電子部品/半導体流通業界の仕組みが分かる ―― 『グローバル時代の半導体産業論』
『グローバル時代の半導体産業論』 |
半導体産業を論じた書籍は,最近では珍しくありません.日本の半導体産業が1980年代の黄金期から2000年代の衰退期に至る理由を解説し,日本の半導体産業が復活するためにはどうすべきか,といった内容を含んだ書籍は,評者が知るだけでも5~6冊に上っています.
本書は既存の類書と比べて,どのような付加価値を提供しているのでしょう.本書の内容のすべてが,類書にはなかった情報を提供しているとは言えませんが,全体の半分前後は新たな付加価値を提供している,というのが評者の感想です.
詳しい説明に移る前に,まずは本書の構成を紹介しましょう.本書は4章立てです.各章の見出しは第1章から第4章まで,すべて「~のグローバリゼーション」という見出しに統一されています.統一感はあるのですが,内容は反映しているとは言えません.
例えば,第1章の見出しは「デジタルライフのグローバリゼーション」とあります.生活(あるいはデジタル家電)のグローバル化の解説だろうかと想像すると,裏切られます.実際は半導体が社会全体に与えた影響や,生活で使用するさまざまなディジタル機器が半導体によって出現したことを述べています.
各章の内容は,以下のようになります.
- 第1章:半導体とその応用機器の関わり(パソコンやテレビ,携帯電話機,クルマなど)
- 第2章:半導体産業の構造変化(垂直構造から水平分業への変化,など)
- 第3章:半導体流通の変化(半導体商社の役割,日本と米国における半導体商社の違い)
- 第4章:著者が創立した半導体ネット通販会社の紹介
すでに半導体産業について勉強していたり,あるいは半導体産業で働いている方々にとっては,本書の第1章と第2章はご存じの内容も多いかと思います.同じ発行元である日経BP社の雑誌「日経エレクトロニクス」を購読している方でしたら,特にその傾向が強いと考えられます.第1章と第2章には,日経エレクトロニクス誌の図版を転載した個所が目立ちます.
本書が類書と異なる付加価値を提供しているのは,第3章です.半導体や電子部品などの流通を支える商社の役割と現状を解説しています.日本と米国では半導体商社の役割が大きく違います.日本と米国の半導体商社のそれぞれについて解説した書籍は類をみないでしょう.ただし残念なのは,第3章における半導体流通の説明が35ページほどと,あまり多くないことです.著者は2001年に半導体のネット通販商社を創立した人物で,半導体商社の動向についてはもっと詳しくて生々しい内容を書いていただきたかったところです.
そして第4章は,第3章ほどではないものの,付加価値を提供しています.それは半導体ユーザであるエンジニアが抱える問題を指摘していることです.ただ,指摘した問題点をネット通販商社が解決できるとの文脈になってしまっているため,やや宣伝臭く見えてしまいます.惜しいです.
各章の最後には半導体業界の著名人が4~5ページほどの「未来展望」と称する原稿を寄せています.これは各章の内容との関連付けが薄いように感じました.
本書が役に立つのは,半導体産業とは別の産業で働いていて,最近の半導体産業の状況を知りたいという方です.こういった方々が半導体産業を知るための入門書,というのが本書の役割でしょう.
ふくだ・あきら
テクニカル・ライタ/アナリスト
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