初めての技術系コミュニティ活動(3) ―― 情けは「人のため」ならず

前川 直也

●「ほんまもん」の衝撃

 少しだけ,自分の話に戻ります.社会人になって2回目の分岐点で出会ったコミュニティ「XPJUG関西」では,いきなりKent BeckとAlistair Cockburnという大物2人を日本に迎えて講演会を開く,という一大イベントのスタッフになってしまいました.まだまだ自分では「XPって何???」という状況だった中,300名規模の講演会のお手伝いから始まったわけです.いろいろな苦労がありましたが,XPの詳細を知る前に,それらの考え方を作り出したアジャイルの大物(関西風に表現すると「ほんまもん」)に会うことができたわけで,自分自身としてもXPやアジャイルをとっても身近なものに感じることができました.XPが,書籍や人から聞いた内容ではなく,よりリアルなものとして自分の中に入り込んできたのです.Kent Beckに質問したときにもらったメモと2人の名刺は,今でも会社の机の横の見えるところに置いてあります.

 その後,Martin Fowler夫妻が京都に来たとき,XPJUG関西で一緒に活動していた土屋さん一家とうちの家族で,家族ぐるみの京都観光に行くという体験もさせていただきました(Martin Fowler氏の体験記はこちら).それで何か変わったの? と問われても,むっちゃ楽しかったっす! という答えしかできないかもしれないけれど,自分の中では,これらの方からもらった「リアルで強い思い」を,今度は自分自身が伝えていくんだよな! という,ちょっとした責任と自信をもらったような気がしています.

 海外の大物の方々だけでなく,日本国内でもとにかくたくさんの方々と会って,直接話を聴く機会がありましたし,今でも多くの方々のおかげで,自分自身の立ち位置を明確にしてもらっていると思っています.社会人2回目の分岐点で得たものは,この大きくて広いヒューマン・ネットワークだったのだと思います.

●そして次のコミュニティへ

 その後,XPJUG関西でもいろいろな活動が行われ,本連載コラムの第1回で細谷さんが書いていたTDDの分科会などが,活発に動き出すようになりました.そのあたりで,職場のSEPG(Software Engineering Process Group;組織で使用されるソフトウェア・プロセスの定義や保守,改善を促進する専門家のグループ)になった筆者は,ソフトウェア開発プロセスとアジャイル開発についての模索を始めるようになります.XPJUGでもソフトウェア・プロセスとXPの分科会などを設定して活動を始めましたが,自分の時間がとれない中,責任を感じてまとめよう,まとめようと思ったことが裏目に出てしまい,キックオフの大きなセミナーは実現したものの順調な活動には至りませんでした.

 そんなときに,本連載コラムの第2回で西河さんが書いていたProject Facilitation Project(PFP)の立ち上げに参加することになり,XPJUGではなかなか手につかなかった,「アジャイルのマインドを活用し,プロジェクト・メンバのパワーを引き出しながら,成功を目指す」プロジェクト・ファシリテーションという新しい領域のコミュニティが動き出します.たまたまこの領域が気になる人たちが集まることで,新たな波が生まれたわけです.これは,皆さんの思いがコミュニティを媒体にして自然に集まってしまうことをリアルに体験した瞬間でしたし,それぞれのコミュニティが,それぞれの「色」を自発的に生み出していくことを感じることができました.

 極端に言えば,関西ではXPJUGが開発寄りの,PFPがプロジェクト運営寄りのコミュニティになります.このように自然に色が出て,すみ分けができたのも,集まったメンバの「自分探しの種」が共鳴した結果だと言えます.筆者自身も,それぞれのコミュニティの色に合わせて活動に参加させていただいていますし,ほかにも,PFPよりさらにコミュニケーションやモチベーションを深く追求するコミュニティ「PS研究会(関西は「PS-mosey」という名前で動き始めました)」などにも参画しながら,まだまだ自己中な活動を続けております.

●情けのループを回す

 と,ここまで書くと本来の「情けは人のためならず」の意味になりますが,もう一つステップアップできるのがコミュニティの醍醐味です.自分自身が成長し,少しでも自分でできるものを見つけると,今後はご恩返しが始まります.コミュニティは誰かが動き出さなければ決して前には進めません.何か自分ができることを,参加した皆さまのために形にしなければなりません.ワークショップやセミナーを開催する,その講師を務めることもその一つです.高飛車な表現かもしれませんが,皆さんの自分探しの種に水をかけてあげる.これは自分を見つめられたからこそできるごほうびであり,自分のためにやってきた「情け」を,今度はまわりの皆さんに提供できる自分を見つけられた証拠です.

 とはいえ,これも結局,フィードバックという形で自分のところに戻ってきます.たまには失敗することもありますし,参加者アンケートの結果がさんざんだった,ってこともあると思います.でも,そのフィードバックを得ることが,また自分のステップアップになります.もちろんコミュニティ向けでなくとも,一番身近な自分自身のチームやプロジェクトのメンバに向けて伝え,そのフィードバックをもらうこともできます.その方が,シビアなフィードバックかもしれませんけどね.

 自分の周囲だけでなく,より広い範囲の方に伝えることもできます.コミュニティを超えた広い範囲のシンポジウムや,ブログ,雑誌や書籍などもそうです.筆者自身,コミュニティに参加して,細谷さんと一緒に雑誌記事を書いたり,西河さんと書籍を出版できたり,ようやく,広い範囲の皆さんに伝えることができ始めてきました.

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