デバイス古今東西(8) ―― FPGA新興ベンダによる創造的破壊技術の萌芽に期待

山本 靖

tag: 半導体 電子回路

コラム 2010年1月 8日

●新興ベンダから創造的破壊技術が登場

 FPGAの基本特許の有効期間が満了してから,新興のFPGAベンダが続々と設立されています.すでに商品を投入しているベンチャや,あるいは内密の技術開発を継続しているベンチャもあります.どちらにせよ共通している点は,既存のFPGAとは異なる新しい技術を用いているということです.ただし新興ベンダにとっては,「創造的破壊技術なしには,トップ・リーダ2社に対する勝算はない」と言っても過言ではありません.新興ベンダはそれを自覚しています.

 ここで,それらFPGAベンチャのいくつかを概観していきましょう.以下で紹介する新興ベンダはすべて,FPGAの創造的破壊技術の萌芽への期待を受けてベンチャ・キャピタルによる投融資を受けています.

 米国Achronix Semiconductor社は,従来のFPGAでは実現できなかった高い高速性能が求められるアプリケーションへの適用を狙っています.コーネル大学からスピンオフした独自のデータ移動速度向上技術により,内部クロック周波数で1.5GHz相当の動作を可能としています.

 米国SiliconBlue Technologies社のFPGAは,一部の回路へのクロック供給や電源供給の停止などを行わずに低消費電力化を実現しており,不揮発のコンフィグレーション・メモリを混載した構造となっています.4入力LUTとフリップフロップから構成されたロジック・エレメントとオーソドックスなSRAMベースなので,既存のFPGAとの親和性も高いようです.すでに日本でも販売代理店が決まり,販売活動が進められています.

 米国Abound Logic社の基本技術は,「階層構造とクロスバ・スイッチを持ったスケーラブル・アーキテクチャ」と言われています.このアーキテクチャ構造のメリットは,従来の同等規模のFPGAと比較して配線効率が向上したことと,チップ・サイズを小さくできることです.その基本技術はFPGAのIPコアとしてASICエミュレータや大手半導体メーカのシステムLSIで実証されています.

 米国Tabula社は2003年の設立以来,足音を忍ばせて次世代FPGAを開発していると見られています.彼らのWeb情報によれば,現行のFPGAの置き換え需要だけでなく,伝統的なASIC市場に対してプログラマブル・ロジック・デバイスの採用を加速させるデバイスであると主張しています.ASIC市場における最優先事項はチップ単価なので,おそらくは伝統的FPGAよりはるかに小さいチップ・サイズを目標にしていると推測されます.

 米国Tier Logic社も積極的な情報開示を行っていませんが,TierLogic社のWebサイトに掲載されている情報によると,FPGAの短い設計期間と設計変更の柔軟性,そしてASICのような低消費電力と低価格チップの両面を実現した独自の3次元構造の技術を保有しているとのことです.すでに最初の設計用のソフトウェア・ツールが完成しているようです.

 本稿では,後半でFPGAの配線問題を改善させる要素技術開発,ならびに創造的破壊技術の萌芽となることを期待されている新興ベンダについて述べました.ロジック・ブロックの機能は変更せずに,格子型構造のFPGAが抱える配線問題を解決するイノベーションはあるのか,また,どういったアイデアがあるのか.こうした問題意識を持つ研究者や新興ベンダがあちこちで見いだされる時代になっています.

 

筆者プロフィール
山本 靖(やまもと・やすし).半導体業界,ならびに半導体にかかわるソフトウェア産業で民間企業の経営管理に従事.1989年にVHDLの普及活動を行う.その後,日米で数々のベンチャ企業を設立し,経営責任者としてオペレーションを経験.日米ベンチャ企業の役員・顧問に就任し,経営戦略,製品設計,プロジェクト管理の指導を行っている.慶應義塾大学工学部卒, 博士(学術)早稲田大学院.
 

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