初めての技術系コミュニティ活動（3） ―― 情けは「人のため」ならず

　少し考えてみてください．筆者のように「生きているってどんなことだろう？」というほど大きな投げかけではなくても，皆さんそれぞれに「どうして仕事しているのだろう？」，「自分にとって仕事って何？」，「仕事のどんなことが楽しいのだろう？」ということを一度ならず考えてみたことはないでしょうか．特に，プロジェクトの納期に追われ，多忙な日々を過ごし，疲れながらも自分の時間が減らされている時期などのふとした時間に（例えば疲れきった帰りの電車の中とか），そんな疑問を自分自身に投げかけていることが多くはないですか？ でも，そんなときに限って「まぁいいさ，この仕事が終わったら，きっと楽しい時期が待ってるはずだよ！」と無理にでも自分に言い聞かせて明日の活力を引っ張り出し，これだとメタボだよな～と思いながら，家族の寝静まった食卓で冷めた食事を口に運び，すぐに寝てしまう...．すみません．極端です．でも，こんな日がないとは限りませんよね．

　でも，この「自分への問いかけ」はとっても大切なことだと思うのです．そうやって問いかけ続けることで，自分自身を次のステップへと導くことができるはずです．その「はず」なのですが，なかなか最適な「解」が見つからず，右往左往しながら足踏みしている状況なのではないでしょうか．

　こういう状況が起こる原因の一つに，「会社という枠組みにはまりすぎて，周りが見えなくなってしまっている」ことがあると思います．毎日同じものを食べ続けていると，その味に慣れてしまいます．同じような本や雑誌を読んでいると，新しい発見が少なくなります．そんなときは，外食したり，日ごろ読まないような本を友達に借りたりと，ちょっと違った刺激を体験することで，自分の違った面を探り当てたりしませんか？ それと同じような「刺激」をくれるのが，社外のコミュニティなんだと思います．

　もちろん，「今後のスキルアップのためにはこんな勉強をしておかねば」，「次のプロジェクトには必要だから上司からどうしても参加しとけ！ と指示された」とか，ちょっとした目標を持ってコミュニティに参加することもあるでしょう．でも，そんなに肩肘張らなくてもいいのです．「なんか面白そう！」，「たまには違う雰囲気を感じよう！」．これだけでも，重要なきっかけなのです．自分自身が立っている範囲から，少しだけはみ出してみる．そんなきっかけが，その後の皆さん自身の立ち位置を大きく動かすきっかけになると思います．

●情けは「人のため」ならず

　よく解釈を間違えられることわざの代表として「情けは人のためならず」というものがあります．正しい解釈は，「人に親切にすれば，その相手のためになるだけでなく，やがてはよい報いとなって自分にもどってくる，ということ」（大辞泉より）ですね．コミュニティは，特定の利益を得るためでも，どこからか強烈なミッションを与えられて活動しているものでもありません．参加者のボランティア精神によって成立されているものですし，本業で多忙な方ほど，自分の時間を捻出して運営スタッフ側に回っていることも多いのです．

　コミュニティに初めて参加する人は，ことわざの間違った解釈のほう，つまり「参加者のために，よくこんなに頑張っているよなぁ．そんなに情けをかけると参加者のためにならないのでは？」と思うことがあるかもしれません．もしかすると異論反論があるかもしれませんが，「コミュニティの参加動機なんて，極めて"自己中"（自己中心的）なものです」（書いちゃった...）．

　コミュニティに参加している人たちは，やっぱりどこかで「自分探し」を続けています．自分探しというと流行に乗ったキーワードのような感じもありますが，そうではなく，分かりやすく言うと，自分自身の成長（ステップアップ）を目指しています．コミュニティの発展に伴って，ソフトウェア業界での第一人者になった人々もたくさんいますが，その皆さんは今でもやっぱり自分探しを続けています．多くの人が，毎回ドキドキハラハラしながら，その反面ワクワクしたキラキラなまなざしで，コミュニティに参加しています．そして，コミュニティで自分が何を得られるのか，自分にはどんな一面があるのか，自分自身で何ができるのか，それを探しに来ているのです．だからこそ，皆と共感でき，一人では決して探し当てられなかった自分自身の新たな一面をゲットして帰ることができるのです．これは，自分探しという共通の種をもとに，知らず知らずのうちに思いが伝わっているから実現できることだと思います．