PHS経由でネットに接続できるEthernetアダプタのファームウェアをハック・前編 ―― 無線インターネット・アクセスを組み込みシステム開発の手駒に
また,PDA(携帯情報端末)と組み合わせるのも有効です.PDAでメールを送受信したり予定表データをシンクロ(ホストとなるパソコンの予定表データと同期)する際に,W-SIMを利用してインターネットに接続します.PDAが装備しているマイクとスピーカをうまくインターフェースすれば,音声通話も可能です(写真3).
本体内にW-SIMを内蔵したPDA.場所を選ばずインターネットに接続できるPDAとして,愛用者も多い.よりコンパクトなW-ZERO3[es]も提供されている.
組み込みシステムの開発にもW-SIMは有効です.有線インターネット接続が難しい環境などでW-SIMを利用すれば,場所を選ばず無線でインターネットに接続できます.組み込みシステムの基板上にW-SIMを挿入できるコネクタを取り付ければ,無線ATモデムとして動作します.これなら,通信部分の開発も容易でしょう.
● 誰でもオリジナルのPHSを作れる時代になった
従来,携帯電話はノウハウと経験を持つ専業メーカが多大な投資を行って開発するのが普通でした.しかしW-SIMを利用すれば,無線部分とジャケット部分が明確に分離されるので,ディジタル技術をある程度理解しているエンジニアであれば,誰でもPHS応用機器を開発できます.
無線を利用する機器は,総務省の技術基準に適合している証明を取得しなければ販売できません.また,電話として販売する際にもさまざまな認証が必要で,これらをすべてクリアするにはたいへん面倒な手続きが必要でした.
W-SIMは,こうした面倒な認証をすでに取得しています.そのため,ディジタル部分だけを設計すれば,PHS応用機器を実現できるわけです.
W-SIMの音声部分は一般的なG.711 CODEC(μ-law)(コーデック)なので,市販のCODEC ICを利用すれば,音声部分の開発で特に障害となるような部分はありません.また,データ部分はヘイズのATモデムと同じコマンドで動作するモデムなので,従来からある一般のモデム用の通信プロトコル部分をそのまま利用できます.
開発者の発想次第で,例えばロボットの中にPHS機能を組み込んだりすることも可能です.医療機器やデジタル・カメラ,防犯システム,情報家電など,あらゆる機器に無線機能を組み込める可能性があります.
● OSX-1の本領はカスタマイズ機能にあり
今回,解説するOSX-1は,上述の「ジャケット」の一種です.電源を入れるとあらかじめ設定しておいたプロバイダにダイアルアップして,自動的にインターネットに接続し,グローバルなIPアドレスを取得します.接続後は,本体の後部に装備しているEthernetポートからインターネット網にアクセスするという,とてもシンプルな機能を備えたジャケットです.
本機の開発元企業であるウルトラエックスはもともとパソコンの診断プログラムの開発・販売を本業とする会社でしたが,本機の開発を機に,W-SIMを利用した通信機器の事業に新規参入しました.今後,同じようにW-SIMを利用したPHS応用機器の事業に参入してくる会社が増えてくることでしょう.