「納期に間に合わない」という焦りで失敗しないためには？ ―― 第12回 組込みシステム技術に関するサマーワークショップ（SWEST12）

　2010年9月2日～3日，ホテル日航豊橋（愛知県豊橋市）にて，「第12回 組込みシステム技術に関するサマーワークショップ」（SWEST；Summer Workshop on Embedded System Technologies，エスウェストと発音）が開催された（写真1）．

写真1　第12回 組込みシステム技術に関するサマーワークショップ（SWEST12）
2日のセッションの一つ「ETロボコンから考える組込みエンジニアリング」の様子．

　SWESTは，「産学の人的交流を促し，産学の双方が組み込みシステムの開発や研究のヒントを得ること」などを目的として，毎年夏に泊まりがけで開催されている．伝統的に，情報処理学会 システムLSI設計技術研究会が主催する「DAシンポジウム」と同時開催されており，今年も，基調講演やセッションなどが共同企画として開催された．

　筆者にとって最も印象に残ったのは，基調講演とその講師との交流である．そこで，このレポートでは，基調講演を中心に，SWESTを振り返る．

●"間に合わないモンスター"に操られないための手法

　基調講演のタイトルは「XDDP：派生開発用の開発アプローチ －XDDPの考え方について－」，講師はシステムクリエイツの清水 吉男氏である．XDDP（eXtreme Derivative Development Process）とは，清水氏が提案している，派生開発に特化した開発アプローチである．正直に告白すると，不勉強な筆者は，XDDPも清水氏も存じ上げなかった．ただ，筆者の研究仲間である藤田 悠 氏（長野工業高等専門学校）が「この基調講演が楽しみなんですよね」と言われるので，彼がそうまで言うならばと，仕事を切り上げて13時過ぎからの講演に駆けつけた．

　講演を聞いて，筆者は大変に感動した．そして，講演終了後の講師との交流を通じて，筆者は，すっかり清水氏のファンになった．この記事では，以降，親しみを込めて，「清水さん」と書かせていただくことにする．

　基調講演は，披露宴会場にも使われる大広間で行われた．大広間の吹き抜けの天井には羽衣をイメージしたような照明器具が取り付けられ，足元には歩き心地の良いじゅうたんが敷き詰められ，高級感にあふれていた．ステージには，同じ内容を映し出す大スクリーンが演台の左右に掲げられ，横長のホールのどこに座っていても楽にスライドを見ることができる，すばらしい会場だった．

　SWESTのステアリング委員長である高田 広章氏のあいさつが終わると，壇上に，仕立てが良さそうなジャケットを着て，シャープなメガネをかけた清水さんが登場し，講演が始まった（写真2）．右胸のポケットには，長方形に折りたたんだチーフが顔をのぞかせていた．聴講者の数は，200名近くはいたのではないだろうか．

写真2　講演を行うシステムクリエイツの清水 吉男氏

　講演は，現在の開発案件のほとんどが派生開発であることの指摘から始まった．そして，清水さんは，派生開発の時に，ソース・コードを直接変更する作業が行われることに対して，警鐘を鳴らした．「早く変更しなければ納期に間に合わない」という思い込みが，要求分析や設計を十分に行わせず，結果として生産性と品質を低下させているという指摘である．スライドには，「間に合わないモンスターに襲われる」と書かれていた．

　筆者は，ここまで聞いて，直ちに清水さんのファンになってしまった．心理学や管理手法をかじる筆者には，さまざまな要因の「恐怖」が「モンスター」を生み出し，そのモンスターが私たちを「操り」，私たちの「パフォーマンスを低下させ」，結果として「プロジェクトが失敗に帰す」ことが分かっていたので，清水さんの指摘がよく分かった．

　筆者は，モンスターを手なずけるためには，「恐怖の正体を直視する」ことが必要であると考える．そうすることにより，恐怖は私たちに手なずけられ，モンスターなど生まれず，結果として私たちは操られることがなくなる．清水さんが提唱するXDDPは，開発対象を明らかにすることにより，「間に合わない」という恐怖感をなくす手法であると，筆者は解釈した．