クラウドやAndroidで支援する:今の私たちにできること ―― 日本Androidの会 災害時支援アプリ・マッシュアップ・ミーティング 第1回 レポート

みわ よしこ

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レポート 2011年4月 1日

●Androidアプリ開発者が続々と災害時支援アプリを発表

 引き続いて,Androidアプリの開発者から発表が行われた.2011年1月に発足した日本Androidの会・福祉部の世話人である飯塚 康至氏は,2011年2月から,福祉アプリ開発のためにドネーション(寄付)を行いやすくするシステムの開発を始めている(写真8).その開発を前倒しして,震災支援アプリに組み込んで配布し,社会に役立つアプリの開発者を支援したいという構想について語った.

 

写真8 日本Androidの会・福祉部 世話人の飯塚 康至氏

 

 日立オートモティブシステムズの中西 一弘氏は,Androidを使ったカー・ナビゲーション・システムの開発を行っている(写真9).平常時にも便利なカーナビの地図更新や渋滞予測の機能は災害時にも有用であり,避難経路を容易に見つけることができる.さらにAndroidを使ったナビゲーション・システムでは,口コミも含めた情報提供が可能だという.「ほかの車(人)が得た情報をいただくために自分も情報を提供する」というシステムの有効性と強さを語っていたのが印象的だった.

 

写真9 日立オートモティブシステムズの中西 一弘氏

 

 日本Androidの会・福祉部の加藤 和哉氏(写真10)は,開発した震災時支援アプリケーション(仮称マイ・コール)について語った.これは,「まず情報を集めることが重要」という認識のもと,噂も含めて安否情報や必要としている支援などの情報を集め,必要な人に提供する仕組みである.

 

写真10 日本Androidの会・福祉部の加藤 和哉氏

 

 災害時交通流監視システム研究会(災害交通研)の八木 浩一氏は,2004年10月の新潟県中越地震以後,交通情報網の問題の解決に取り組んでいる(写真11).今回の震災は被害が広範囲にわたっており,支援するためには補給ラインの確保がまず問題となる.そこで,毎日取得している自動車通行実績情報を5km平方のメッシュで提供し,ここにガソリン価格比較サイト「gogo.gs」のガソリン・スタンド営業情報を重ねることにより,「どこが通れてどこのガソリン・スタンドが営業しているのか」が分かるようにした.また,道路の段差情報収集のために用いていたアプリ「Bump Recorder(車のダッシュ・ボードにスマートフォンを固定して走行することにより,段差情報を測定してくれる)」が,被災情報収集にも有効だったことが判明したという.同氏は,情報を役に立つ形で提供するためのインタープリタ(翻訳機)が重要であると強調していた.

 

写真11 災害時交通流監視システム研究会(災害交通研)の八木 浩一氏

 

 CSKの中島 毅氏は,緊急地震速報についての仕事をしている(写真12).今回の大震災では25秒前に速報を送信することができ,被害の予防に役立てることができた.地震速報を開始するにあたっては,「生の情報を流すと一般人がパニックを起こす」という内閣府を説得する必要があったという.その後,2008年の茨城県沖地震のときから速報を送信できるようになり,今回初めて大地震に役立った.

 

写真12 CSKの中島 毅氏

 

 また,同氏は以前,盛岡で日本赤十字社の血液供給システムの仕事にかかわっていた.広い岩手県では,各県に一つしかない血液センタから血液を配送すると,各病院に到着するまでに2時間~4時間かかることもあり,間に合わないこともたびたびあったという.そこで,各病院の血液の在庫情報を集積し,血液の在庫を融通し合うシステムを開発した.中島氏は,情報を「どう集めてどう利用するのか」の重要性とともに,想像力と判断の重要性を語った.「支援が必要」と挙げられた手に対応することも重要だが,本当に困難な状況にあると,SOSを発信する余裕もないかもしれないからである.

 日本デジタルオフィスの濱田 潔氏は,阪神淡路大震災の際に,倒壊した映像で有名になった高速道路のすぐそばに住んでいた(写真13).その時の体験とともに,今回開発した緊急連絡用アプリ「J!ResQ」について語った.このアプリは,起動すると自動で音声録音が行われる.そして,その音声のURLが位置情報とともに事前に登録しておいたメール・アドレスに送信され,受信者がそのURLにアクセスすると音声を聞くことができる,というものである.「大地震の直後は手が震えて字も書けなかった」という経験から,今回の震災直後5日ほどで開発したという.

 

写真13 日本デジタルオフィスの濱田 潔氏

 

 NTTデータの三浦 広志氏は,ハイチ地震直後から開始した「OpenStreetMap」プロジェクトおよび東北震災救援サイト「sinsai.info」と,それに対する世界中の注目について語った.システムとしてオープン・ソースのWebアプリケーション「Ushahidi」を利用しているが,実際には人力での作業が非常に多いそうで,協力者を募集中だという.

 KDDI研究所の伊藤氏は,震災当日にたまたま成果発表を行っていた聴覚障害災害時要援護者支援情報機器について語った.この機器は,Bluetoothを用いて情報をLEDディスプレイに表示し,避難誘導を行うものである.災害時要援護者の支援は大きな課題だが,聴覚障害者の場合,聞こえないために情報の入手が遅れ,避難などの対応も遅れがちである.現在,全国に約36万人の聴覚障害者がおり,社会の高齢化に伴って増加中だという.

 東京大学 先端科学技術研究センター(東大先端研) 教授の伊福部 達氏は,地震警報音の作者である(写真14).この警報音は,叔父である伊福部 昭氏(ゴジラマーチ作曲者)の交響曲をもとに作ったという.盲・ろうで指点字を使用する福島 智氏と共同で進めたバリア・フリー・プロジェクトを通して,当事者中心の研究と技術開発が必須であると気付いたこと,また触覚が緊急時の情報伝達に非常に有用であるということを語った.

 

写真14 東大先端研の伊福部 達氏

 

 なお伊福部氏は,NICT「情報バリアフリー」の審査も行っているが,100万円ほどの開発費が得られるにもかかわらず応募が少ないという.「ぜひ応募してください」とメッセージを伝えていた.

 これらの発表のあとはグループ・ミーティングが予定されていたが,帰宅を急がなくてはならない人が多いため中止となった.また残った人で,

  • 「今回の震災で足りなかった情報はどのようなものか」
  • 「このような場合に必要な情報は,どこがどの程度把握しているのか」
  • 「被災者のニーズはどのように集積すればよいか」
  • 「政府の情報開示は今の形態でよいのか」

などの問題をめぐって,23時まで熱心な質疑応答が行われた.

 

●災害時支援アプリのマッシュアップ・プロジェクトを立ち上げ

 この日深夜から,災害時支援アプリのマッシュアップ・プロジェクト「PayForwarding」(https://groups.google.com/group/payforwarding?hl=ja)の活動が開始された.現在は,日本Androidの会・福祉部 世話人の飯塚氏を中心として,「shinsai.info」の協力のもと,避難場所リストの作成を行っている.2011年3月29日には,早くも最初の成果物として,shinsai.info のAndroidクライアントの日本語版(https://market.android.com/details?id=sinsai.info.android.app)を作成し,リリースした.

図1 shinsai.infoのAndroidクライアント(日本語版)

 

 なお,本プロジェクトに協力していただける方には,ぜひ協力していただきたいという.例えば,「○○市の場合,政府が把握している避難場所リストよりも市が提供している避難場所リストの方が正確で,そのデータはどこにある」といった,地元の人でないと分かりにくい状況などの情報を提供していただけると,大変ありがたいとのことである.

 また,2011年4月3日(日)には「災害時支援アプリ・マッシュアップ・ミーティング 第2回」を開催する.東京近郊の方は,ぜひ参加していただきたい.

 

みわ・よしこ
フリーランス・ライタ / 日本Androidの会・福祉部

 

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