地球温暖化問題で再び脚光を浴びる鉄道システム ―― 鉄道技術展2010
鉄道技術に関する国内で初めての展示会「鉄道技術展」が2010年11月10~12日に幕張メッセ(千葉県千葉市)の7ホールで開催された(写真1).3日間の来場登録者数は14,529名である.
地球温暖化問題に対する危機感の高まりにより,鉄道システムは最近になって急速に脚光を浴びている.陸上交通の主役である自動車システムは大量の地球温暖化ガスを排出するからだ.自動車を使わずに,地球温暖化ガスの排出が少ない電気鉄道システムを活用しようという動きが盛んだ.さらに,電気鉄道システムが消費する電力そのものを減らそうという動きも活発になっている.本展示会では,鉄道システムの基本である「安全」を支えながら,地球温暖化問題に対応した技術の展示が注目を集めていた.
例えば都市の住宅地と市街地を結ぶ通勤交通システムでは,住宅地を出発した自動車を市街地の手前で駐車させ,鉄道に乗り換えて通勤者を市街地に運ぶことで地球温暖化ガスの排出を抑制することが考えられている.また,大都市向けの大量輸送鉄道が適さない中規模以下の都市では,電気鉄道車両を簡素化したLRV(Light Rail Vehicle)を路面電車にして市街地に乗り入れる.最近では,身体の不自由な方や高齢者などの乗り降り,環境負荷の低い移動手段である自転車の持ち込みなどに配慮した乗降ステップのない(低床式の)LRV路面電車が欧米の各都市で導入されつつある.
●蓄電池で動く低床式LRV路面電車
鉄道車両メーカの川崎重工業は,LRV路面電車をさらに進化させた,次世代のLRV路面電車「SWIMO(スイモ)」をパネル展示した(写真2).SWIMOは蓄電池を動力源とする低床式のLRV路面電車で,非電化区間でも走行できる.
蓄電池は容量が200Ahを超える大容量の密閉型ニッケル水素電池である.ニッケル水素電池を動力源とする電車はSWIMOが世界で初めて.5分間の充電時間で約10kmの距離を走行可能.駅に架線を敷設して充電ステーションとし,駅間を非電化区間とする電気鉄道システムを構築できるので,架線あるいは第三軌条といった集電システムを駅間に敷設する必要がない.すなわち鉄道の敷設コストを下げられる.
実験車両である「SWIMO-X」は3両編成で,3車体を連接して3個の台車で支持している.電気方式は直流600V,最高速度は時速40km/hである.「SWIMO-X」の模型車両をブースに展示していた(写真3).
鉄道車両メーカの近畿車輌も,次世代のLRV路面電車「LFX-300」の模型車両を展示していた(写真4).LFX-300も蓄電池を動力源とする低床式のLRV路面電車であり,SWIMOと同様に非電化区間でも走行できる.蓄電池にはリチウム・イオン電池を採用した.最高時速は80km/hと,LRVとしてはかなり高い.集電装置(パンタグラフ)を装着しており,SWIMOと同様に架線から集電できる.
近畿車輌はこのほか,広島電鉄に納入した低床式LRV路面電車「5100形 グリーンムーバーmax」の模型車両(写真5)と,米国アリゾナ州フェニックス市のVMR(Valley Metro Rail)に納入した低床式LRV路面電車の模型車両(写真6)を展示していた.なお「5100形 グリーンムーバーmax」は日本では初めて,床面積のすべてを低床式(100%低床)としたLRVである.近畿車輌と三菱重工業,東洋電機製造が共同で開発した.
LRV以外では,川崎重工業が海外向けの高速鉄道車両「efSET(Environmentally Friendly Super Express Train)」をパネル展示していた(写真7).efSET(イーエフセット)は同社が新幹線車両の設計・製造の豊富な経験を活かして開発したもの.8両編成で営業最高時速は350km,乗車定員は575名前後に達する.車両長は先頭車両が26.4m,中間車両が25m.先頭車両の模型も展示していた(写真8,写真9).
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