ハイビジョン映像の伝送や画像処理技術に注目が集まる ―― Inter BEE 2007
2007年11月20日~11月22日,放送機器や映像機器,音響機器,放送関連の計測器に関する展示会「Inter BEE 2007(国際放送機器展)」が,幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催された(写真1).会場では,ハイビジョン映像を高速に伝送したり,リアルタイムに加工(画像処理)したりする技術に注目が集まった.
[写真1] Inter BEE 2007会場入り口付近の風景
2007年11月20日~11月22日,幕張メッセにて開催された.
●2.97Gbpsの信号を140mの同軸ケーブルに通すデモンストレーション
ジェナム・ジャパンは,3G-SDI(Serial Digital Interface)に対応するイコライザ「GS2974A」およびリクロッカ「GS2975A」,ケーブル・ドライバ「GS2978」を用いた高速伝送のデモンストレーションを行った(写真2).3G-SDIは次世代の放送機器向け信号インターフェースである.
米国Tektronix社のデータ発生器「DTG5334」から2.97GHzのSDI信号(パソロジカル信号という遷移の少ないデータを含む)を出力させる.そして,その信号を10組のイコライザ,リクロッカ,ケーブル・ドライバに通過させ,アイの開口が十分に開いていることを確認した.
具体的には,データ発生器出力 → 同軸ケーブル → イコライザ → クロスポイント → リクロッカ → ケーブル・ドライバ(ここまでで1段) → 同軸ケーブル → イコライザ → クロスポイント → リクロッカ → ケーブル・ドライバ(ここまでで2段) → 同軸ケーブル...という経路で信号を通し,この組み合わせを10段繰り返す.
6段目と7段目の間に140mの同軸ケーブルを,データ発生器と初段の間に100mの同軸ケーブルを挟んでデータを伝送した.使用した同軸ケーブルは米国BELDEN社の「1694A」,クロスポイントICは米国Analog Devices社の「AD8152」.
[写真2] イコライザ,リクロッカ,ケーブル・ドライバの性能をデモンストレーションしている様子
中央にあるのはクロスポイントIC.
●IP回線を利用してハイビジョン映像を伝送するシステムを展示
ソリトンシステムズ 山形開発センターは,IP回線を利用してハイビジョン映像を伝送するシステム「Smart-telecaster HD」を展示した.出力する画像の伝送速度をコントロールできるので,伝送速度が変動する「ベスト・エフォート型」の回線に対応できる.既にNHKの定点観測カメラへの導入が決まっているという.
本システムは,ハイビジョン・カメラとパソコンをIEEE1394およびNTSCアナログ・ケーブルで接続する.10Mbps以上の通信速度を確保できるIP回線を介して別のパソコンにデータを送り,そのパソコンからモニタや放送機器にハイビジョン映像を配信できる.データを受け取る後者のパソコンには,MPEGデコーダ・ボードおよびHD-SDI出力の機能を持つボードが組み込まれている.
ハイビジョン映像は圧縮および伸張により1s(秒)程度の遅延が生じる.そのため,データを送出する前者のパソコンは,NTSCアナログ信号をVP6で圧縮したデータもIP回線に乗せて伝送している.
映像符号化方式はMPEG-2で,ビット・レートは25M/20M/15M/10M/8Mbps,音声符号化方式はMPEG-2 Audio Layer III.
[写真3] IP回線を利用してハイビジョン映像を伝送するシステム
●ボードや開発環境,IPコアを備えたビデオ開発プラットホーム
英国Image Processing Techniques社は,米国Xilinx社のブースにおいて,ビデオ・アプリケーション開発用プラットホーム「Omni Tek」を展示した.本プラットホームはXilinx社のFPGA「Virtex-5」を搭載し,パソコンのPCI Expressに接続できる.開発用ボード(写真4)と開発用ソフトウェアから構成される.
開発用ボードは,開発対象のFPGAをコンフィグレーションするためのFPGA「CoolRunner-II」および「Spartan-3」も搭載する.さらに,最大1GバイトのDDR2 SDRAMや4×36MビットのSRAM,3個の発振器(54MHz,74.176MHz,74.25MHz),アナログのRGBやYPbPrなどを生成するビデオ出力ブロック,合計48チャネルのI/O入出力を持つ三つのコネクタなどを搭載する.
IPコアとして,PCI Expressコントローラ,DMAコントローラ,SDRAMやSRAMのコントローラ,ビデオ・ストレージ,動き検出およびデインタレーサ,2Dリサイザ,3G-SDIに対応するSDIインターフェース,リサイズ画像を足し合わせるコンビナ,各種ビデオ信号に対応するタイミング・ジェネレータなどを用意する.
開発用ソフトウェアは,処理している映像を表示する.Windows XP/Vista対応のデバイス・ドライバや,HD画像やリサイズした画像を表示するためのGUI,APIなどを用意する.
搭載するメモリの容量などの異なる数種のボードを用意する.価格は5200ドル~7400ドル.日本の問い合わせ窓口はザイリンクス社.2007年12月中に販売代理店が決まる予定.
なお,これらのIPコアは製品に組み込んで販売できる.また,必要なチップだけを搭載したボードを受託生産することも可能という.
[写真4] ビデオ・アプリケーション開発用ボード
Virtex-5を搭載する.パソコンのPCI Express(4/2/1レーン)スロットに接続できる.
●生放送中にCGを合成できるソフトウェアを紹介
日興通信は,リアルタイムに映像やCG(Computer Graphics)を合成したり,合成処理のスケジューリングを行ったりできるソフトウェア「3D-NIXUS Xf」を紹介した.
会場では,女性が掲げるボードの位置情報を検出し(写真5),モニタに映し出す際に別の映像を張り付けた(写真6).ニュースや情報番組のテロップ,スポーツ番組,選挙放送などに利用できるという.
本ソフトウェアはアニメーションやキャラクタなどのCGを製作する「xf.Creator」,製作したCGの送出スケジューリングや送出操作を担う「xf.Composer」,これらのソフトウェアをカスタマイズするための「xf.SDK」から構成される.
写真5に示した映像をリアルタイムでパターン認識し,その座標を取得するソフトウェア「DRAGON D'Fusion」は,仏国TotalImmersion社,NTI社,テレビ朝日の3社が共同で放送局向けに開発した.
3D-NIXUS Xfの価格は880万円,DRAGON D'Fusionは720万円.
[写真5] カメラから出力された映像をリアルタイムでパターン認識し,その座標を取得するソフトウェア「DRAGON D'Fusion」
[写真6] リアルタイム映像合成ソフトウェア「3D-NIXUS Xf」
●地上デジタル放送の屋外用中継器を展示
日本無線はUHF帯の地上デジタル放送に対応する屋外用中継器を展示した(写真7).山間部や離島などの難視聴エリアをカバーできる.UHF放送の13チャネル~62チャネルのうち,8チャネルまでに対応可能.チャネル間の出力レベルをそろえる機能や,入力波と出力波の干渉を防ぐ機能を持つ.
出力レベルは1チャネル当たり0.01W~0.05W,入力レベル範囲は-47dBm±20dB,スペクトラム・マスクは40dB未満,周波数偏差は±1.5kHz以内(MFN),±3Hz以内(SFN).
[写真7] 地上デジタル放送の中継器
写真右上のボックスは装置の状態制御および監視用.異常を検知したら携帯端末(青コネクタの左側にある黒い箱)を使って通知する.