用途に合わせて最適化したCPUコアを求める自動車業界 ―― ARM Forum 2007

組み込みネット編集部

tag: 組み込み 半導体

レポート 2007年10月22日

 英国ARM社の日本法人であるアームは,2007年10月16日,東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)にて,ARM社製品関連の技術コンファレンス「ARM Forum 2007 - ARM Connected Community Technical Symposium」を開催した.昨年のARM Forum 2006は2日間に渡って開催されたが,今年は1日のみに変更された.そのためもあってか,開場時(午前10時)の受付は,人混みでごったがえしていた.

 午前中は,基調講演や特別講演などが行われた(写真1).特別講演では,自動車電装品メーカのデンソーが,自動車業界から見た組み込みプロセッサへの要求を語った.午後は6部屋に分かれ,ARMコアやARMコア内蔵マイコン,携帯型機器の技術,家電機器の技術,開発ツール,フィジカルIP(メモリ生成ツールやセル・ライブラリ,BISTなど)など,技術分野ごとの講演が行われた.講演会場の外に設けられた展示エリアでは,ARM社,およびソフトウェア開発ツール・ベンダやEDA(electronic design automation)ベンダなど,サード・パーティ企業18社が,製品の展示やデモンストレーションなどを行った.

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[写真1] 基調講演・特別講演の会場風景
東京コンファレンスセンター・品川 5Fの大ホールで開催された.のべ781名が来場した.

●広範な分野で大規模投資を続けるARM社

  基調講演では,ARM社Executive VP & General Manager - ProcessのGraham Budd氏が同社の事業方針について語った(写真2).同社は「市場(平均)より高い成長率」,「事業機会を広げるための投資」,「ソリューションを創造する企業提携」を重視しているという.

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[写真2] ARM社Executive VP & General Manager - ProcessのGraham Budd氏
「Investing for Innovation(イノベーションのための投資)」と題して講演を行った.

 成長率については,半導体業界の市場成長率が約7.5%であるのに対して,ARMコアを内蔵するLSIの収益の伸びは,その5倍の約40%に達しているという.また,2010年までのARMコアの売り上げについて,自動車用途やマイクロコントローラ(制御)用途,セットトップ・ボックス/HD(high definition)DVD用途が大きな伸びを示すという予測を示した.

 投資については,研究開発投資を継続的に増やしていることをアピールした.また,システム・レベルの解析手法や3次元グラフィックス技術,フィジカルIP,リアルタイム処理技術,FPGA技術などへの投資も行っているという.

 例えばFPGA技術への投資の例として,FPGA用のコアであるCortex-M1からASIC用のコアであるCortex-M3への移行パスを明確に定義したことを紹介した.ソフトウェアや開発ツールを,どちらのデバイスでも共通に使えるようにした.また,これまでFPGA用のCortex-M1コアとして米国Actel社のFPGA「ProASIC3/Fusion」上で動作するものが提供されていたが,2007年11月から,米国Altera社のFPGA「Cyclone III」向けのコア,および開発キットが供給されるという.本開発キットは,Altera社の米国における販売代理店であるArrow Electronics社を通して提供される.本開発キットが日本国内で販売される予定は,今のところないもよう.

●デンソーが車載向けカスタムLSIの開発事例を紹介

 特別講演では,デンソー IC技術1部 IP開発室 室長の石原秀昭氏が,「自動車エレクトロニクスの将来展望とマイクロプロセッサ技術への期待」と題して講演を行った(写真3).講演の前半では,安全にかかわるシステムを中心に自動車エレクトロニクスの概要を紹介した.例えば,VSC(vehicle stability control;車両安定性制御システム)やPCS(pre-crash safety system;衝突被害を軽減するシステム),カー・ナビゲーション・システムについて解説した.

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(a) 石原秀昭氏

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(b) 会場風景

[写真3] デンソー IC技術1部 IP開発室 室長の石原秀昭氏による特別講演
「自動車エレクトロニクスの将来展望とマイクロプロセッサ技術への期待」と題して講演を行った.

 デンソーは,車載用ASICを自社開発している.その例として,自動車のボディ(車体)系で使われるカスタムのマイクロコントローラの開発事例を示した.CPUコアとして,NECエレクトロニクスのV850を採用し,周辺回路をデンソーが開発した.このマイコンはメモリを内蔵しており,外付け部品が少ない.これは電磁放射ノイズの影響を軽減するためだという.

 このほか,エアバッグ制御用ASIC「NDR」も紹介した.本ASICを開発したことにより,エアバッグ用ECUに組み込む部品の点数が半減し,基板面積も40%削減できたという.本ASICについては,CPUコアもデンソーが自社開発した.エアバッグ・システムには厳しいリアルタイム処理が要求されるため,マイコンの内部メモリにすべてのプログラムを格納する必要がある.そのため,コンパイルしたときのコード効率を引き上げることに注力した.例えば汎用プロセッサと比べると,コード・サイズが13%~30%小さくなった.この事例を踏まえてデンソーの石原氏は,「自動車向けに最適化して作ったので,コード・サイズが小さくなるのは当たり前.汎用マイコンがこうした市場に入ってくるのであれば,自動車専用のCPUコアがあってもいいのではないか」と述べた.

 同氏はプロセッサのマルチコア化の動向にも言及した.カーナビなどのマルチメディア用途のハイエンド・プロセッサについては,民生用LSI技術の流用が進んでおり,マルチコアが利用されるという.また,パワー・ウィンドウ制御などに使われるローエンド・プロセッサについては,マルチコアの性能が必要になるケースはほとんどない.一方,それらの間に位置するミッドレンジ・プロセッサについては,リアルタイム性の保証が難しい点を指摘し,現時点ではマルチコア技術の導入に懐疑的であることを説明した.「今後,コアが数百個搭載される時代が来たとき,ハード・リアルタイムの制約を満足するようなマルチコア技術を開発してほしい」(デンソーの石原氏).

●ARM社がGPUコアやグラフィックス・ライブラリを供給

 ARM社は,展示エリアにおいて,Maliプロセッサ・コアのデモンストレーションを披露した(写真4).Maliは,2006年7月に同社が買収したノルウェーFalanx Microsystems社の3次元グラフィックス・コアである.描画性能は600Mピクセル/s,12M~13Mポリゴン/s程度.OpenGL ES v2.0,OpenVG v1.0に対応したグラフィックス・ライブラリや解析ツールなども提供する.デモンストレーション用のシステムでは,ARMコアとMaliコアの間をAXI(Advanced Extensible Interface)やAHB(Advanced High-performance Bus)で接続したという.

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[写真4] Maliプロセッサ・コアのデモンストレーション
本GPUコアは,2006年7月にARM社が買収したノルウェーのFalanx Microsystems社が開発した.

 同社はこのほかに,Falanx社が開発した3次元グラフィックス用のミドルウェア「Swerve M3G」も提供する.3次元グラフィックスを生成するJavaプログラムを書くためのAPIを規定している.本ミドルウェアは,例えば3次元グラフィックス・コンテンツを携帯電話などに配信する用途などに向いているという.

●外部インターフェースの充実したARM9ボードを展示

 三洋LSIデザイン・システムソフトは,ARM926EJ-Sコア内蔵マイコン(三洋半導体のLC690132A)を搭載した開発用ボード「K-Board」を展示した(写真5).外部インターフェースとして,CCDカメラ・インターフェースやビデオ・インターフェース(NTSC/PAL,4チャネル),マイク/スピーカ・インターフェース,Ethernet(100Base-T)インターフェース,USB 1.1インターフェース(ホスト,ターゲット),RS-232-Cインターフェースを備える.オプションとして,SDカード・インターフェース基板とCompactFlashインターフェース基板も用意する.さらに,タッチ・パネル付き3.5インチ・カラー液晶ディスプレイやJTAGデバッガ,ミニUSBケーブル,電源ユニットが付属する.OSとして,Linux(カーネル2.6.20)を搭載する.価格は99,800円(税別).

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[写真5] K-Boardの外観
価格は99,800円(税別).外部インターフェースが充実していることを考えると,比較的安価.

 本開発用ボードは2007年9月から出荷を始めている.もともと三洋電機の社内教育用として開発したものを製品化した.例えばテレビ電話やテレビ会議システム,インターネット・ビデオ機器,監視カメラなどの開発に利用できるという.

●SMP OSとマルチコアに対応したJTAG ICEのデモを実施

 京都マイクロコンピュータは,LinuxカーネルのSMP(Symmetric Multi Processing)機能に対応したJTAG ICE「PARTNER-Jet SMP-Linux対応版」のデモンストレーションを紹介した(写真6).対応するマイコンは,マルチコア構成をとるARM,SH,AM34(松下電器産業製)の各プロセッサ.MIPSアーキテクチャへの対応も予定している.

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[写真6] LinuxのSMP機能に対応したPARTNER-Jetのデモンストレーション
右上の筐体がJTAG ICE,左下の基板がターゲット・ボード.

 SMP構成のコンピュータ・システムでは,各スレッド(タスク)を実行するCPUを,SMP対応OSのスケジューラが動的に決定する.つまり,スレッドを処理するCPUが時間とともに変化する.本JTAG ICEの場合,デバッガがSMP対応OSを監視しており,例えばスレッドに設定したブレークポイントがどのCPUの上で発生したかをデバッガが把握している.そのため,デバッグ対象のスレッドがCPUコア間を移動しても,ユーザはシングル・コアの場合と同じ操作感でデバッグを行えるという.

●500MHzでテストできるARM ETM対応トレース・プローブを展示

 日本ローターバッハは,500MHzのテスト周波数に対応できるARMプロセッサ向けのトレース・プローブ「AutoFoucus II」を展示した(写真7).ARMコアのETM(Embedded Trace Macrocell)を利用する.同社のステート・アナライザ「Power Trace II」と組み合わせて用いる.ETMとは,CPUコア内部の実行トレース情報を,専用のトレース・ポートを介して外部に取り出すための回路ブロックである.

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[写真7] AutoFoucus IIのデモンストレーション
京都マイクロコンピュータの「KZM-ARM11-01」.i.MX31のほか,128MバイトのMobile DDR DRAM(1.8V動作)や64MバイトのNOR型フラッシュ・メモリなどを搭載している.

 64のクロックと24のデータ遅延に対応する.分解能は78ps.本トレース・プローブはETMチャネルの信号品質をチェックする3次元アイ・ファインダ機能を備えている.これにより,タイミング誤差範囲が-1.8ns~+4.9ns,電圧範囲が0~3.3Vの全チャネルのデータ・アイを表示できる.全チャネルのデータ・アイを重ね合わせて表示することも可能.

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