環境指向の機器設計(3) ――日本における「資源循環型社会」への警鐘

青木 正光

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コラム 2003年2月25日

 「日本では,『循環型社会』の形成は無理」.

 日本難燃剤工学会会長の武田邦彦氏(芝浦工業大学教授)の見解である.日本難燃剤工学会主催の第10回シンポジウムで「リサイクルと難燃材料」と題した同氏の講演で明らかにした.同氏はリサイクルを「使用済み物質を繰り返し物質として使用すること」と定義して,『循環型社会』について言及している.例えば,『環境にやさしい生活をするために「リサイクル」してはいけない』1)という題名の書籍の中で,「廃棄論」を展開している.この書籍は,題名が時代の動きと逆行していることから注目を集めた.

●リサイクルすればするほどゴミが増える!?

 日本の原材料の使用量は年間約21億t(トン)にのぼっており,再利用量は2億~2.3億tと言われている.つまり,リサイクル率はわずか1割程度である.一方,廃棄物は一般廃棄物と産業廃棄物からなり,その量は年間約4.5億tにのぼり,増大の一途をたどっている.リサイクルの概念は,「廃棄物を少しでも減少させたい」という社会的な要求からきたものと思われる.

 しかし,リサイクルを促進するための『循環型社会』には問題点があり,それは循環におけるインプットとアウトプットが大きく異なることであると前述の武田氏は指摘している.

 ここで,Xグラムの物質をリサイクルするのにYグラムの石油が必要であると仮定してみよう.たいていの場合は,Y>Xとなり,リサイクルのために多くの石油を使用することになる.つまり,Y-X=Zと考えれば,Z分インプットが増加するのである.逆に言えば,リサイクルすればするほど,アウトプットする量が増加して,ゴミも増大する.これが武田氏の指摘である.

●環境を重視するあまり,人命を軽視することに...

 また,難燃剤の種類によってはリサイクルの際に障害になるとか,焼却炉の温度が低いと毒性の強いダイオキシンが発生するという問題点が指摘され,話題となった.

 例えば,所沢市には焼却炉が多くあり,そのためダイオキシンの発生が多いことが判明した.その対策として,1997年3月26日にダイオキシン規制条例を制定した.その後,所沢市独自のダイオキシン排出基準を設定して規制条例案を提出し,焼却炉の見直しに至った.その結果,高温で焼却するガス化溶融炉が開発された.ガス化溶融炉はダイオキシン対策になる.しかし,このような焼却炉が整備されたとしても,難燃剤は「安全性」の観点から正しく使用していくことが望ましいという見解が出されている.

 ところで,現在,火災による死亡者数の増加が問題になっている.1990年以降増大の傾向にあり,最近の日本での火災による死亡者数は年間約2,000人以上になっている.

 1970年代,米国で安全性についての承認を受けたテレビによる火災事故が発生し,難燃性の試験に問題があることが判明した.水平方向だけだったUL(Underwriters Laboratories Inc;火災予防,電気などの安全規格を策定する米国の民間団体)の難燃性試験に垂直方向が追加され,より厳しい試験方法が採用されるようになった.また,安全性に対する配慮が設計段階から検討された.この難燃性の試験方法は,現在,世界的に使用されている.

 回路上で高電流/高電圧を扱っているため,テレビは安全に対する配慮がもっとも必要な機器である.安全性の観点から筐体,プリント配線板,フライバック・トランスなどはUL94V-0,V-1(中程度の耐燃性)が採用されている.これが一般的に実施されているものと思われていた.

 ところが,「環境」を重視するがゆえに欧州ではテレビに非難燃タイプの筐体を採用しているのである.UL94の分類では耐燃性がもっとも低いHBである.環境を重視するために難燃剤をまったく使用しないで非難燃タイプを採用したという欧州の対応では,「環境に悪影響を及ぼすよりも,火災事故によって人命が失われてしまうほうがよい」という本来の目標と異なる結果になりかねない.

 スウェーデンの生産技術研究所であるIVF(Institutet for Verkstadsteknisk Forskning)の「電子機器の国際難燃化プロジェクト」委員会によると,同じ型のテレビのローソク試験で欧州製のテレビだけが燃えて火災に至ったという.火災による二酸化炭素の多量排出のほうが環境に良くないとの指摘もある.

 難燃剤は火災を減少,阻止しうる重要な材料であり,大事なのは使いかたをどうするかである.難燃剤として使用した場合に危険物質と考えられるものは,できるだけ使用を避けるのが望ましい.今後は,より安全で,環境に負荷をかけない難燃剤へとシフトしていくと予想される.そういう意味では,機器設計の段階で,より安全な材料の選択が必要な時代になってきたと言える.

参考・引用*文献
 (1) 武田邦彦,『環境にやさしい生活をするために「リサイクル」してはいけない』,青春出版社,2000年1月.

(本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2002年6月号に掲載されました)


◆筆者プロフィール◆
あおき・まさみつ.東芝の化学材料事業部(独立して,現在は東芝ケミカル)に入社してプリント配線板用材料や実装用材料の開発に携わる.1998~2001年の3年間,欧州(ドイツ)に駐在して環境調和型製品のマーケティングを実施.この活動により,2001年3月に米国のAtomic Giant賞を受賞.2002年2月から試験機関のUL Japanにて「製品安全」の立場で活動を開始.

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