九州企業と自動車産業が「組み込み」にかける熱い期待 ―― 九州地域組込みシステム協議会 総会＆講演会
2008年6月19日，福岡SRPセンタービル（福岡市早良区）にて，「九州地域組込みシステム協議会（ES-Kyushu）」の平成20年度の総会と講演会が開催された（写真1）．「自動車組込みセミナー ～九州進出に期待をよせて～」と銘打った講演会では，既に九州進出を決定している企業を代表して，デンソーテクノ 取締役の森 英人氏，アイシン・コムクルーズ 代表取締役社長の上田 政博氏，トヨタテクニカルディベロップメント 常務取締役の大津賀 文雄氏が講演した．講演会終了後の交流会では3社の関係者と名刺交換をしようと長い列ができ，活気あふれる会となった．
[写真1] 九州地域組込みシステム協議会の総会＆講演会の様子
福岡SRPセンタービル（福岡市早良区）にて開催された．写真右は，九州地域組込みシステム協議会 会長の牛島 和夫氏．
九州地域組込みシステム協議会は，2007年11月に，九州地域における組み込みソフトウェアの中核組織として設立された．会員は民間企業や行政機関，教育機関などによって構成されている．2008年6月時点の会員数は283（225団体と58名の個人会員）．
●脱「下請け構造」を目指して
総会では，九州経済産業局 局長の谷 重男氏が，2007年度に実施した九州の組み込みソフトウェア産業実態調査の結果を報告した（写真2）．これによると，組み込みシステム/ソフトウェア関連企業の7割近くが，今後組み込みソフトウェア産業は伸びる，事業を拡大したいと回答している．しかし，組み込みシステム開発業務の販売先や外注先を見ると，業務の主体は関東地方にあり，九州地域内の業務は2次請け，3次請けといった下請け構造になっている実態が浮かび上がる（図1，図2）．谷氏は，「この分野で強くなることが日本経済を強くすることにつながる」と述べた．
[写真2] 講演する九州経済産業局 局長の谷 重男氏
[図1] 組み込みシステム開発業務の販売先
販売先は「九州・沖縄」が46.5％，「関東」が38.4％となっている（九州地域組込みソフトウェア関連産業実態プレ調査 報告書より引用，値は回答比率である）．
[図2] 組み込みシステム開発業務の外注先
外注先は「九州・沖縄」が37.4％と圧倒的に高い（九州地域組込みソフトウェア関連産業実態プレ調査 報告書より引用，値は回答比率である）．
●自動車関連企業は九州の優秀な人材に注目
デンソーテクノ 取締役の森 英人氏は，「車載組込ソフトに対するデンソーグループの取り組み」と題した講演を行った（写真3）．同社は福岡に拠点を開設し，そこで組み込みソフトウェアを開発する人材を募集している．まずは，エンジンECU（Electronic Control Unit）の組み込みソフトウェア開発から始め，今後は仕様検討などの上流工程へ業務を拡大していく予定だという．そのため，モデル・ベース設計などの研究や，実際のシステムへの応用などを行える多様な人材を求めているという．
[写真3] 講演するデンソーテクノ 取締役の森 英人氏
アイシン・コムクルーズ 代表取締役社長の上田 政博氏は，「ここ九州で，車載ソフトウェアを開発する」と題した講演を行った（写真4）．現在，アイシン・コムクルーズの本拠地である愛知県周辺では組み込みソフトウェア開発の人材確保が難しくなっており，現在は人材のある地域に仕事を切り出す方策を試行中だという．仕事を円滑に進めるには普段からのコミュニケーションが重要であり，実機の用意や開発管理の一元化なども必要になる．そのために常時接続の会議システムでコミュニケーションを確保しているが，そのほかに，自動車についての理解や長年かけて醸成されてきている暗黙知などが重要であるという．また同社は，ソフトウェア開発のおもしろさを広くアピールするために，ETロボコンを支援しているという．
[写真4] 講演するアイシン・コムクルーズ 代表取締役社長の上田 政博氏
トヨタテクニカルデベロップメント 常務取締役の大津賀 文雄氏は，「カーエレクトロニクスの技術動向と九州での分散開発へむけて」と題した講演を行った（写真3）．同社は札幌開発センターで過去3年間，分散開発の工夫をいろいろと行ってきたという．「人材確保のためには分散開発の環境を整備し，優秀な人材のいる地方を活用することが重要．当社にとって九州は国内有数の生産拠点だが，今後は開発拠点の一つになるよう期待している」（大津賀氏）．
[写真5] 講演するトヨタテクニカルデベロップメント 常務取締役の大津賀 文雄氏
[写真6] 交流会の様子
芦原 秀一（あしはら・しゅういち）
九州組込みソフトウェアコンソーシアム（QUEST） 事務局
組み込みネット編集部 九州地域特派員
