「電子工作」が取り持つ開発技術者とホビーストのきずな ―― エレキジャック・フォーラム レポート

組み込みネット編集部

tag: 電子回路

レポート 2010年4月28日

 CQ出版主催による電子工作や電子系ホビーに関するセミナ/展示会「エレキジャック・フォーラム」が,2010年4月24日に東京・秋葉原のUDXカンファレンスにて開催された.会場には600名以上の電子工作や電子玩具,ロボット,鉄道模型,アマチュア無線などに興味のあるホビーストと開発技術者が集まった.

 本イベントは,「電子工作教室」(写真1),「『プロの技』トーク・ショー」,「ショート・プレゼン・セッション」,「展示エリア」(写真2)から構成された.事前予約制のセッションの多くは満席になっており,展示エリアも多くの来場者でにぎわっていた.ここでは電子工作をテーマとした技術セミナである「『プロの技』トーク・ショー」の講演の内容について紹介する.


写真1 電子工作教室(ムラタ・オリジナル・キット『ブルブル星人&トントンリモコン」を作ろう!)の様子

 



写真2 展示エリアの様子

 


●「はちゅねミク」を101個のマイコンで並列制御

 森岡 澄夫氏は,「動く! リアルはちゅね×101匹【マルチはちゅね技術】」というテーマで講演した(写真3).同氏は,動画投稿サイトのニコニコ動画では「超電磁P」という投稿名で知られている.PICマイコン(PIC12F675)とFETスイッチ,磁石,コイルによって腕の上げ下げを制御する「はちゅねミク」人形のモジュールを101個つなぎ,101体の人形がタイミングを合わせながらネギを振るというユニークな作品を紹介した(写真4).



写真3 リアルはちゅね×101匹の製作について講演した森岡 澄夫氏

 



写真4 リアルはちゅね×101匹の外観

 

 本作品を作るにあたって,森岡氏は1体の動作原理,複数体の同時制御の方法,101体を量産する手順などを検討した.また,コストや部品の入手性などを考慮して,自作する部品とパーツ・ショップで購入する部品を使い分けた.これはまさに,製品の開発プロジェクトにおいて考慮する事項である.

 また,自身のモチベーションを維持するためにとった施策を紹介した.具体的には「(作業を始める前に)資材を調達しちゃう」,「家族に宣言しちゃう」,「お嫁さまと協力」,「ゴールを『見える化』」といったことがモチベーションの維持に有効だったという.最後は,趣味の工作が自身の本業の取り組みを見直すきっかけになっていることを指摘して,話を終えた.

 同氏の本職はLSI開発エンジニアである.今回の作品の製作から得られた知見をもとに,仕事の製品開発と趣味の電子工作の違いを面白しろおかしく紹介した.まじめな「設計・製造戦略についての研究発表」というスタイルをとりながら,開発対象が「リアルはちゅね×101匹」であるというギャップから,会場はたびたび爆笑の渦に包まれていた.

●動画投稿サイトでのアピールを意識して電子工作

 晴谷 美晴氏は,「『魅せる』技術にこだわったグラフィックスLCD表示システムの製作事例」というテーマで講演した(写真5).同氏は,ニコニコ動画では「撮影できますP」という投稿名で知られている.ここでは,コンパクトな筐体(ケース)に組み込んだシステムの開発事例と動画投稿サイトを利用した作品の発表について紹介した.


写真5 グラフィックスLCD表示システムの製作について講演した晴谷 美晴氏

 

 晴谷氏によると,基板がむき出しの製作物は完成品とは言えず,ケースに収まって初めて「作品」として認知されるという.そのため,同氏は最初にケースを決め,その形状やサイズに合わせて回路や基板を設計している.今回の講演では,秋月電子通商の「300円液晶」(400ドット×96ドット,26万色のTFT液晶)と『Design Wave Magazine』(2007年7月号)に付属したFPGA(Spartan-3E)基板を使って作成したグラフィックスLCD表示システム,およびボタンを押して演奏できるFM音源モジュールの製作事例を紹介した.例えば,ケースや電源方式の選択,ボタンやコネクタ,スピーカの配置などについて検討した内容を説明した.また,プリント基板を個人で発注する手順や部品を購入する際の注意点などについても解説した.

 同氏は,動画投稿サイトに投稿するプレゼンテーション動画のクォリティの高さに定評がある.プレゼンテーション動画を投稿すると,電子工作のモチベーションが上がるだけでなく,設計の際の仕様の明確化にもつながるという.これは,動画でアピールすることを前提にして作っていくと,自然に仕様を明確化せざるをえなくなるためである.これにより,仕事上でも重要となる要求定義の考え方が身についたという.

 同氏によると,動画投稿サイトの視聴者の多くはエンジニアではなく一般の人であるため,プレゼンテーション動画を制作するにあたっては,作品を「どうやって実現したか」よりも,「何ができ上がったか」を表現することが重要になる.また,見知らぬ大勢の視聴者の評価を聞けるため,自分の作品の価値を客観的に把握できる点がおもしろいという.

●ネット上の自然発生コミュニティが空想上の電子楽器をこぞって制作

 笹尾 和宏氏は,「『あの楽器』のつくりかた」というテーマで講演した(写真6).「あの楽器」とは,ニコニコ動画に投稿された,とある動画に登場する空想上の電子楽器である.巨大なマルチタッチ・パネルを使った一種のキーボードで,パネルがさまざまな光を発したり,模様を描き出す.ギターのように抱えてホールドするため,ある程度の軽量化が求められる.同氏は,ニコニコ動画では「ミクミンP」という投稿名で知られている.本講演ではさまざまな「あの楽器」の製作事例を紹介しながら,インターネットの世界で始まっている電子工作の新しい動きについて紹介した.


写真6 「『あの楽器』のつくりかた」について講演した笹尾 和宏氏

 


 ニコニコ動画には「ニコニコ技術部」というタグが用意されており,電子工作や電子系アートなどの作品のプレゼンテーション動画にこのタグが付けられる.その中では,自然発生的に電子工作のテーマが提示され,それに合わせて腕に覚えのあるホビースト(アマチュア,プロを問わず)が作品を製作し,動画を投稿している.

 「あの楽器」のタグが付いた動画は現在,300件以上投稿されている.今回の講演では,原寸大で演奏可能な「あの楽器」を制作するにあたって検討したこと,開発の方針や考え方について紹介した.具体的には「要素に分解する」,「狙いを定めてつくる」,「一歩踏み出す」という発想が重要だという.また,「あの楽器」のシステム構成やマルチタッチ・パネルのセンシング方式,画像認識や画像表示のためのアプリケーション・ソフトウェアの開発,マルチタッチ・パネルの発注方法などについて説明した.

 

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