暮らしに役立つQC七つ道具(6) ―― 特性要因図:「原因」を「整理」する

国広 洋一

tag: 組み込み 半導体

技術解説 2009年6月23日

 この連載では,ソフトウェア開発の品質管理(QC:Quality Control)において使われている七つの技法「QC七つ道具」について解説している.今回は,「抽象化‐具体化」することによってある特性の要因を整理するのに役立つ「特性要因図」を取り上げる.特性要因図は,特性と要因の関係をフィッシュ・ボーンにたとえ,要因を収束し,原因を整理していくのに役立つ.(編集部)

●七つ道具その6:特性要因図

 今回取り上げるQC七つ道具は,「特性要因図」です.特性要因図とは,特性と要因との関係を整理した図です.その形状からフィッシュ・ボーン・チャート(魚の骨図)とも呼ばれます.また,この図法を考案した石川馨(かおる)博士注1にちなんでIshikawa Diagramと呼ばれたりもします.

注1石川博士は日本における品質管理の先駆的指導者の一人であり,「QCサークル」の生みの親でもあります.

 

  • 特性:現象や結果など原因を見つけようとする「対象」
  • 要因:特性に対して影響を与える「要素」もしくは「原因」

 QC七つ道具の中でも「言葉」を使うのが,特性要因図の特徴です.

 特性要因図には,「整理」と「検討」という2種類の使い方があります.「整理」としての使い方は,要因が多すぎるときに,それぞれの要因を共通する要素や抽象度のレベルで分けることによって,体系的に整理するというものです.「検討」としての使い方は,多くの人が集まって検討する際に,現状の共通理解を得るために既存の特性要因図を用いるというものです.

 

1) 特性要因図:よくある使い方の誤り

 「検討」としての使い方で,「ブレーン・ストーミングで要因を抽出して特性要因図を作成する」と書かれているものを見かけますが,それは特性要因図の使い方としては誤りです.

 特性要因図は収束系の技法なので,入力である要因の妥当性が前提です.けれども,ブレーン・ストーミングで抽出した要因は事実に基づかないので,その妥当性が保証できません.その結果として,特性要因図自体の妥当性も保証できなくなります.これは,ソフトウェア開発でいう,「ガーベージ・イン,ガーベージ・アウト(ゴミを入れれば,ゴミが出てくる)」と同じことです.

 以下に特性要因図の例を示します(図1).特性要因図は,右側に特性を書き,左側に複数の要因を体系的に整理した線を引きます.これらの線は,背骨,大骨,中骨,小骨などと呼ばれます.大骨,中骨,小骨の要因は,要因の抽象度(粒度)によって区別します.


[図1] 特性要因図の例

 

2) 特性要因図の書き方

 特性要因図は,以下のような手順で書いていきます.

  1. 対象となる特性を決めて,特性と背骨を記述する
  2. 特性に対してなるべく抽象度(粒度)の高い要因を挙げる
    これらが大骨となる要因の「候補」になります.
  3. 挙がった要因をモレ,ダブり,抽象度(粒度)から検討して,最終的な要因を決定する
    これらを大骨として記述します.
  4. 大骨の要因の抽象度(粒度)を一段具体的(詳細)にして,中骨として記述する
    さらに詳細化できる場合,小骨,孫骨というように詳細化していきます.詳細化の程度は,「具体的な対策」を立てられるところまでです.
  5. 重要な要因に印をつける
    すべての要因に対して対策を取ることは困難なので,重要度や有効性に応じて要因を選びます.

 大骨となる要因は,システム思考注2で見つけるとよいでしょう.ただ,システム思考は慣れが必要なので,フレームワークを利用することが多いようです.製造業では,4M注3というフレームワークが有名です.

注2システム思考とは,物事の一部分に着目するのではなく,全体をシステムとして俯瞰的にとらえ,要素間の関係を構造として扱う考え方です.

注34Mとは,「Man」,「Material」,「Machine」,「Method 」の頭文字をとったもので,「人(作業者)」,「材料」,「製造設備」,「製造方法」のことをいいます.

 

 特性要因図は,書くのが難しいという話をよく聞きます.筆者も,QC七つ道具の中では一番難しいと考えています.なぜかというと,「抽象化」と「具体化」という方向性の違う2種類の考え方を同時に要求されるからです.

 ただ,「抽象化」と「具体化」を同時に考える,というのは「問題解決」にとても有効な「手法」なので,身につけておくとよいでしょう.この考え方に慣れるためには,ハシゴを昇り降りするように抽象化と具体化の間を移動する訓練を行うことが有効です.

 では,実際にどんな感じでやればいいのか,例を挙げてみましょう.

 

3) 特性要因図の例:「旅行に行く」という特性の場合

 以下,「旅行に行く」という特性について,特性要因図を作る際の「抽象化‐具体化」の作業をみていきましょう.

  1. 特性を,時間軸や空間軸といった特定の切り口(視点)で「層別」する
    これは,「問題」を小さくするためです.時間軸の場合なら,「旅行に行く前」,「旅行中」,「旅行に行った後」,というように分けることができますね.
  2. 層別した特性の範囲の中から「具体的」な要因を列挙する
    「旅行に行く前」という範囲で,「具体的な要因」を列挙してみましょう.「行く場所を決める」,「名所や名物を調べる」,「宿や切符の予約をとる」,「旅行の荷物をそろえる」,といったところでしょうか.
  3. 列挙した具体的な要因を,共通性で「抽象化」する
    行く場所を決めたり,名所や名物を調べたり,予約をとったりすることには,「訪れる場所を調べる」,「名所や名物を調べる」,「宿を調べる」,「乗り物の経路や値段を調べる」など,どれも「○○を調べる」という要素が「共通」します.さらに,「○○を調べる」を抽象化して「情報入手」という要因を抽出します.これが,特性要因図でいうところの「大骨」です.
  4. 抽象化した要因を段階的に「具体化」する
    「大骨」の要因を,特性要因図の「中骨」にあたる要因に具体化してみましょう.「情報入手」を具体化すると,「テレビの旅番組を見る」,「インターネットで探す」,「ガイドブックを調べる」,といったことがあげられますが,これらは,まだ具体化できそうです.さらに特性要因図の「小骨」にあたる要因にまで具体化してみましょう. 「テレビの旅番組を見る」を具体化していくと,“○○に泊まろう!”,“いい旅○○紀行”,“○○へ行きたい”というように,今度はテレビの番組名があがってきます.ここまで詳細にしていけば,「テレビ欄をチェックする」,「番組を見る」,「録画する」といった具体的な行動ができるようになりますね.
     

 と,このような感じで,抽象化と具体化の作業を行います.なんとなくイメージはつかめたでしょうか?

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