デバイス古今東西(21) ―― M&Aによる資本集約が進む半導体テスタ業界,合従連衡からついに日米2強による寡占化へ?

山本 靖

tag: 半導体

コラム 2011年1月27日

 アドバンテストが半導体テスタ・メーカ大手のシンガポールVerigy社に対して買収提案を行うという報道が,2010年12月にありました.その前月には,Verigy社が競合である米国LTX-Credence社を買収する契約を締結しています.半導体テスタ業界では,半導体事業の資本集約化という現象が,まず半導体事業改革と測定事業の分離独立を促し,次に買収合戦から合従連衡を押し進め,そして日米2社(アドバンテスト,米国Teradyne社)による寡占化の世界が作り出されようとしています.

●垂直統合型の企業がテスタ事業を切り売り

 半導体事業の資本集約化が進展する中で,多くの電機メーカが半導体事業の構造改革に着手したのは2000年前後からです.例えば東芝は,1999年12月,アドバンテストの子会社に,東芝の関係会社であるアジアエレクトロニクスの半導体試験装置部門の資産を譲渡し,関連の従事者も継承する基本合意を締結しました.当時,東芝は「半導体試験装置事業として継続的発展を図るためには専業メーカに統合することが好ましい」,「デバイス事業への一層の資源の集中を図ることができる」とコメントしていました.

 安藤電気は,かつて東京証券取引所第二部に上場していた測定器メーカでした.日本電気(NEC)が安藤電気の発行済み株式の1/3以上を保持しており,日本電気からの発注が売上の大半を占めていました.つまり,安藤電気は日本電気グループに属していたと言えます.しかし2002年には株式交換によって安藤電気は横河電機の100%子会社化とされ,事業再編により解体されていきました.測定器事業が日本電気グループのコア事業に当たらなくなった,というのが経営層の判断でした.

 アドバンテストの買収の提案先であるVerigy社は,2006年に米国Agilent Techonology社から分離した半導体測定機器メーカです.そのAgilent社も,もともと米国Hewlett-Packard社から1999年に独立した企業です.

●買収,買収,また買収

 1980年初頭,筆者は主に海外半導体メーカのアナログICの販売・マーケティングを担当していたことがあります.そのメーカの工場を見学したとき,半導体の測定器として主に米国LTX社の半導体テスタが利用されていたと記憶しています.LTX社は,1976年にTeradyne社出身の人たちが創業した会社です.RF ICに対する機能テストや可変変数によるパラメータ・テストが行える精巧な半導体テスタを商品化していました.以降,その技術を継承しながら,ディジタルLSIテスタの企業を買収し,アナログとディジタルを混載したLSI向けのテスタも供給してきました.2008年には,LTX社の競合である米国Credence Systems社と合併し,LTX-Credence社が誕生しています.

 2010年11月17日には,そのLTX-Credence社を,半導体テスタ大手のVerigy社が買収するとした合併契約を締結しています.Verigy社は,フラッシュ・メモリや高速メモリ,システムLSI向けのテスト装置の設計,開発,製造,販売を行っている企業です.同社のテスト装置は,設計検証や特性評価,量産テストなどの用途に用いられています.Verigy社は2006年にAgilent社から分離・独立した後,設計デバッグや故障解析,歩留り改善などのためのツールを提供している米国Inovys社を買収し,さらに2009年6月には独自開発の3次元MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を駆使したプローブを用いてメモリのウェハ・レベルの歩留まりを改善する装置を開発していた米国Touchdown Technologies社も買収しています.このように,Verigy社も買収にはとても積極的な企業です.

●合従連衡から寡占化へ

 2010年12月7日のアドバンテストの発表によれば,アドバンテストはVerigy社に対して買収について話し合いを申し入れたことを公表しています.さらに同年12月24日にVerigy社に対して買収提案の内容の一部を修正し,買収価格についての再提案を行った事実を認めています.

 Verigy社によると,アドバンテストはVerigy社に対して取得額を従来の1株当たり12.15ドルから15ドルに引き上げ,総額8億9975万ドル(約740億円)として再提案したようです.前述のように,2010年11月17日にVerigy社はLTX-Credence社を買収する契約を締結していますが,Verigy社の取締役会はLTX-Credence社の株主にも,引き続きVerigy社を支持するように薦める,と述べています.

 ここで,上記の二つの買収が成立したと仮定して話を進めてみましょう.表1に,過去3年間に渡って主要なLSIテスタ企業の売上実績を示します.

表1 主要LSIテスタ・メーカの売上規模

 

 LTX-Credence社がVerigy社に買収され,そのVerigy社がアドバンテストに買収された場合,アドバンテスト,Verigy社,LTX-Credence社の3社の2010年の売上実績を単純に合算すると約13億2800万ドルとなり,現在,業界トップであるTeradyne社の売上実績の約16億ドルと肩を並べることになります.つまり,日米それぞれの代表企業であるアドバンテストとTeradyne社による寡占化へ向かうことになります.

 アドバンテストの2010年の業績は,2008年と比べて1/3以下の売上となっています.しかし,過去の利益の蓄積があり,とてもキャッシュ・リッチ,すなわち資金力がある企業です.ただし,米国証券取引委員会(SEC:Securities and Exchange Commission)に対するVerigy社によるLTX-Credence社の買収手続きは着々と進められているので,アドバンテストによるVerigy社との交渉,ならびに交渉後の連鎖的買収手続きには,ある程度の時間がかかると予想されます.

 

やまもと・やすし

 

◆筆者プロフィール◆
山本 靖
.半導体業界,ならびに半導体にかかわるソフトウェア産業で民間企業の経営管理に従事.1989年にVHDLの普及活動を行う.その後,日米で数々のベンチャ企業を設立し,経営責任者としてオペレーションを経験.日米ベンチャ企業の役員・顧問に就任し,経営戦略,製品設計,プロジェクト管理の指導を行っている.慶應義塾大学工学部卒,博士(学術)早稲田大学院.

 

 

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