ソフトウェア・テストに関する現場ノウハウや動向を披露 ―― JaSST'09 Tokyo

組み込みネット編集部

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レポート 2009年2月 6日

――ソフトウェアテストシンポジウム 2009 東京(JaSST'09 Tokyo)レポート

 2009年1月28日~29日,目黒雅叙園(東京都目黒区)にて,「ソフトウェアテストシンポジウム 2009 東京(JaSST'09 Tokyo)」が開催され,約1,700名の技術者が参加した(写真1).基調講演にはソフトウェア工学分野に詳しいコンサルタントRoger S. Pressman氏が登壇し,ソフトウェア工学の技術動向を概観した.

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[写真1] ソフトウェアテストシンポジウム 2009 東京(JaSST'09 Tokyo) 基調講演の様子
目黒雅叙園(東京都目黒区)にて開催された.

 本シンポジウムは,ソフトウェア・テストやソフトウェア品質に関する講演やワークショップ,パネル・セッションなどで構成されている.学術的な内容に偏らず,現場で活用できる技術や方法論,ツールの紹介などにも重点が置かれているのが特徴.主催は,特定非営利活動法人 ソフトウェアテスト技術振興協会(ASTER)

●Pressman氏,ソフトウェア工学の未来を語る

 Pressman氏は,理想的な技術革新のライフサイクルとして,「実験的導入期~発展期~安定期」というサイクルが繰り返し発生する模式図を示した(写真2).この考え方によると,サイクルを繰り返すごとに期間は短くなり,技術革新が加速度的に進むことを想定している.しかし現実には,「(技術に対する)期待が急激に高まる時期~反動と幻滅が訪れる時期~少しずつ啓蒙が進み,安定してくる時期」という過程を経るという(いわゆるハイプ曲線).ソフトウェア工学のトレンドにもハイプ曲線が当てはまる.Pressman氏は,遠くない将来にスマート・デバイスの時代が来ること,ソフトウェア再利用が依然として議論されていること,モデル駆動開発やテスト駆動開発,アスペクト指向開発の概要などに触れた.そして,「将来を占うのにいちばん良いのは,自分自身で気付くことだ」というAlan Kay氏の言葉を引いて講演を締めくくった.

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[写真2] 理想的な技術革新のサイクル


●定量的品質コントロールを提案

 独立行政法人 情報処理推進機構 ソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)の吉澤 智美氏は,組み込みソフトウェア開発に向けてSECが提唱している体系的な品質管理手法「ESQR(Embedded System Development Quarity Reference)」を紹介した(写真3)

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[写真3] 講演する吉澤 智美氏
吉澤氏は組み込みソフトウェア開発をりんごの栽培に例え,どんなりんごを作るのか,だれに向けて作るのかを考えながら,育て方が適切かどうかを計測・評価・改善する必要を訴えた.

 ESQRは,ソフトウェア開発のプロセスや出来上がったソフトウェアの品質を計測するための指標と目標値を提示している.ただし,指標を達成することが目的になってしまうと,本来プロジェクトが目指すべき品質などを見失う危険性がある.吉澤氏は,指標や目標値を自分たちのプロジェクトに合わせて選択するよう勧めた.また,目的はあくまで状況を可視化し,プロジェクトが必要とする品質に合わせて制御することである,と述べていた.

●テスト設計書のテンプレートを整備

 NEC通信システムの杉田 正実氏は,「テスト設計書を書こう! ―抜け漏れのないテスト設計仕様書テンプレートの提案―」と題した講演を行った.同氏らは,NECグループで実施しているSWQC活動(ソフトウェアの総合的品質管理活動)の一つである「テスト技術コミュニティ」において,テスト設計書のテンプレートを作成した.具体的には,機能テストと非機能テストのそれぞれに関してテスト観点を整理,抽出し,テンプレートとしてあらかじめ列挙しておく(写真4).テスト設計書を記述する際には,テンプレートに従ってテストを設計するので,必要な観点の漏れや,担当者によるテスト設計内容のばらつきを軽減できるという.

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[写真4] テスト観点の抽出例

●破綻しかけたプロジェクトの立て直し事例を披露

 オムロンの平野 誠太郎氏は,テスト工程においてプロジェクト管理が破綻しかけていた事例を挙げ,どのようにしてプロジェクトを立て直したのかについて発表した.このプロジェクトでは,ソフトウェア,ハードウェアの両方に設計・実装の残作業があったにもかかわらずテストを無理に開始してしまい,プロジェクト管理がおろそかになっていたという.対策として定期ミーティングや場当たり的なミーティングを全員参加で行っていたが,プロジェクト・メンバの負担感が増すだけで,プロジェクトの進捗はますます思わしくない方向に向かっていた.

 平野氏は,立て直しの専任者として同プロジェクトに参加した.同氏が実施した施策は,「障害対策状況の傾向を把握すること」(写真5),「スコープを明確化すること」,「タスクの進捗を監視し,優先順位を付けること」の三つである.これらは基本的な施策であるが,それまでこのプロジェクトでは実施されていなかったという.

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[写真5] プロジェクト立て直しのために実施した施策
オープン・クローズ・チャートを作成し,障害の発見数と対策数,未対策数,確認数の推移を把握した.また,度数分布図を作成し,発生から対策,確認までの期間を図示したり,対策に要した時間(対策工数)を図示した.

 障害対策状況の傾向を把握するためのグラフ(オープン・クローズ・チャートと度数分布図)の作成は,プロジェクト外のスタッフに依頼した.障害対策データベースから抽出したcsvデータをExcelでグラフ化し,半自動で図表を作成できるようにして,毎日更新した.

 スコープの明確のために,担当者ごとのタスクの開始と終了を書き込む線表を用意した.また,設計課題と重要な障害を記入する課題一覧表も用意した.これらの導入の際に,新たなツールとして導入するのではなく,それまで使用していた線表を少しずつ変える形で導入し,プロジェクト・メンバの負担感をなるべく軽減したという.また,あえて納期は記載せず,メンバが最速で作業を実施してくれていることを信頼している姿勢を見せた.

 これらの図表をもとに,毎日ソフトウェア開発リーダや設計者,テストのリーダを集めて30分のミーティングを実施した.図表に現れた事実に基づいて状況を把握し,タスクに優先度を付けて進捗を監視した.ミーティングが長引くのを防ぐため,課題対策の内容についてはこの場で議論しないこととした.また,ミーティングの場で線表や課題一覧表を更新し,メンバ間で意識合わせをした.このようにすることで,ミーティングを30分以内に終えることができた.その代わり,立て直し担当者は事前に周到な準備をしていたのだという.

 立て直しのかいあって,本プロジェクトは客観的に見直したリリース目標を達成した.今後は,ほかのプロジェクトにおいても同様の施策を適用し,プロジェクト管理を改善していきたい,とのことだった.

●初心者向け演習セッションも人気

 今回のシンポジウムでは,初心者向けのセッションも実施された.富士ゼロックスの秋山 浩一氏は,「初心者向けテスト技法演習」と題したセッションにおいて,同値分割,境界値分析,デシジョン・テーブルといった基本となるテスト技法を,演習を交えながら丁寧に解説した(写真6)

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[写真6] 初心者向けにテスト技法を解説するセッションの様子


●テストの問題の本質を探り,「運用に基づいたテスト」を提案

 日立製作所 ソフトウェア事業部の居駒 幹夫氏は,「10年後のソフトウェアテスト技術」と題した講演を行った(写真7).近年,ソフトウェア・テストが重要であるという認識は高まっており,各開発プロジェクトは基本的なテストを実施しているにもかかわらず,製品出荷後に出現するバグは依然として無くならない.居駒氏は,ソフトウェア・テストの問題の本質は,ソフトウェアの設計やソース・コード,バグ数,生産性,信頼性などのすべてに「凸凹(非均質性)」が存在することではないか,と述べた.そして,現状の問題を改善するためには,ソフトウェアに存在する凸凹をなるべく均等なものにするか,凸凹があっても適用可能なソフトウェア・テスト技術を開発する必要があると述べた.また,テストを実施する際に,要求や仕様に着目してテストを実施するのではなく,顧客が実際に使うパスを重点的にテストすることで,より有用なテストができるのではないか,と提案した.

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[写真7] 特別講演「10年後のソフトウェアテスト技術」の様子


●クロージング・パネルに豪華メンバが集う

 2日間のシンポジウムを締めくくるクロージング・パネル・セッション「テスト技法からテストメソドロジへの進化を目指して」は,テスト技法にポリシを持つ7人のパネリストを集め,3時間にわたって開催された(写真8).パネリストは,富士ゼロックスの秋山 浩一氏,日立情報通信エンジニアリングの池田 暁氏,ベリサーブの工藤 邦博氏,TISの鈴木 三紀夫氏,電気通信大学の西 康晴氏,デバッグ工学研究所の松尾谷 徹氏,豆蔵の湯本 剛氏.各氏がそれぞれの持論であるテスト方法論を披露し,パネル・セッションでありながらチュートリアルの趣も併せ持つセッションとなっていた.

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[写真8] クロージング・パネルの様子

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