ソフトウェア・マネージメントの極意を著名人が解説 ―― ソフトウェアテストシンポジウム 2010東京(JaSST'10 Tokyo)レポート

北村 俊之

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レポート 2010年2月 1日

 2010年1月28日~29日の2日間,「ソフトウェアテストシンポジウム 2010東京(JaSST'10 Tokyo)」が目黒雅叙園(東京都目黒区)にて開催された(写真1).ソフトウェアテストシンポジウムは,北海道,東京,東海,関西,四国,九州の全国7カ所で開催されている研究会で,ソフトウェア品質やテストに関する研究や事例などの発表が行われている.また,ツール・ベンダやコンサルタントによるチュートリアル,ライトニング・トークス(ショート・プレゼンテーション),クイズ・セッション,およびパネル・ディスカッションなどが実施されている.主催は,特定非営利活動法人 ソフトウェアテスト技術振興協会(ASTER)およびJaSST'10(ジャスト・イチ・ゼロ)Tokyo実行委員会.


写真1 会場受付の様子

 

 基調講演には,プロジェクト・マネージメントやソフトウェア・テストについて造詣が深く,関連書籍も多数発行している米国Rothman Consulting社 マネージメント・コンサルタントのJohanna Rothman氏が招かれ,ソフトウェア開発マネージメントをテーマに講演した.また,開催2日目には,日本電気の誉田 直美氏による講演も行われた.今回は,Johanna Rothman氏の基調講演などを中心に報告する.

●プロジェクト/リスク/人材マネージメントの著名人が講演

 開催初日は,JaSST'10 Tokyo実行委員会の共同委員長である香川大学 情報処理センター長の古川 善吾氏によるオープニング・セッションに続き,基調講演でJohanna Rothman氏(写真2)が登壇した.同氏は,先端技術や製品開発の管理に関するコンサルティングや講演を行っている.同氏によると,プロジェクト・マネージメントやリスク・マネージメント,人材マネージメントの抱える課題に対して実践的なアプローチを行うことで,マネージャやチーム,そして組織全体を改善できるという.同氏は「Agile2009コンファレンス」の議長も務めており,チームやマネージャ,および組織全体が,プロジェクトやプロジェクト・ポートフォリオの改善を目的としたアジャイル・アプローチに移行する際のサポートを続けている.


写真2 Rothman Consulting社のJohanna Rothman氏

 

 同氏の著書には,「Manage It! Your Guide to Modern, Pragmatic Project Management(Manage It! 現場開発者のための達人式プロジェクト・マネージメント)」,「Hiring the Best Knowledge Workers, Techies & Nerds:The Secrets and Science of Hiring Technical People(ザ・ベスト 有能な人材をいかに確保するか)」などがある.また,月刊でeメール・ニュースレターやポッド・キャストを使用して「The Pragmatic Manager(実践的マネージャ)」を発行するほか,「Managing Product Development(製品開発の管理)」と「Hiring Technical People(技術者の雇用)」という二つのブログを書いている.さらに「Amplifying Your Effectivenessコンファレンス」も主催しており,そこではセッション・リーダを務めている.

●「成功するソフトウェア・マネージメント:17の教訓」を紹介

 約100分にわたる基調講演は,「Successful Software Mnagement - 17 Lessons Learning(成功するソフトウェア・マネージメント:17の教訓)」と題され,本格的な技術者としての経験を数年積んだ後,管理者となった同氏の失敗話や教訓などの経験談を交えながら語られた.

 まず,教訓1. 「Know What They Pay You to Do(何をするために給料をもらっているのかを意識する/自分にとってのミッションは何か)」,教訓2. 「Plan the Work:Portfolio Management(マルチタスクは避け,緊急案件と重要案件を区別する)」,教訓3. 「Accept Only One #1 Priority at a Time(重要案件には必ず優先順位が付けられる)」,教訓4. 「Commit to Projects After Asking Your Staff(スタッフに確認したあと,プロジェクトに専念する)」などの内容が語られた.

 次に,教訓5. 「Hire the Best People for the Job(仕事に合わせてベストな人材を選ぶ)」(写真3)では,プロジェクトに合わせたベストな人選の重要性について触れた.ベストな人材とは,必ずしも技術的に優れているだけではなく,多様性,たとえば性別の違う人や,現状に疑問を持つ人,異なった考え方を持つ人など,さまざまな人材を雇用することを考慮すべきで,こうした人材を確保するために,インタビューや面接の手法を工夫すべきであるという.


写真3 「Hire the Best People for the Job(仕事に合わせてベストな人材を選ぶ)」の内容

 

 教訓6. 「Preserve Good Teams(チームの重要性)」では,チームは作るものではなく,チームワークの上手な人がチームとなってよい仕事をする,教訓7. 「Avoid Micromanaging or Inflicting Help(マイクロマネージメントの回避/やっかいなお世話)」では,マネージャはマイクロマネージメント(詳細におよぶ管理)は極力避け,助けを求められたときだけ手を差し伸べ,基本的にはスタッフを信頼して任せる,といったことが語られ,さらに教訓8. 「Treat People Individually and With Respect(尊敬をもって個人としてスタッフを扱う)」などが紹介された.

 教訓9. 「Meet Weekly with Each Person(週ごとに個別のスタッフ・ミーティングを持つ)」(写真4)や教訓10. 「Plan Training Time in the Workweek(1週間の仕事の中でトレーニング時間を計画する)」(写真5)では,マネージャとスタッフの間,およびスタッフ同士のコミュニケーションの重要性が指摘された.マネージャとスタッフの間のミーティングは,状況が良い時も悪い時もフィードバックが得られるというメリットがあり,毎週15~20分程度のミーティング時間を設けることが推奨される.当初はマネージャ主導のミーティングとなるが,すぐにスタッフからさまざまな要求を聞けるようになるという.また,スタッフ同士のミーティングについては,たとえばランチ・ミーティングを開いてほかのプロジェクト・スタッフとの情報交換や勉強会などを行うと,生産性の向上に寄与するという.


写真4 9.「Meet Weekly with Each Person(週ごとに個別ミーティングを持つ)」の内容
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写真5 10.「Plan Training Time in the Workweek(1週間の仕事の中でトレーニング時間を計画する)」の内容 
※ クリックすると拡大します

 

 教訓11. 「Give Credit Freely(信頼の絆を広げる)」では,素晴らしい仕事をしたスタッフを評価し,そのことをほかのスタッフにも知らせることを推奨した.結果的にそのスタッフだけでなく,マネージャである自分の評価にもつながるという.教訓12. 「Fire People Who Can't Do the Work(仕事ができないスタッフは解雇する)」では,仕事で役に立たないスタッフを排除するのは大事であるが難しいことが語られた.仕事ができないスタッフがいると,できるスタッフの士気が低下し,チーム全体の生産性に対してマイナスの効果がある.これはゼロより悪いという.また,教訓13. 「Emphasize Results, Not Time(時間ではなく,結果を強調する)」では,仕事の成果と仕事時間がイコールであるというのは,幻想であると指摘する.

 教訓14. 「Admit Your Mistakes(ミスを認める)」,教訓15. 「Recognize and Reward Good Work(良い仕事は認め,褒賞を与える)」,教訓16. 「Take a Vacation(休暇を取る)」,教訓17. 「Manage Yourself(自己管理をする)」 では,マネージャとはどうあるべきかについて語られた.失敗は誰にでもある.これは,マネージャであっても例外ではない.大事なことは完璧を目指すのではなく,失敗を早い時期に認めることであり,自らの失敗を否定したり,無視したり,人のせいにする,といった行為はプロジェクトに最悪の結果しかもたらさない.そして,「適当に休暇を取りリフレッシュする」,「感情をコントロールする」など,自己管理の重要性を強調した.

 最後に同氏は,「技術畑の人でも素晴らしいマネージャになれる.仕事の方法論を開発でき,マネージメントを客観的に計測できる.完璧である必要はないのだから,技術者の強みをマネージメントでも生かせばよい」と講演を締めくくった.


●ロボットを使うテスト自動化システムがシナリオ作成機能などを装備

 本シンポジウムでは,ソフトウェア・テストを支援するツールなどのデモンストレーションが行われる展示エリアも設けられていた.例えば日本ノーベルは,組み込みソフトウェア・テスト自動化システム「Quality Commander 5」を展示した(写真6).本システムは,携帯電話やタッチパネル機器,カーナビなどの車載機器,赤外線リモコン使用機器のボタンなどをロボットに押させることで,動作チェックを正確に長時間行える.テスト・シナリオを効率よく作成するための支援ツールとして,Excelで記載したテスト仕様からベースとなるシナリオを自動生成する「シナリオジェネレータ」などが用意されている.また,1度に2台のロボットを制御できるハイブリッド・マニピュレータに対応しており,2台の携帯電話の間で電話をかけ合うなどの複雑な試験を自動化できるという.


写真6 日本ノーベルの「Quality Commander 5」

 

●アーキテクチャ構造図を用いて設計と実装の整合性をチェック

 東陽テクニカは,C/C++言語用アーキテクチャ分析支援ツール「Structure 101」を展示した(写真7).本ツールは,効率的なアーキテクチャ分析を実現するための「QA C/QA C++」のアドオン製品となっている.ソフトウェアの構成要素をアーキテクチャ構造図を用いて可視化し,設計と実装の不整合を開発の早期の段階で検出できる.また,ソース・コードの改版によって影響を受けた構成要素も把握できるため,管理不能になる前に設計とソース・コードの間の整合性をチェックできる.


写真7 東陽テクニカの「Structure 101」

 

 

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