世界最大級のCG技術とインタラクティブ技術の学会 ―― SIGGRAPH2010

西川 善司

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レポート 2010年11月10日

 2010年7月25日からの5日間,米国ロサンゼルスにて世界最大級のコンピュータグラフィックス(CG)とインタラクティブ技術の学会「SIGGRAPH2010」が開催された.

 SIGGRAPHは学会だが,1990年以降,産業界がCGとその周辺技術の応用を強力に推進したことで,企業の参加が盛んになり,近年の開催では見本市的な展示会的側面も強まってきている.特に新しい産業として注目されている立体視関連の次世代映像技術や最新のバーチャルリアリティ技術については,毎年,興味深い展示が多い.ここでは,特に注目度の高かった展示をピックアップしてお届けする. 

●ソニー,360°裸眼立体視ディスプレイを発表

 ソニーが公開していたのは,円筒形型の360°裸眼立体視可能なディスプレイ「RayModeler」だ(写真1).円筒形の外側面のすべてに映像が裸眼立体視に対応するのが最大の特徴になる.中心角に対して1°ずつ,360視点分の映像を表示でき,どこから見ても裸眼立体視が可能である.しかも,360°分の360個の視点で異なる映像を表示でき,ぐるりと周りながら眺めると,その立体物の前面→側面→背面をシームレスに裸眼立体視で観察できる.さらに,360個すべての視点において個別に毎秒30コマの動画を表示でき,動く立体物を全周視点で裸眼立体視できる.その様子は,まるで円筒形内部に動く立体物が実存しているような視覚効果になる.

 各画素は内部に仕込まれたRGB-LEDアレイによって表現されており,視差バリア的なマスクを回転させることで全周映像の表示を行っているとのことだが,詳しい構造は非公開だった.寸法は高さ270mm,幅130mm.1視点あたりの表示解像度は横96ドット×縦128ドット.解像度は試作機と言うことであまり高くはない.担当者によればアミューズメント用途への応用を目指し,今後も開発が続けられるとのことだ.

写真1 RayModeler.見る位置を変えれば,その表示立体物の前面→側面→背面をシームレスに見ることができる.しかも動画対応で裸眼立体視に対応する.

写真2 RayModelerとPlayStation3を接続したデモンストレーション.円筒形の内壁に置かれたブロックをボールで崩していく.2人のプレイヤはディスプレイの周りを歩き回ってプレイする.

 ●シャープ,5原色パネル「QuintPixel」を公開

 シャープは今夏より「Quattron」の名称で,赤緑青(RGB)に黄(Y)を加えた4原色の液晶パネルを採用した液晶テレビを発売しているが,SIGGRAPHでは,それよりも1色多い5原色パネル「QuintPixel」を展示していた. 

 Quattronよりも一色多いのはシアン(水色).自然界に存在する物体色のうち,RGB-3原色パネルで表現できない色域は黄とシアンの方向にあり,黄方向にカバー率を上げたのがRGB+YのQuattronで,シアン方向にもカバー率を上げたのが今回展示されたRGB+Y+CのQuintPixelになる.

 写真3を見てもらうと分かるように,実際の5原色パネルのサブピクセルの並びはRCGRBYとなっている.これは,RCGの3色とRBYの3色だけでかなりの割合のフル・カラー・ピクセルを再現できるように配慮したためだ.CにはB成分が含まれ,同様にYにG成分が含まれるため,RCG,RBYは共にサブRGB画素としての振る舞いが可能になる.シャープは,これが1ピクセル以下のグラデーション表現や1ピクセル以下の解像度表現をも可能にする,と5原色パネルの優位性を主張していた.

写真3 左が3原色-RGBパネル,右が5原色-RGBYCパネル

写真4 実際の画素の並びを拡大して見た様子.実は,この5原色パネルの研究開発の方が先で,これからシアンを落とし4原色として実用化,量産化したのがQuattronになる.

●キヤノンITソリューションズ、複合現実のビジネス化を目指す

 キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)は,複合現実(MR;Mixed Reality)を本格的なビジネスとして立ち上げるための可能性を探るべく,さまざまなMRにまつわるデモンストレーションを公開していた.なお,複合現実とはインタラクションの対象を現実世界とCG世界で表現される仮想世界の双方に拡張したもので,拡張現実の一種としても捉えられることもある.

 被験者はHMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)を装着し,これを通してブース内を巡ることになる.HMD越しに,被験者が見るのは現実世界とCGが合成された視界だ.

 ブース内には無数の六角形の組み合わせで表現されたマトリクスコードが貼られており,これをシステムが認識することで被験者の向きや位置情報を認識し,さらに現実世界の立体情報を取得する.システム側はこれらに基づいて,現実世界のシーンに矛盾なくCGを合成するため,HMD越しではあるが,被験者はあたかも現実世界にCGキャラクタが出現したような視界を得る.

 HMDを付けた被験者は,ブース内を走り回る恐竜を追いかけたり,ブース内で暴れる小鬼をバーチャルに被験者の手から発射される手裏剣で倒したりできるアミューズメント的な冒険体験をすることができた.

 キヤノンITSでは,昨今ブームとなりつつある立体視対応テレビが究極に進化した形としてMRを有望視しており,テレビ画面から飛び出す映像を見るだけではなく,飛び出した映像に囲まれる体験を“次世代3D”として捉えている.今後の進化が楽しみな分野だ.

写真5 HMDは「VH-2007」と呼ばれるキヤノンITS自社開発のプロトタイプ.一眼あたり1280×960ドットで,映像体験としては,およそ1.5m先に100インチの立体画面があるようなイメージ.

写真6 被験者達の視界.ブース内に貼られた六角形マトリクス・コードはキャノンITSの特許技術.

 

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