大量タグの一括読み取りが可能なUHF帯RFIDに注目が集まる ―― 第11回自動認識総合展 レポート

福田 昭

tag: 組み込み 電子回路

レポート 2009年9月24日

 RFID(Radio Frequency Identification)タグや生体認識などの自動認識機器に関する展示会「第11回自動認識総合展」が2009年9月16日~18日に東京ビッグサイト(東京都江東区)の東4ホールで開催された(写真1,写真2).主催者の社団法人 日本自動認識システム協会によると,出展者数は135社と5団体,出展小間数は352小間である.


写真1 第11回自動認識総合展の看板

 


写真2 第11回自動認識総合展の登録受付の様子

 


●UHF帯とHF帯のハイブリッド・タグが登場

 会場では,UHF帯(950MHz帯)を利用するRFIDシステムが来場者の注目を集めていた.三菱電機は,UHF帯RFIDシステムの特徴と採用事例などを講演ステージで説明していた(写真3).RFIDタグには,電源を持たない「パッシブ型」と電源(電池)を備える「アクティブ型」がある.搬送周波数は大きく分けて4種類あり,「135kHz帯」,「13.56MHz帯(HF帯)」,「952M~954MHz帯(UHF帯)」,「2.45GHz帯」となる.UHF帯のRFIDシステムには通信距離が3m~7mと長い,また,大量のタグを一括して読み取れるといった特徴がある.このため,物流管理や商品管理などに適している.


写真3 RFIDタグ・システムの分類

 

 三菱電機の講演ステージで興味深かったのは,HF帯のタグとUHF帯のタグの両方を搭載したハイブリッド・タイプのタグの紹介である(写真4).オフィス・フロアの入退室管理を通信距離の短いHF帯のRFIDシステムで構築し,施設への入退場管理を通信距離の長いUHF帯のRFIDシステムで構築している場合,1枚のタグで両方を管理できる.


写真4 UHF帯のタグとHF帯のタグをまとめたカードの構造

 


●200個の大量RFIDタグを一気に読み取り

 パナソニックコミュニケーションズは,200個と大量のUHF帯RFIDタグに対する一括読み取りを実演してみせた(写真5).展示ブースには,パッシブ型のタグを取り付けた小さなカラー・ボックスが200個積み上げられていた.タグの間隔はおよそ8cm.このタグ群を実演ステージ手前のアンテナで読み取る.


写真5 200個のRFIDタグを一括して読み取るデモンストレーション
左の色分けした箱にタグが貼り付けてある.手前の四角い小さな平板がアンテナ.右側のディスプレイにタグの一覧と読み取り数を表示するようになっており,読み取り済みタグの番号と読み取り済みの数値が一目で分かる.


 筆者が聴講した実演では,200個の読み取りに30秒くらいの時間を要していた(写真6).180個くらいまでは一気に読み取れるのだが,残りが少なくなると急激に読み取りが難しくなるようで,195個以上ではタグを1個ずつ読み取るのがはっきりと分かった.ただし展示会場全体をみると,さまざまなRFIDシステムが稼働しているので電波環境としては最悪に近い.実際のシステムでは,ずっと短い時間で読み取りが完了するとみられる.


写真6 200個のRFIDタグを一括読み取りするデモンストレーションの様子
数多くの来場者が聴講に集まり,通路が塞がるほどだった.


 また3個のカラー・ボックスを,金属対応タグ(金属表面に貼り付けても読み取りが可能なRFIDタグ)を貼り付けた金属製のボックスに交換し,読み取りを実演してみせた.ナンバリング(001~200)では「023」,「076」,「160」のボックスである.この読み取りでは前回よりも手間取り,読み取り完了までに70秒ほどの時間がかかった.ただし,金属製ボックス3個の読み取りは,非常に素早く完了していた.

●ガス・ボンベに向けた首輪状のRFIDタグを展示

 日本管理ラベルは,東レが2009年9月に開発を発表した金属対応タグの概要をパネル展示し(写真7),実物のサンプル(写真8)を展示した.金属対応タグは複数の企業が開発済みだが,東レの金属対応タグは厚みが1.4mm~1.6mmと薄いこと,柔軟性があるので曲面に貼れること,ラベル・プリンタで印刷が可能なことなどの特徴を有する.通信距離が1mのタイプと,2mのタイプがある.


写真7 1.4mm~1.6mmの金属対応UHF帯RFIDタグ
東レが開発を2009年9月に発表した.

 




写真8 薄型の金属対応UHF帯RFIDタグの実物サンプルと貼り付け例

 


 高圧ガス工業は,高圧ガス容器やプロパンガス容器などのガス・ボンベに向けたUHF帯RFIDタグを展示した(写真9).タグは首輪状をしており,ガス・ボンベの首に取り付ける.タグの外形寸法は外径112mm×内径80mm×高さ20mmである.



写真9 ガス容器用UHF帯RFIDタグ
首輪状をしている.高圧ガス工業と三菱電機の共同開発品.

 


 サイレンスネットは,米国Omni-ID社が開発したUHF帯用タグを展示した.同社のタグは金属対応タグであり,またABS樹脂封止によって水中での読み取りが可能になっている.サイレンスネットの展示ブースでは,ABS樹脂封止のタグを熱帯魚の水槽内に置いてタグの性能をアピールしていた(写真10).



写真10 ABS樹脂封止したUHF帯RFIDタグ

タグを水中に没した状態での読み取りが可能だ.

 


●リーダ/ライタ用フラッシュ・マイコンと開発キット

 ソーバルは,韓国PHYCHIPS(パイチップス)社が開発したUHF帯RFIDリーダ/ライタ用SoC(System on a Chip)「PR9000」とその開発キットを展示した(写真11).


写真11 UHF帯RFIDリーダ/ライタ用フラッシュ・マイコンの開発キット

 

 PR9000は8ビットの「ターボ80C52」CPUコアや128KバイトのフラッシュROM,UHF帯のRFトランシーバ回路,RFIDベースバンド回路などを内蔵したフラッシュ・マイコンである.パッケージは7mm角の48ピンQFN(Quad Flat Non-leaded).開発キットは評価ボードのほか,UHF帯アンテナ,PR9000チップ(10個入りセット),RFIDタグ(2個)などで構成される.

●131kHzの低周波で土中や水中のタグを読み取る

 UHF帯以外では,セイコーエプソンが搬送波周波数131.07kHzのLF(Low Frequency)帯を使うRFIDシステム「RUBEE」を展示し,来場者の注目を集めていた(写真12).



写真12 LF帯のRFIDシステム「RUBEE」を出品したセイコーエプソンの展示ブース


 「RUBEE」は近傍界磁界を利用するRFIDシステムで,米国Visible Assets社が開発した.水中や土中,コンクリート中などに置いたタグを読み取れる.通信距離は3m~5mと長い.データ伝送速度は1024 bpsとゆっくりである.アクティブ型タグの消費電力はきわめて低く,CR2032型のボタン電池を使用した場合の寿命は5年~7年であるという(待ち受け頻度は1秒間に8回).なおRUBEEをベースにしたIEEEの無線通信規格「IEEE1902.1」が2009年2月に策定された.

 セイコーエプソンはVisible Assets社に対し,アクティブ型タグ用のICチップを全量,供給しているほか,セイコーエプソンの米国法人を通じてVisible Assets社に出資している.

 展示ブースでは,RFIDシステムを組んで実際に動かしてみせていた(写真13).タグはコンクリートの箱の中,冷蔵庫の中(写真14),土の中,水槽の中に配置されていた.


写真13 「RUBEE」のデモンストレーション概要



写真14 冷蔵庫に「RUBEE」のアクティブ型タグを入れたところ

 

ふくだ・あきら
テクニカルライター/アナリスト
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