自動車業界に見る組み込みソフト開発効率化の取り組み(番外編) ―― AUTOSAR準拠へのステップ

兼平 靖夫

tag: 組み込み

コラム 2009年5月26日

 本コラムでは,AUTOSARの各種ソフトウェア・コンポーネント(SWC)や基本ソフトウェア(BSW)などが標準化され,再利用が可能になることにより,開発効率や品質が向上すること,そしてAUTOSARの一連のフローについて解説しました.

 今回は番外編として,AUTOSARを現実の車載システムに適用する際のテクニックとして

  • 複合デバイス・ドライバ(CCD:Complex Device Driver)
  • インプリメンテーション・コンフォーマンス・クラス(ICC:Implementation Conformance Class)

の二つを説明します.複合デバイス・ドライバは,主に処理が間に合わない時などに使用します.インプリメンテーション・コンフォーマンス・クラスは,全ての基本ソフトウェアがAUTOSARに準拠していない時などに,準拠の範囲を決めて適用できるようにするために使用します.

●複合デバイス・ドライバ

 本コラムの第一回で,レイヤ・アーキテクチャとしてAUTOSARのソフトウェア・アーキテクチャを説明しました.そこでは詳しく説明しませんでしたが,図1の一番右に層状になっていない複合デバイス・ドライバと呼ばれるモジュールがあります.


[図1] AUTOSARの詳細アーキテクチャ

 通常AUTOSARでは,OSの一部の機能を除き,ハードウェアへの接続はMCU固有の処理をまとめたマイクロコントローラ抽象化層(MCAL:Micro Controller Abstraction Layer)を介してMCUに接続されます.一方,複合デバイス・ドライバではMCUに直接つながっています.

 複合デバイス・ドライバがAUTOSARに準拠する条件は,RTE(AUTOSARランタイム環境)への接続用にAUTOSARインターフェースを持たせることです.この複合デバイス・ドライバの使用目的は主に2種類に分けられます.

  1. 処理速度の要求――パワー・トレインのインジェクション制御,バルブ制御など,処理速度の要求が高い分野
  2. AUTOSARドライバ入手可能性からの要求――標準化できない特殊なソフトウェア,例えばまだAUTOSARインターフェースの存在しない新しい通信方式をサポートしようとするときや,接続に専用のASICが必要になるような場合に使用します.

 このように処理速度や汎用性といった現実の問題に対処するために,ショートカットを許すドライバが認められています.

●インプリメンテーション・コンフォーマンス・クラス

 実装時のコンフォーマンス(適合性)の基準を規定するインプリメンテーション・コンフォーマンス・クラスについて説明します.これは基本ソフトウェアの中をどこまでAUTOSAR準拠にするかを規定するもので,インプリメンテーション・コンフォーマンス・クラス1,2,3の三つのクラスがあります.

1) インプリメンテーション・コンフォーマンス・クラス1(ICC1)
 ICC1は,RTE以下の基本ソフトウェアを全てブラックボックスとして扱い,ソフトウェア・コンポーネントの標準化の利点だけを利用しようという考え方です(図2).既存のECUの基本ソフトウェアを変えずに扱えるため,当面のAUTOSARへの対応として利用されます.当然,ICC1の基本ソフトウェアはMCUに依存しており,移植性はありません.


[図2]ICC1でのブラックボックス化

2) インプリメンテーション・コンフォーマンス・クラス2(ICC2)
 ICC2はクラスタ・アプローチと呼ばれ,ICC1よりは少し進んで,基本ソフトウェアを

  • OS
  • 通信サービス
  • LIN通信ソフトウェア
  • CAN通信ソフトウェア
  • FlexRay通信ソフトウェア
  • I/Oハードウェア・アブストラクション
  • 複合デバイス・ドライバ

など,10のクラスタに分割し,それぞれのクラスタ単位でAUTOSARに準拠させます.ただ,これはそれぞれのクラスタの制約条件が難しく,かつクラスタで標準化すればほかに流用できるというものでもないため,あまり使われません.

3) インプリメンテーション・コンフォーマンス・クラス3(ICC3)
 ICC3はAUTOSARで定義する50以上の各基本ソフトウェア・モジュールがAUTOSARに準拠しており,かつ外部ベンダからも基本ソフトウェアを導入できます.一番自由度の高いクラスです.

●最後に

 今回の番外編を含め,6回にわたりAUTOSARについて解説してきました.リアルタイム性と高信頼性が要求される車載ソフトウェアをより柔軟に移植,再利用しようという野心的な規格のため,とても全てを書ききれませんでしたが,基本的な考え方が理解していただけたのではないかと思います.
 日本でもJasparが車載ソフトの標準化を行っていますが,ダブル・スタンダードを避けるため,AUTOSARとも協調関係を持っています(詳しくはJasparのプレスリリースを参照).これからもAUTOSARの動向には目が離せません.
 

 かねひらやすお
ジーンシス・ジャポン代表取締役社長

Geensys社はAUTOSARプレミアム・メンバとしてAUTOSAR準拠開発ツール,基本ソフトウェア両方のソリューションを提供しています.
 

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