大量タグの一括読み取りが可能なUHF帯RFIDに注目が集まる ―― 第11回自動認識総合展 レポート
RFID(Radio Frequency Identification)タグや生体認識などの自動認識機器に関する展示会「第11回自動認識総合展」が2009年9月16日~18日に東京ビッグサイト(
●UHF帯とHF帯のハイブリッド・タグが登場
会場では,UHF帯(950MHz帯)を利用するRFIDシステムが来場者の注目を集めていた.三菱電機は,UHF帯RFIDシステムの特徴と採用事例などを講演ステージで説明していた(写真3).RFIDタグには,電源を持たない「パッシブ型」と電源(電池)を備える「アクティブ型」がある.搬送周波数は大きく分けて4種類あり,「135kHz帯」,「13.56MHz帯(HF帯)」,「952M~954MHz帯(UHF帯)」,「2.45GHz帯」となる.UHF帯のRFIDシステムには通信距離が3m~7mと長い,また,大量のタグを一括して読み取れるといった特徴がある.このため,物流管理や商品管理などに適している.
三菱電機の講演ステージで興味深かったのは,HF帯のタグとUHF帯のタグの両方を搭載したハイブリッド・タイプのタグの紹介である(写真4).オフィス・フロアの入退室管理を通信距離の短いHF帯のRFIDシステムで構築し,施設への入退場管理を通信距離の長いUHF帯のRFIDシステムで構築している場合,1枚のタグで両方を管理できる.
●200個の大量RFIDタグを一気に読み取り
パナソニックコミュニケーションズは,200個と大量のUHF帯RFIDタグに対する一括読み取りを実演してみせた(写真5).展示ブースには,パッシブ型のタグを取り付けた小さなカラー・ボックスが200個積み上げられていた.タグの間隔はおよそ8cm.このタグ群を実演ステージ手前のアンテナで読み取る.
筆者が聴講した実演では,200個の読み取りに30秒くらいの時間を要していた(写真6).180個くらいまでは一気に読み取れるのだが,残りが少なくなると急激に読み取りが難しくなるようで,195個以上ではタグを1個ずつ読み取るのがはっきりと分かった.ただし展示会場全体をみると,さまざまなRFIDシステムが稼働しているので電波環境としては最悪に近い.実際のシステムでは,ずっと短い時間で読み取りが完了するとみられる.
また3個のカラー・ボックスを,金属対応タグ(金属表面に貼り付けても読み取りが可能なRFIDタグ)を貼り付けた金属製のボックスに交換し,読み取りを実演してみせた.ナンバリング(001~200)では「023」,「076」,「160」のボックスである.この読み取りでは前回よりも手間取り,読み取り完了までに70秒ほどの時間がかかった.ただし,金属製ボックス3個の読み取りは,非常に素早く完了していた.
●ガス・ボンベに向けた首輪状のRFIDタグを展示
日本管理ラベルは,東レが2009年9月に開発を発表した金属対応タグの概要をパネル展示し(写真7),実物のサンプル(写真8)を展示した.金属対応タグは複数の企業が開発済みだが,東レの金属対応タグは厚みが1.4mm~1.6mmと薄いこと,柔軟性があるので曲面に貼れること,ラベル・プリンタで印刷が可能なことなどの特徴を有する.通信距離が1mのタイプと,2mのタイプがある.
高圧ガス工業は,高圧ガス容器やプロパンガス容器などのガス・ボンベに向けたUHF帯RFIDタグを展示した(写真9).タグは首輪状をしており,ガス・ボンベの首に取り付ける.タグの外形寸法は外径112mm×内径80mm×高さ20mmである.
サイレンスネットは,米国Omni-ID社が開発したUHF帯用タグを展示した.同社のタグは金属対応タグであり,またABS樹脂封止によって水中での読み取りが可能になっている.サイレンスネットの展示ブースでは,ABS樹脂封止のタグを熱帯魚の水槽内に置いてタグの性能をアピールしていた(写真10).
●リーダ/ライタ用フラッシュ・マイコンと開発キット
ソーバルは,韓国PHYCHIPS(パイチップス)社が開発したUHF帯RFIDリーダ/ライタ用SoC(System on a Chip)「PR9000」とその開発キットを展示した(写真11).
PR9000は8ビットの「ターボ80C52」CPUコアや128KバイトのフラッシュROM,UHF帯のRFトランシーバ回路,RFIDベースバンド回路などを内蔵したフラッシュ・マイコンである.パッケージは7mm角の48ピンQFN(Quad Flat Non-leaded).開発キットは評価ボードのほか,UHF帯アンテナ,PR9000チップ(10個入りセット),RFIDタグ(2個)などで構成される.
●131kHzの低周波で土中や水中のタグを読み取る
UHF帯以外では,セイコーエプソンが搬送波周波数131.07kHzのLF(Low Frequency)帯を使うRFIDシステム「RUBEE」を展示し,来場者の注目を集めていた(写真12).
「RUBEE」は近傍界磁界を利用するRFIDシステムで,米国Visible Assets社が開発した.水中や土中,コンクリート中などに置いたタグを読み取れる.通信距離は3m~5mと長い.データ伝送速度は1024 bpsとゆっくりである.アクティブ型タグの消費電力はきわめて低く,CR2032型のボタン電池を使用した場合の寿命は5年~7年であるという(待ち受け頻度は1秒間に8回).なおRUBEEをベースにしたIEEEの無線通信規格「IEEE1902.1」が2009年2月に策定された.
セイコーエプソンはVisible Assets社に対し,アクティブ型タグ用のICチップを全量,供給しているほか,セイコーエプソンの米国法人を通じてVisible Assets社に出資している.
展示ブースでは,RFIDシステムを組んで実際に動かしてみせていた(写真13).タグはコンクリートの箱の中,冷蔵庫の中(写真14),土の中,水槽の中に配置されていた.
ふくだ・あきら
テクニカルライター/アナリスト
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