日本アイ・ビー・エム,非圧縮HDTV画像を伝送できる高速無線通信技術などを公開 ―― 東京基礎研究所プレス・セミナ
日本アイ・ビー・エムは,2007年10月26日,プレス向けセミナを開き,同社東京基礎研究所(神奈川県大和市)の研究成果を披露した(写真1).
同社東京基礎研究所は,世界に8個所ある米国IBM社の研究・開発拠点の一つで,約200人の研究者が所属している.5番目にできた基礎研究の拠点で,IBM社はこのほかにチューリッヒ,ハイファ,デリー,北京,アルマデン,オースチン,ワトソンに基礎研究所を設けている.東京基礎研究所では,マイクロデバイス,Javaコンパイラ,組み込みシステム,分散コンピューティング,セキュリティとプライバシ,ソフトウェア工学,データ解析を主に研究している.
[写真1] 日本アイ・ビー・エム 東京基礎研究所
●60GHz帯ミリ波を用いた高速無線伝送で2Gbpsを実現
本セミナでは,60GHz帯ミリ波を用いる高速無線伝送に関する技術が紹介された(写真2).この研究は,同社東京基礎研究所とワトソン研究所が共同で行っている.1チップに収まるミリ波RFモジュールを開発し,非圧縮HDTV(high definition television)画像の伝送を2Gbpsの通信速度で行えることを実証した.現在のWi-Fi技術では,10Gバイトのファイルをアップロードするのに約10分かかるが,この技術を使えば約5秒でアップロードが完了するという.
変調方式は,QFSK(quadrature phase shift keying)またはMSK(minimum shift keying).
[写真2] 高速無線伝送の概要説明
●テキスト・マイニング技術で数百万件のデータ分析を可能に
また,テキスト・マイニング技術のデモンストレーションとして,「公道における不具合から起こる自動車事故の分析システム」を紹介した(写真3).同社の開発したデータ分析システムを使うと,数百万件のデータから,例えばメーカ別,車種別,地域別,車種の製造年別,事故日時別などのデータ抽出と対話的な分析が行える.早期に事故原因を究明したり,事前に事故を防止するのに役立つ.多言語対応となっており,データさえあれば,それぞれの国の言語でデータを分析できる.自動車事故の分析だけでなく,データを用意すれば,さまざまな案件に合わせたテキスト・マイニングと分析に利用可能.
[写真3] テキスト・マイニングの説明とデモンストレーションの様子
●2次元コードを用いて見えない情報を印刷物に埋め込む
不可視バーコードは,印刷物に見えない「すかし」のような形で2次元バーコードを入れ,データを埋め込む技術である.その応用例として,電子クリッピング・システムを展示した.電子クリッピング・システムは,新聞や雑誌の印刷面に目に見えない形で2次元バーコードを埋め込むもの.携帯電話のカメラ機能でこれを撮影して,記事を携帯電話に取り込む.2次元コードの方式としては,QR(Quick Response)コードを使用する.
このほか,店舗のどこに人が集中するのか,どのような商品ゾーンに人が集まり,どのような商品を購入するのか,ということを分析するソフトウェアも展示されていた.店舗の各売り場ゾーンの出入り判定やPOS(Point of Sale)データなどのデータの関連付けを行える.また,年代別にどのゾーンに人が集中するかを示すゾーン・マップや,店舗のどこの温度が高いのかを示すヒート・マップをグラフィカルに表示する.
●地雷を安全に発見する地中埋設物可視化システム
日本アイ・ビー・エム,オムロン,ジオ・サーチなどと共同開発した地中埋設物可視化システム「Mine Eye(マイン・アイ)」も展示されていた(写真4).NPO法人「地雷除去支援の会(JAHDS:Japan Alliance for Humanitarian Demining Support)」の依頼で開発したもの.棒のようなセンサで地面をなぞり,地雷があると,液晶ディスプレイに表示する.日本アイ・ビー・エムは地雷データ取得の高速化と効率化,システムの省電力・小型化,機器の堅ろう性,オペレータに対する安全性と操作性の向上を担当した.
[写真4] 地中埋設物可視化システム
このほか,東京基礎研究所で行っている研究として,3次元集積技術,人の話し方を再現するテキスト音声合成ツール,字幕編集システム,モデル駆動型システム・エンジニアリング,光インターコネクト技術などの展示があった.