自動車の周囲を監視して運転者を支援 ―― 人とくるまのテクノロジー展(自動車技術展)2008【安全編】

福田 昭

tag: 組み込み 電子回路

レポート 2008年5月30日

 「人とくるまのテクノロジー展(自動車技術展)2008」では,「環境」と並んで「安全」に関するエレクトロニクス技術の展示が多かった.安全を確保する技術は大きく,二つに分かれる.「衝突事故発生時の安全技術」(パッシブ・セーフティ)と,「衝突事故が起こらないようにする安全技術」(アクティブ・セーフティ)である.

 パッシブ・セーフティの代表は,シートベルト(自動ロックあるいはプリテンショナ機能付き)とエア・バッグだ.いずれも,四輪車には標準的に装着されるようになっている.このため,安全に関する最近の開発努力はアクティブ・セーフティに移行してきた.

●ステレオ・カメラと画像処理で前方の状況を認識

 こういった状況を反映し,今回の「人とくるまのテクノロジー展」ではアクティブ・セーフティに関する展示が非常に多く見られた.なかでも衆目を集めていたのが,富士重工業が出展した安全運転支援システム「EyeSight(アイサイト)」である(写真1)

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(a) 富士重工業のブース.「EyeSight」を組み込んだ乗用車「レガシィ アウトバック 2.5XT」の実物を展示した

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(b) フロントから「レガシィ アウトバック 2.5XT」を見たところ.フロントガラス上端の中央部内側に前方認識用のステレオ・カメラが取り付けてある

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(c) 「EyeSight」のシステム構成.ステレオ・カメラで前方車両や歩行者,白線などを認識し,運転者への警告情報やブレーキ/エンジンなどへの制御情報を送信する.なおEGIはエンジン・コントローラ,TCUはトランスミッション・コントローラ,BCUはブースタ・コントローラ,VDCは横滑り防止装置

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(d) 「EyeSight」の機能の例.前方の障害物を認識することで,自動変速機(AT)搭載車両の誤発進を防ぐ

[写真1] 富士重工業が開発した安全運転支援システム「EyeSight(アイサイト)」

 「EyeSight」は前部座席天井に取り付けたステレオ・カメラによって前方を撮影し,画像処理によって四輪車や自転車,歩行者などを検知する.ステレオ・カメラは画像処理機能を内蔵しており,先行車との相対速度や距離などを計算する.エンジン・コントローラ(EGI)や横滑り防止装置(VDC)などから情報を得て走行状況を判断し,運転者に警告を出したり,ブレーキを自動的にかけたり,車両速度を上げ下げしたりする.2008年に発売された乗用車「レガシィ アウトバック 2.5XT」に「EyeSight」の装着車種を用意した.

 「EyeSight」の基幹部品であるステレオ・カメラ・モジュールは,富士重工業と日立製作所が共同で開発した.日立グループの展示ブースでは,日立製作所がステレオ・カメラ・モジュールを実物展示していた(写真2).モジュールは左カメラと右カメラの2台のカメラを搭載しており,画像処理によって撮影画像を立体的に捉える.モジュールの大きさは高さ45mm×幅400mm×奥行き100mm,重量は600g.モジュールは画像処理LSIを内蔵する.ブースではステレオ・カメラ・モジュールの開発関係者をインタビューしたビデオを流しており,「左右でカメラの性能を合致させることが難しかった」などのエピソードを披露していた.

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(a) 「EyeSight」用ステレオ・カメラ

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(b) ステレオ・カメラ用画像処理LSI

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(c) 「EyeSight」の効果をビデオで表示していた.衝突直前に自動でブレーキを動作させたところ

[写真2] 富士重工業が日立製作所と共同開発した「EyeSight」用ステレオ・カメラ(日立グループのブースに展示)

●24GHzレーダで後方の車両を検知

 運転者が車両の後方の状況を知る手段は多くない.ドア・ミラー(またはサイド・ミラー)とバック・ミラーが主要な手段である.そこでマツダは,24GHzのレーダで後方の状況を検知する技術を開発した(写真3).いずれも車両後端に電子制御ユニット(ECU)内蔵のレーダを搭載し,CANバス経由で信号を伝送する.

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(a) システムの説明パネル.ミラーの死角に入った後方車両を検知して運転者に注意を促す

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(b) システムの説明パネル.車両の後方50m以内に入った車両を検知して運転者に注意を促す

[写真3] マツダが開発した後方車両検知用レーダ・システム

 一つはミラーの死角に入った車両を検知するシステム「ブラインド・スポット・モニタリング・システム」である.車線変更時に隣接車両との接触を防ぐ目的で開発した.レーダは隣接車線の後方7mの範囲で車両をセンシングし,車両を検知した場合はドア・ミラー内蔵の発光ダイオード(LED)が点灯し,運転者に注意を促す.この状態で方向指示器を運転者が操作すると,発光ダイオードが点滅するとともに,ブザーが鳴る.この機能は時速32km以上で走行中にONになる.北米市場向けのSUV「マツダCX-9」にオプションとして用意した.

 もう一つは,車両の後方から接近する車両を検知するシステム「リア・ビークル・モニタリング・システム」である.車線変更時に後方車両との接触を防ぐ目的で開発した.レーダは後方50mの範囲で車両をセンシングし,車両を検知した場合はドア・ミラー付け根部分の警告灯表示色が変わる.この状態で方向指示器を警告表示方向に運転者が操作すると,警告灯が点滅するとともにブザーが鳴る.この機能は時速60km以上で走行中にONになる.乗用車「アテンザ」の最新モデルにオプションとして用意した.

 運転者の認知を支援するシステムとしてはこのほか,車載電装品メーカのデンソーが開発した画像処理技術の動作展示が興味深かった.カメラで捉えた風景から,特定のパターンをリアルタイムで抽出するシステムである.展示ブースでは,風景画像から道路標識を抽出してハイライト表示する応用事例を披露していた(写真4).おおよそ20m~30mの距離にある道路標識を認識できるという.

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(a) システムの説明パネル.カメラで撮影した画像(車両前方の風景)から,特定のパターンを抽出できる

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(b) 上方のディスプレイは,車両前方の風景を撮影して道路標識のパターンを抽出し,ハイライト表示させた例,下のディスプレイは群衆の写真から,特定の顔写真だけを抽出してハイライト表示させた例

[写真4] デンソーが開発した画像処理システム

●運転者の意識低下をまぶたの動きから検知

 交通事故の原因に,わき見運転や居眠り運転がある.いずれも運転者の意識の低下が招いたものだ.車載電装品メーカのアイシン精機は,運転者がわき見をしていたり,疲労などによって意識が低下していたりする状態を検出するシステム「ドライバーモニターシステム」をパネル展示した(写真5).わき見運転の検知システムは,カメラによって運転者の顔部を撮影し,画像処理によって顔の向きの角度を計算する.意識低下の検知は,運転者の顔画像から,まぶたの開き具合を検出する画像処理アルゴリズムを開発することで実現した.まだ開発段階の技術だが,将来はわき見運転や居眠り運転などの低減に大きく役立ちそうだ.

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(a) 「ドライバーモニターシステム」の説明パネル.カメラで運転者の顔を撮影し,画像処理によって顔の向きとまぶたの開き具合(開度)を計算する.計算アルゴリズムは,トヨタ自動車および豊田中央研究所と共同開発した

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(b) 「ドライバーモニターシステム」のハードウェア.ハンドルに赤外線照明と赤外線カメラを搭載し,運転者を常にモニタする.左下は画像処理ボード

[写真5] アイシン精機が開発した運転者の顔面をモニタするシステム「ドライバーモニターシステム」


ふくだ・あきら
テクニカル・ライタ/アナリスト
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