拝啓 半導体エンジニアさま(8) ―― 新しいチップを作り,古いチップを置き換える事業モデルは続くのか?
どうなることかと気をもんでいたら,ようやく円高に歯止めがかかったような感じがしてきました.まだまだ予断を許しませんが,とりあえず一服できるというところでしょうか.半導体各社の発表によると,年末年始は工場の休業期間を短くしたり,なくしたりというところが多いようなので,稼働率もだいぶ上向いてきているのではないかと思います.あとはともかく「円高止まってくれ」というところだったので,業界としては悪い方向ではないでしょう.
しかし,「輸出産業」が日本国の貿易黒字を稼ぎ出し,円高になってめぐりめぐって自分の首を絞めるという構図は,相変わらずのものがあります.リーマン・ショックのあと,「今までのように輸出産業に頼っていたのでは駄目だ.産業構造を変えなければ...」と声高に言っていました.しかし,輸出産業が稼がないとどうにもならない,という構図はまったくもって手付かずのままなのだと思います.
産業構造をどう変えるのか,その行く先は凡下には分かりません.「とりあえず」当分は今のままでしょう.電気製品にしろ,自動車にしろ,その多くに部品を供給している半導体業界としては,「輸出産業が必死に外貨を稼ぐ」構図の中に完全に組み込まれています.結局,忙しくなっても,海外とのコスト競争に加えて時折襲来する厳しい円高により,貧乏ひまなしでヘトヘトになるのは変わらないということでしょうか.
●半導体ビジネスはエコじゃない
それもいつまで続けられるかというと,多いに疑問があります.産業構造のような大所高所のようなことを持ち出さなくても,半導体の商品レベルや設計レベルで考えていてもそうです.半導体の設計で何をしてきたかというと,「次の新製品,性能,機能が上のチップ」を常に追い求めてきた,といっても過言ではありません.ときには,昔の製品の単なるコスト・ダウン版のような仕事もあるかもしれませんが,それも競争力アップのためです.新しいチップを作り,自社・他社にかかわらず,古いチップを置き換えてもらおうとしてきました.その結果,次々と新しいチップができ,売れたものも外れたものもいろいろあったのですが,半導体を利用した製品の寿命を考えれば,どれも次々にスクラップになり消えていったはずです.
ふと振り返ってみれば,捨てられたICの山が見えるようです.「後に残らない」半導体設計の業に多少の虚無感を感じつつも,このごろとくに強く思うのが「エコでないな~」という一点です.たいていの場合,新機種の方が電力効率がよく,より低消費電力だったりするのですが,半導体のチップそのものの製造にかかる莫大な電力その他を考えると,ちょっとやそっとの低消費電力のチップにするより,昔のチップを使い続けたほうがよっぽど「エコ」なんじゃないか,とも思うのです.
機器に組み込まれる半導体製品は単なる部品でしかないので,その機器が壊れたり,あるいは陳腐化してしまえば,部品としては健全であっても捨てられてしまいます.その昔は,秋葉原のジャンク屋さんで故障した電子機器を買ってきて部品を取って使う,というようなこともありました.このごろは,外部の人間では仕様の分からないチップが超小型のパッケージに封止されているのが普通なので,それを再利用するのは現実的ではありません.新機能が必要なときに新製品をお買い上げいただき,そこで使われる新しいチップの製造に再びエネルギー(CO2と言い換えてもよい)を消費します.
●「末端」に新機能がいらないクラウド型サービスが台頭
もちろん,今の半導体ビジネスの構図では,新しいチップを買ってもらえないことには立ち行きません.たとえまだ使える半導体があったとしても,陳腐化した機器といっしょに更新されることでようやくやっていける,というところです.どうも,本当にこういう買い替えに頼るようなモデルでこの先もやっていってよいものなのでしょうか.どこかでもっと環境にいい売り方や使い方を考えなければならない時代が来るような気がします.
振り返ってみると,このごろ「末端」のデバイスにはあまり新機能を入れなくても良いのではないか,と思えるような構図もまた出来つつあることに気づきます.いわゆるクラウド型のサービスが爆発的に増えてきて,いろいろな新機能はサーバ側で「サービス」として実装されてしまうので,末端には特有のハードウェアを必要とするような新機能を入れなくても済む,という考えです.そういう面からも,新機能を追って次々と新しいチップを作るような方法だとどこかで行き詰るのではないだろうか,と思えてきます.
とはいえ,新しいチップが売れてくれないとやっていけないですよね.そこから,どのように「構造」を変えたものか,思い惑う今日このごろです.