環境指向の機器設計(1) ――機器の設計思想が時代とともに変わっていく

青木 正光

tag: 組み込み 半導体 実装

コラム 2002年5月 1日

 機器の設計思想が時代とともに変遷し,現在は,「環境」を配慮した機器設計の時代となっている.

 電子産業の創世記のころ,機器設計に求められていたのは耐久性だった.その後,電子機器の品質の向上にともなって,"安全性"や"小型化"が設計の開発目標となった(図1)

 次の段階で新たな問題として浮上してきたのが,不要となった家電製品の処理だった.そこで「分解容易性を考慮した設計(DfD:Design for Disassembly)」が検討されるようになった.特に,分解しにくい冷蔵庫などを廃棄段階でいかに分解しやすくするかに主眼がおかれるようになった.

 さらに,より安全な材料で安全な技術・工法があれば,設計の初期段階から採用するような動きとなってきた.つまり,「環境を考慮した設計(DfE:Design for Environment)」も取り込んだ設計思想である1),2)

 今回は,これら「環境を考慮した機器設計」について,世界的にどのような動きがあったかを述べてみる.

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〔図1〕設計思想の変遷

●環境意識の高い欧州

 自然に恵まれた欧州,特にドイツや北欧では,一般市民の環境に対する意識が高い.1986年に起きたチェルノブイリ原発事故をきっかけに,環境破壊につながる危険性を彼らは改めて認識した.

 また,欧州ではバルト海の海洋汚染も問題点として取り上げられるようになった.「世界自然保護基金(WWF)」や「グリーンピース」などの保護団体からの指摘もあり,欧州では「環境」への配慮が重要になった.

 日本や東南アジアから,さまざまな家電製品がなだれを打って欧州の市場に入った.上記のように環境に対する意識の高い欧州の人々は,寿命がきた家電製品を処分するとき,家電製品に危険物質が使用されているのでないかと懸念した.そこで前述のDfEという設計思想が生まれた.

●鉛は米国で,臭素系難燃剤はドイツで問題に

 具体的な安全対策の一環として問題提起されたのが,「鉛」と「臭素系難燃剤」である.鉛は当初,米国でやり玉に上げられた.鉛含有の水道管の使用禁止が1986年に決定された.その後,鉛を含む家庭用塗料の使用禁止が1992年に決定された.このように鉛に対する対策はとられていたが,その後も飲料水の鉛の濃度は基準値以下に下がらなかった.そこで,不要となったテレビなどが野積みされて放置され,そこから鉛が酸性雨で地中に溶け出しているのではないかとの疑いが持ち上がった.ここから一挙に家電製品で使用している「はんだ」に疑いがかかるようになった.

 米国では1990年ごろ,鉛の使用規制に関する法案も提案された.しかし,鉛ははんだの接合信頼性が優れていることや代替材料の問題,ロビー活動などもあって,この法案は成立しなかった.

 一方,臭素系難燃剤については,廃家電を焼却処分するときに燃焼方法が適切でないとダイオキシンが発生するという指摘がドイツであった.臭素系難燃剤の中で特にダイオキシンの発生しやすい難燃剤を特定し,使用を禁止する方向に向かった.

●「性能重視」から「環境調和」へ

 電子機器の開発は,設計段階からより安全な材料や技術を積極的に取り込むような姿勢へと変わってきており,「環境調和型設計」へと向かっている.この分野では,欧州が環境への重要性をコンセプトとして示している.一方,日本は「環境調和型製品」として,「鉛フリー」と「ハロゲン・フリー」を達成し,世界的に見ても実用化の面でトップを走っている状況である.

 さらに,2001年4月からリサイクル法が施行され,「リサイクルを考慮した設計(DfR:Design for Recycling)」が注目を集めている.従来,設計思想が各社で異なるため,「異なる樹脂」,「異なる難燃剤」で製造されてきた.これがリサイクルする際の分別作業を,より複雑にしている.製品開発は,リサイクルを考慮して,より単純な材料を選択することが急務となってきている.


参考・引用*文献
 (1) 青木正光,「"基板材質"の違いのわかる機器設計者になろう」,pp.87-88,『Design Wave Magazine』,2001年10月号.
 (2) 青木正光,「設計思想と部品搭載技術の変遷」,pp.2-9,『電子技術別冊』,2001 年12 月号.


(本コラムはDESIGN WAVE MAGAZINE 2002年2月号に掲載されました)


◆筆者プロフィール◆
あおき・まさみつ.東芝の化学材料事業部(独立して,現在は東芝ケミカル)に入社してプリント配線板用材料や実装用材料の開発に携わる.1998~2001年の3年間,欧州(ドイツ)に駐在して環境調和型製品のマーケティングを実施.この活動により,2001年3月に米国のAtomic Giant賞を受賞.2002年2月から試験機関のUL Japanにて「製品安全」の立場で活動を開始.

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