デバイス古今東西(17) ―― 撮像デバイスの変遷と次世代標準インターフェースMIPI規格

山本 靖

 2010年度のノーベル賞受賞者の発表は10月4日より予定されています.ちなみに2009年のノーベル物理学賞は,元香港中文大学長のチャールズ・カオ氏,元米国ベル研究所研究員のウィラード・ボイル氏,ジョージ・スミス氏の3人に贈られています.受賞理由は,カオ氏が「光通信に使うグラス・ファイバに関する革新的業績」,ボイル氏とスミス氏が「電荷結合素子(CCD)イメージ・センサの発明」でした.

 このCCDイメージ・センサは,撮像デバイスの一つです.ほかの撮像デバイスと比べて感度が相対的に高く,ノイズが少ないという特徴を持ちます.しかし高耐圧用シリコン・ウェハを必要とし,コスト高な半導体と言われています.撮像デバイスにはもう一つ,CMOSイメージ・センサがあります.CMOSイメージ・センサは,今や半導体微細加工技術の進歩によって一定水準の画質が確保できるようになったことと,本来持つ低消費電力性により,周辺回路などを取り込んでシステム・オン・チップ化できるようになってきています.

●撮像デバイスの主流はCMOSイメージ・センサへ

 撮像デバイスの主流は,セキュリティ,マシンビジョン,放送用途として1980年代には撮像管からCCDイメージ・センサへ移行しました.そして今や,CMOSイメージ・センサが撮像デバイスとして一般的になりつつあります.というのもCMOSイメージ・センサの用途は,携帯電話やデジカメなどに代表されるモバイル機器へと急拡大しているからです.

 CCDで世界首位のソニーは,2010年9月1日,CMOSイメージ・センサ市場の拡大を受けて,400億円を投じて同社のCMOSイメージ・センサの生産能力を4割増強すると発表しました.CMOSイメージ・センサ市場においては,米国Aptina Imaging社,韓国Samsung Electronics社,米国OmniVision Technologies社が3社合計で世界的シェアの6割超を握っており,その後塵を拝しているソニーが巻き返しを図ろうとしています.

●CMOSイメージ・センサのインターフェースはパラレルからシリアルへ

 筆者は2010年5月,米国大手のCMOSイメージ・センサの製造会社の幹部と面談しました.当該企業で開発しているCMOSイメージ・センサは,スマートフォンや携帯電話以外にデジカメやビデオ・レコーディングといったディジタル・コンシューマ機器を主たる用途としています.面談の中でとても印象深いコメントがありました. CMOSイメージ・センサには,「パラレルはもはや必要ない」,そして,現行のシリアルの保証速度は「シリアル伝送1チャネルあたり800Mbpsまでだが,実際には1Gbpsの実力があるかもしれない」というものです.

 つまり,従来グローバル・スタンダードだったパラレル・インターフェースでは広帯域データ伝送に限界が生じ,シリアル伝送への技術シフトが行われているのです.もちろんシリアル伝送とは,古くから用いられているシングルエンド信号による方式ではなく,差動信号による方式です.

●差動信号方式で高速伝送を実現

 なぜCMOSイメージ・センサに差動信号方式なのでしょうか.その理由は高速データ伝送の要求と合致するからです.

 複数のビットを同時にやりとりできるパラレル伝送は,より短時間でより多くのデータを処理するために,データのビット数を増やす方向で進化してきました.しかし,集積回路はピン数が増えるほど高価になると言われています.パッケージ・サイズが大きくなれば原価は高くなります.あるいはパッド・リミット(パッド数によって半導体本体に無駄な面積が生じてしまう限界点)による影響もあります.

 ピン数を減らす目的として考えられる手段の一つは,1本の信号線でデータを伝送する方式,すなわちシリアル・バスを使うことです.例えば,SPI,I2C,1-Wireなどです.しきい値となる基準電圧より高い場合を"H"レベルに,低い場合を"L"レベルに対応させてデータ列を表現します.これはシングルエンド信号です.低コスト構造ですが,ノイズの影響と信号線の引き回しの問題に直面します.実際,先に例示したSPI,I2C,1-Wireなどはそういった問題の影響を受けにくい,すなわち速度があまり重視されないシリアル・バスとして使われています.シングルエンド信号では250MHzが限界ではないかと指摘されており,画像や映像を扱う高速のデータ伝送には不向きと言えます.

 現在,高速のデータ伝送では,差動信号による方式が主流となっています.2本の信号線でデータを伝送します.信号レベルは,二つの信号の電位差を利用して判別します.仮にこの二つの信号線にノイズが混入したとしても除去でき,シングルエンド信号に比べてノイズに強いデータ伝送が可能となります.EthernetやUSB,Serial ATA,PCI Expressなどの高速インターフェースが代表例です.

●モバイル機器向け次世代高速シリアル伝送規格MIPI

 モバイル機器向けCMOSイメージ・センサは,画素数の増大や動画機能の向上など進化のスピードが速く,メーカ各社から1千万画素以上の製品が出荷されています.そして増大するCMOSイメージ・センサの画像データ量に比例して,必要となる伝送帯域はGbpsのオーダに達しつつあります.このままハイビジョン・テレビ信号(HD-SDI 1.485Gbps)やギガビットEthernetのデータ・レートを超えようとしています.

 この伝送帯域のニーズに応えるため,イメージ・センサのメーカだけでなく,イメージ・センサを搭載するモジュール・メーカや最終携帯端末のメーカなどのシステム・インテグレータが共有できるインターフェースの標準化が進められています.MIPI規格(Mobile Industry Processor Interface注1)というモバイル機器向けの次世代オープン・スタンダードです.

注1:MIPI規格については,下記のリンクに日本語による平易な解説論文がある.
http://www.spinnaker.co.jp/IP/mipi_mddi.html

 過去,複数の会社が独自インターフェースを提供したことで,システム・インテグレータは異なるメーカのコンポーネントの接続問題に直面したことがありました.これをきっかけに,誰でも加入可能な組織(MIPI Alliance注2)を母体とした標準インターフェースを作ろうという機運が高まったのです.

注2:MIPI Allianceは,モバイル機器アプリケーションの開発においてマイクロプロセッサ,周辺機器とソフトウェア・インターフェースに焦点を合わせ,標準化している非営利の団体である.詳細はhttp://www.mipi.org/を参照.

●撮像デバイスの変遷に見る技術革新

 撮像デバイスは,真空管による撮像管からCCDセンサ,CMOSセンサという固体撮像素子へとシフトしつつあります.その過程においては,ディジタル化,シリアル伝送化,高速データ伝送の需要拡大,差動信号方式の適用,モジュール化の進展とインターフェースのオープン・スタンダード化などの技術革新が見て取れます.

 モバイル機器デバイスのインターフェースの標準化作業を担っているMIPI Allianceの作業部会では,カメラ・インターフェースだけでなく,ディスプレイや物理層,無線インターフェース,その他の関連技術にも着目しています.さらに,JEDEC半導体技術協会(半導体技術の標準化機関)と共同で次世代汎用フラッシュ・メモリ・モジュール用の標準インターフェースの仕様策定も行っています.

 

参考文献
(1) Ashraf Takla,George Brocklehurst;携帯電話内部の高速データ転送,次の主役は「MIPI M-PHY」―― 広範なアプリケーションを見据えた多芸多才の標準規格,Tech Village,2010年10月.

 

やまもと・やすし

 

◆筆者プロフィール◆
山本 靖(やまもと・やすし).半導体業界,ならびに半導体にかかわるソフトウェア産業で民間企業の経営管理に従事.1989年にVHDLの普及活動を行う.その後,日米で数々のベンチャ企業を設立し,経営責任者としてオペレーションを経験.日米ベンチャ企業の役員・顧問に就任し,経営戦略,製品設計,プロジェクト管理の指導を行っている.慶應義塾大学工学部卒,博士(学術)早稲田大学院.

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