PHS経由でネットに接続できるEthernetアダプタのファームウェアをハック・前編 ―― 無線インターネット・アクセスを組み込みシステム開発の手駒に
切手サイズのPHSモジュール「W-SIM」を利用して,インターネットに接続できるEthernetアダプタ「OSX-1」を使ったシステム開発について解説する.このEthernetアダプタはサーバ・モジュールを内蔵しており,ユーザはファームウェアを自由にカスタマイズできる.このサーバ・モジュールには,C言語ライクなインタープリタ言語の処理系(セルフ開発ツール)があらかじめ組み込まれている. (編集部)
筆者らは,ウィルコムが提供するPHS無線モジュール「W-SIM」を利用して,インターネットに接続できるEthernetアダプタ「OSX-1(愛称:つないでイーサ)」を開発しました(写真1)注1.この装置はEthernetインターフェース,TCP/IPプロトコル・スタック,およびセルフ開発ツール(ターゲットCPU上でプログラムを実行しながら開発できる環境)を内蔵しています.ユーザが目的に応じてカスタマイズしやすい構成を目指して開発しました.
注1;本Ethernetアダプタの開発元企業はウルトラエックス.
W-SIMを利用して,いつでもどこでもパソコンなしでインターネットに接続して,Ethernetを利用できるジャケット.内部のファームウェアを書き換えることで,さまざまな応用が可能.価格は16,000円前後.
今回から3回にわたって,本機を利用したワイヤレス・システムの開発手法について解説します.
● PHS機能を切手サイズに凝縮したW-SIM
本機について理解していただくには,まず,W-SIMモジュール(図1)について説明しなければなりません.W-SIMとはPHS通信事業者のウィルコムから発売されている切手サイズのPHS無線モジュールです.このモジュールの内部には,1.9GHz帯の電波を送受信する高周波部分や,PHS基地局とやりとりするための制御部分などがコンパクトに実装されています.W-SIMのコネクタには,電源やデータ,音声の入出力などの信号が出ています.
(a) 外観
26mm×42mmという切手大のサイズにPHSの主要な部分を実装した無線モジュール.各種の組み込み機器に内蔵されることを想定した設計になっている.
ピン番号 | 記 号 | 内 容 |
1 | TXD | 送信シリアル・データ |
2 | RXD | 受信シリアル・データ |
3 | RTS | 送信データ・レディ |
4 | CTS | 送信レディ |
5 | DTR | 受信レディ |
6 | DCD | データ・キャリア検出 |
7 | RI | リング・インジケータ |
8 | INS | W-SIM検出信号 |
9 | Vcc | 電源 |
10 | GND | グラウンド |
11 | PCMCLK | CODECクロック |
12 | PCMSYNC | CODEC同期信号 |
13 | PCMIN | CODECデータ入力 |
14 | PCMOUT | CODECデータ出力 |
15 | IF_SEL | インターフェース種別通知 |
16 | DISP1 | 電界強度表示用 |
17 | DISP2 | 電界強度表示用 |
18 | DISP3 | 電界強度表示用 |
W-SIMは簡単に言えば,PHSの機能が切手サイズに凝縮された電話モジュールです.このモジュールを対象の機器に挿入することにより,PHSによる通信機能を利用できます.W-SIMを挿入できる機器を,ウィルコムは「ジャケット」と呼んでいます(写真2).気楽に服を着替えるのと同じように,W-SIMを差し替えて使うイメージをこう表現しています.また,抜き差しが可能なW-SIMに対応する商品群の総称は「WILLCOM SIM STYLE(ウィルコム・シム・スタイル)」と呼んでいます.
W-SIMを電話型のジャケットに挿入すれば,PHS携帯電話として機能する.
携帯電話の形状をしたジャケットにW-SIMを挿入すれば,普通にPHS携帯電話として利用できます.アドレス帳などのデータはW-SIMに保存されるので,友人のジャケットをちょっと拝借して,自分の電話として利用するという使い方も考えられます.