の川口氏による講演とあって,オンラインでの事前登録受け付けは早々に満席となった.

写真2 基調講演の講演者である川口 淳一郎氏(宇宙科学研究所 宇宙航行システム研究系 研究主幹 教授)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「はやぶさ」プロジェクトでプロジェクト・マネージャ(プロマネ)を務めたことで知られている.


 基調講演の題目は「『はやぶさ』が挑んだ人類初の往復の宇宙飛行,その7年間の歩み」である(写真3).川口氏はまず,「はやぶさ」プロジェクトの目的と成り立ちについて説明した.

写真3 基調講演の会場であるメイン・ステージ
講演の開始前に撮影した.空席があるのは,登録者の入場が完了していないため.


 小惑星は太陽の周囲を回る小さな天体であり,地球や木星などの惑星と違ってはるか昔に太陽系で惑星が誕生したときの様子が天体表面に残っているとされている.このため,小惑星の表面から砂や粒子などのサンプルを持ち帰ることができれば,地球誕生の手掛かりを得られる可能性がある(写真4).

写真4 「はやぶさ」プロジェクトの発祥となった宇宙科学研究所の「小惑星サンプルリターン研究会」
1985年6月29日に会合が開かれた.


 ただし,これまでの宇宙探査機のほとんどは地球への帰還を想定していなかった.「はやぶさ」は史上初の小惑星往復探査プロジェクトであり,このことが2010年に日本で「はやぶさブーム」とでも呼ぶべき世間の注目を集めた.

 この「サンプルを持ち帰る」ことがはやぶさの最大の目的だと川口氏は強調した.なぜかというと,サンプルを分析する技術は今後も進化するからだ.現在は分析不可能な事柄でも,将来は技術が進歩することで分析できるようになる.それまでの無人宇宙探査機ではサンプルを持ち帰らないので,このようなことは不可能だった.

 宇宙科学研究所の先輩方の気風に,このような前人未踏のプロジェクトを発想する素地があったとする.「見えるものはみな過去のものである」,「これまで学んだものはみな練習問題」といった先輩の発言を紹介し,「手本が存在するかどうかは関係ない」,「教科書や論文などは過去のことしか書いていない」,「最初の3カ月はすべて自分で取り組め」といったアドバイスを述べた.

●宇宙探査機と原子力発電所の共通項

 無人宇宙探査機は打ち上げてしまうと,人手による修理が不可能になる.だから,宇宙探査計画とは本来,人手による修理ができないことを想定するものだと川口氏は説明した.「はやぶさ」に限らず,すべての無人宇宙探査機は修理が不可能であることを想定したバックアップ機能を備えている.

 実際に「はやぶさ」で威力を発揮したバックアップ機能の例として,リアクション・ホイール(姿勢制御機構の一部)の故障を挙げていた.リアクション・ホイールが故障するとまず,ロケット・エンジン(化学エンジン)が代わりをつとめる.ロケット・エンジンが故障すると,イオン・エンジンと光圧で代わりをつとめさせる.さらに,イオン・エンジンの一部が壊れても,残りのイオン・エンジンと光圧で代替するという仕組みになっていた.すなわちバックアップ機構が3段階もあるのだ(写真5).

写真5 「はやぶさ」のトラブル対策思想
メンテナンスや修理などが不可能であることを前提にしたバックアップ機能を組み込む.


 ここで川口氏は,話題を東京電力・福島第一原子力発電所のシステムに移した.「信じられないシステム」,「宇宙から考えれば,もっと安全なシステムもできたのかもしれない」とコメントした(写真6).考えてみると,原子力発電所で事故が発生すると,高レベルの放射線が漏洩した区域では人間による修理作業が困難になる.人手による修理が不可能になるという意味では,宇宙探査機の設計と原子力システムの設計には,共通の設計思想が横たわっていなければならない.それは例えば人手を介在しない,何重ものバックアップ機構だろう.

写真6 東京電力福島第一原子力発電所の事故に対するコメント


 また国際的な透明性でも,意識の違いがあるという.「はやぶさ」が収集したサンプルを格納したカプセルはオーストラリアに着地したのだが,カプセルの回収作業には日本人研究者のほか,米国とオーストラリアの研究者が参加した.公正な作業が実施されたことを国際的に証明する際の,証人になってもらうためである(写真7).日本人だけの回収作業だと極端に言えば,現地でカプセルに砂を詰めたとの疑いを持たれかねない.日本は東洋の島国であり,小国である(人類初の成果を出しても国際的には無視されかねない)との認識が必要だという.

写真7 国際的な透明性を意識した「はやぶさ」カプセルの回収作業


 そしてフランスで川口氏が講演したときに,フランスのテレビ局から「福島原発の事故で日本政府は透明性を発揮していると思うか」とたずねられたエピソードを紹介した.日本人は,日本政府は放射線量の高い数値も発表しているので,それなりに公表されていると考えるだろう.しかし国際的な見方はそうではない(写真8).「グローバルな問題を一小国の狭い知見で解決しようとしているのではないか.全世界の英知を集めて検討しようとしていない」と見られているのだと指摘した.

写真8 国際的な透明性を疑われている,福島原発事故の対応

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