拝啓 半導体エンジニアさま(16) ―― 政治無策の円高時代,電子産業の設計技術者はいかにして生きのびるか

ジョセフ 半月

tag: 半導体 実装

コラム 2010年8月31日

 ようやく対策が打たれるようですが,円高がキツく進行してしまいました.電子デバイスなどの業界の皆さんは,その多くが輸出産業,あるいは輸出産業関連の企業に物やサービスを提供している会社で働いていることと思いますので,キビシイ状況をそれはもう痛感されているに違いありません.そして輸出がへこんで直近の業績が悪化するということ以上に心配なのが,「空洞化」ではないでしょうか.実際,筆者もビクビクです.

 すでに工場の空洞化などは進んでしまって久しく,これ以上の「空洞化」が進むということは,設計だの開発だの,CQ出版の雑誌を読んでいるような読者の方々の職種にまで影響が及ぶ可能性大です.だいたい,多くの会社で設備投資は低調な状態が続いています.新規開発,新規設計といったエンジニアにとってうれしい仕事のチャンスが減っており,設計や開発の部署はボディブローのようなダメージを受け続けてきたのではないかと思います.そのうえ仕事が海外に持っていかれてしまう,ということになると,当方にとってお先真っ暗であります.

 大手メーカの設計・開発が海外に持っていかれてしまうということになると,中小のデザイン・ハウスもたまりません.海外で設計するようになれば,設計外注先も海外になる可能性が非常に高いからです.

●日本を飛び出すか,オンリーワンを目指すか

 円高が止まり,できれば円安になってもらって,輸出産業に「神風」が吹いてくれると良いとは思いますが,なかなかそうは問屋が卸さないでしょう.とりあえずお祈りだけしておいて,なんとか生きのびる方策を考えなければなりません.

 最初に思いつくのは,「狭い日本には住み飽きた」とばかりに,海外へ出て行く,という積極策です.筆者の身のまわりの友人,知人にもちらほらそういう人がいますし,既に実践されている方も多いと思います.その一方で,まあ,これが出来そうな人はすでに海外へ出て行ってしまっている,という感じもします.「高齢化」ぎみの日本のエレクトロニクス関連業界の場合,家族やらなんやら,いろいろなしがらみがあり,そう簡単に出ていくわけにはいかない,という人がほとんどなのではないかと思います.

 次に考えるのは,「海外ではできないような立派な仕事をして,技術立国"日本"の底力を見せようではないか」,ということでしょうか.ほかに比べるもののない「オンリーワン」なら,円高であっても海外から買いに来てくれます.

 確かに,そういう特長のある技術を持っている会社(中小企業が多い)もたくさんあるのは事実です.また,日本のエンジニアとして目指すべき本道なのでしょう.けれども,あまりにも円高が進みすぎると,海外からは「ボッテいる」と見られ,「なんとかまねしよう」とか,「使わずに済まそう」とか,変なバイアスがかかってしまう可能性もゼロではありません.なかなかよさげな「鉱脈」があっても,気づいたときにはみんなが一斉に飛びついて,「値段はぼろぼろ」ということの方が多いので,この手の「オンリーワン」はひそかに進める必要があります(思いついても,口に出すのはやめておきましょう).

●嗜好品を目指すか,地に根を生やす分野を目指すか

 「オンリーワン」で左うちわ,というめでたい場合はひとまず置いといて,普通の状況を考えます.なんといっても「工業製品」というのは,マニュアルがあり,それを理解して運用できる能力や教育がなされており,設備と資金があれば,日本だろうとどこだろうと同じものが作れる,というのが普通です.そのままでは本質的に「空洞化」を防ぐ手立てはなさそうです.

 ではどうしたら良いのでしょうか.「工業」と言わず,「工芸」や「芸術品」を目指しますか? 「嗜好(しこう)品」と言ってもよいかもしれません.欧州のスポーツ・カーとか高級腕時計などは,工業製品であってもそれに近いでしょう.米国のハリウッドも「嗜好品」を大量生産しているように思えます.さしずめ日本であれば「アニメ」でしょうか.それはそれで活路がありそうですが,「工業」からの転換には大きな飛躍が必要そうです.

 それともこの際,飛行機や船で持ってこれるモノやら,ネットワークで流通できる情報やサービスなどを「捨てて」しまい,その地に根を生やさなければ展開できない分野に進出しましょうか.これは「汗を流してやる」仕事です.介護や医療などは典型的な分野かもしれません.国の政策から考えても,急に大量の外国人労働者の流入が認められるということもないでしょう.

 しかし,これまた「工業」からの転換には苦労しそうです.器具を作ったり,プログラムを組むのはエンジニアリングですが,モノではなく,情報ではなく,「労力を使うサービス」をエンジニアリングする仕事を考えなくてはならないからです.考え付いても,お金を回収するのがまた大変そうです.

 だらだらと書いてしまいましたが,円高時代の自身の(そして設計技術者の)将来について,思い惑うことしきりの今日この頃です.

 

ジョセフ・はんげつ

 

組み込みキャッチアップ

お知らせ 一覧を見る

電子書籍の最新刊! FPGAマガジン No.12『ARMコアFPGA×Linux初体験』好評発売中

FPGAマガジン No.11『性能UP! アルゴリズム×手仕上げHDL』好評発売中! PDF版もあります

PICK UP用語

EV(電気自動車)

関連記事

EnOcean

関連記事

Android

関連記事

ニュース 一覧を見る
Tech Villageブログ

渡辺のぼるのロボコン・プロモータ日記

2年ぶりのブログ更新w

2016年10月 9日

Hamana Project

Hamana-8最終打ち上げ報告(その2)

2012年6月26日