iPhoneと組み込み技術で未来を考える(5)――「組み込みシステム」という視点で見たiOSの価値
●「Newton MessagePad」vs. 「iPad」
iPadという名前は,「Newton MessagePad」を連想させます.Newton MessagePadは,発売当時から,「ソフトウェアの概念にハードウェアの技術が追いついていない」と言われ続けてきました.また,Newton OSで実現しようとしていたことは,エージェント指向のプログラミングに近く,個人のユーザがNotesを介して手書きインターフェースにより知的に情報を蓄積し,いつでもその情報にアクセスできる情報管理を目指していました.これに対してiOSでは,タッチ・インターフェースにより,個人の情報だけでなく,インターネット上に分散的に蓄積されているさまざまな情報にアクセスできることを目的としているように思われます.
筆者は,Newton MessagePad上でNotesをポストイット代わりによく利用していましたが,この機能をiPad上でも実現したいと思っています.Newton MessagePadは,アラン・ケイが提唱した理想のパーソナル・コンピュータ※1である「ダイナブック」の概念を思い起こさせますが,パソコンや携帯電話に慣れ親しんだ現在のインターネット利用者にとっては,むしろiPadの方がダイナブックの概念に近いかもしれません.物事の考え方は,時代の流れに伴う技術の現状に大きく左右されますが,Apple社はいつの時代も,その時代に合わせたユーザ・インターフェースの大切さに対する考え方を忘れていないように思われます.
※1 ここでは,アラン・ケイが提唱した理想のパーソナル・コンピュータを,「パソコン」と略さずに記述している.
さて,iPadに触れてみて,まず最初に感じることは,ほどよい画面の大きさであり,十分な情報を表示できる,ということです.iPadはNewton MessagePad 2100を横置きにして,キーボードを繋げた程度の大きさです.もちろん,iPadの方が取り扱いは容易でしょう(写真1).また,今回,久しぶりに起動してみましたが,初代iBookに引き継がれているようなNewton eMate 300のデザインは,多くの人を魅了し,統合ソフトであるNewton Worksも,現在でもまだまだ通用する実用的な完成度と思われます.iPadの画面サイズはこのeMateの2倍程度の大きさですが,iPadの解像度はXGAです.
写真1 Apple社のPDA
左から順に,Newton Keyboardを接続したNewton MessagePad 2100,オンスクリーン・キーボードを表示させた状態のiPad,Newton eMate 300.
近々,ひと回り小さなサイズのiPadが発表されると噂されていますが,現在のiPadとeMateのちょうど中間的な画面サイズになるのでしょうか.発表が楽しみです.