目指すは国際大会! 子どもたちのロボコンが始まる ―― WRO 2008 Japan 岐阜予選会
2008年7月13日,かかみがはら航空宇宙科学博物館(岐阜県各務原市)にて,小中高校生を対象としたLEGO MINDSTORMSによるロボット競技会「WRO(World Robot Olympiad) 2008 Japan」の岐阜予選会が開催された(写真1).主催は,同博物館を拠点に活動している地元のNPO法人 MACH B&F(マック・ビーアンドエフ).
写真左は常設展示のSTOL(短距離離着陸)実験機.本博物館は航空機の展示数では国内一を誇る.WROの競技は,普段は工房兼各種教室開催用に使われているスペースで行われた.
WROは,世界中の子どもを対象とした,自律移動ロボットによるロボット・コンテストの国際大会である.参加しやすさを考慮して,ロボットには市販のロボット・キット(LEGO MINDSTORMS)を利用している.2004年にScience Centre Singapore(シンガポール・サイエンス・センター)の発案で開始され,日本でも同年から科学技術振興財団の協力を得て,国内大会「WRO Japan」や国内予選会を実施している.
本大会は技術的な教育効果だけでなく,国際交流も含めた人材育成を目的としている.当初はアジアを中心に13カ国4,468チームで始まった本大会も,今では25カ国10,000チームという規模に成長した.今年,国内では7~8月にかけて22の予選会が開催され,決勝大会が8月31日にパシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催される.
●泣いても笑っても勝負は2回
岐阜予選会には,八つの小学生チームと四つの中学生チームが参加した.競技を午前と午後の合計2回行い,ベスト・スコアを競った.競技コースは当日の朝公表され,参加チームはこれまで研究(勉強)してきた基本的な制御技術を駆使して完走プログラムを作り上げる(写真2).
「あそこはどうしようか?」,「これでいけるんじゃない?」....日ごろの鍛錬とチームワークが試される.
WROの規定により,ロボット(スタート前)の大きさは25cm立方以内である必要がある.予選会とはいえ,審査員(サポータ)によって厳密にチェックが行われる.
●子どもたち,魔のコースに挑む
小学生向けコースは,前半こそ直線と緩やかなカーブで構成されているものの,後半には直角カーブが2カ所連続するという過酷な試練が用意されていた(写真4).少々難しすぎるのでは? との意見もあったようだが,「この程度は軽くクリアしないと国内大会で相手にされない」と,MACH B&F 理事である安村 佳之氏の愛のむちが発動したもよう.
試走開始当初は最初の難所でコースを外れる機体が続出した.やはり難易度が高すぎたか? との大人たちの心配をよそに,子供たちはプログラム修正に集中! なんと1時間後には,ほとんどのチームがとりあえず完走するレベルに仕上げてきた.若い頭脳のすばらしさに感動を覚えた.
前半はライン・トレースさえできればクリア可能.しかし後半には,直角カーブの連続が待ち構える.最後に缶を倒せばゴール.
一方,中学生向けコースは,レゴ・ブロックが点在する「悪路」やコースが断絶する個所があるなど,小学生コースとはひと味もふた味も違う難関が立ちはだかっていた(写真5).単純なロジックだけではなく,機体の構造に合った細かな制御方法が必要となるため,さすがに午前中に完走できたチームはなかった.悪路に車輪をとられるチーム,断絶路で進行方向を見失うチームの続出だった.
交差点,コースの断絶,直角カーブ,悪路....難関が次々と挑戦者に立ちはだかる!
そんな中,チーム「OHY」は「伸びる腕」を構造として作り込み,たとえコースを外れても長い腕を振り回してゴールにある缶を倒し,ポイントを稼ぐという裏技まで考えてきた.残念ながら目論見通りにはいかなかったものの,会場は大いに沸いた.
最後のトラップ,直角U字交差点に制御を奪われる.思わず出たのがこのポーズ.
●優勝は僅差の小学生チーム,唯一完走の中学生チーム
競技はポイント制で競われた.コースを構成しているパネルを1枚通過するごとにセクション・ポイント10点,ゴールの缶を倒すとゴール・ポイント50点,そして速さのパラメータとして(60秒-走行時間)をタイム・ポイントとし,以上を加算した総合ポイントで順位が付けられた.
小学生チームはほとんどが完走して缶を倒すことができたので,走行時間の勝負となった.午前中は20枚のコース・パネル走行に30.25秒が最高記録だったが,昼休みの必死のブラッシュアップにより午後にはついに30秒を切るチームが2チーム登場.最終的に26.28秒の記録を叩き出したチーム「ビーグルズ」が優勝した(写真7).惜しくも2位となったチーム「マシーンX」との差はわずか0.35秒だった.
表彰状を受け取るチーム「ビーグルズ」.会場には地元テレビ局が取材に来ており,彼らはこの後インタビューを受け,夕方のニュースに登場した.
一方,中学生チームは難コースに苦戦.午前中は完走チームがいないという厳しい状況だったが,午後にはついにチーム「OHY」が唯一完走と缶倒しを達成し,優勝した(写真8).優勝した2チームは,8月に開催される決勝大会「WRO Japan 2008」に出場できる.そこで上位入賞すると,2008年11月に開催される国際大会「WRO 2008」に出場できるというわけだ.ちなみに,国際大会はこれまでシンガポール,タイ,台湾で行われてきたが,今年は日本(パシフィコ横浜,神奈川県横浜市)で開催される.
人類の若き叡知は,ついにこの悪魔のコースをも制覇したのだった!
●WRO予選,岐阜では初開催
実は,岐阜予選会は今回が第1回目の開催である.しかし会場は参加チームやコーチ,父兄,サポータ,来賓などが一体となって大いに盛り上がった.審査時間中には現役の組み込み技術者がマイコンについて子どもたちに分かりやすく説明するコーナなどもあり,密度の高いイベントとなった.
実行委員であるMACH B&F 理事の安村 佳之氏は,「今回選抜されたチームはぜひ国内大会でも頑張ってください.また,かかみがはら航空宇宙科学博物館ではレゴ・ロボット教室を開催しているので,地域の子供たちはぜひ参加して,来年の地区代表を目指してほしいです!」と気炎を上げていた.
立野冬樹(たちの・ふゆき)
組み込みネット編集部 東海地域特派員
関連リンク
・WRO 2008 Japanの公式Webサイト
・NPO法人 MACH B&FのWebサイト
・組み込みネット ニュース:小中高校生向けロボット競技の国際大会,2008年11月に横浜で開催